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第二章:集落誕生?

まさかの巻き込まれ

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 ……遅い。

「うんうん! これ、とっても美味しいね!」

 …………遅い。

「まさかポロ芋からこんな美味しいお菓子が出来上がるとは思わなかったよ」

 ………………遅い!

「んだーっ! どうしてツヴァイルは戻ってこないんだ!」
「スー君はいったい何に怒っているんだい?」
「従魔のツヴァイルが戻ってこないんですよ!」
「ツヴァイルって……あー、シー君が言っていた神獣の事かな?」

 そういえば、リーレインさんは見た事がないかも。
 ……いや、あるか? ブレイレッジにみんなが到着した時には近くにいたけど、リーレインさんが見ていたかどうかは分からないな。

「そうです。美味しい匂いがしたらすっ飛んでくるはずなんですが、今日は姿を見せないんですよ」
「え、あげないよ?」
「それはリーレインさんのです。ツヴァイルには別で作ってますから」

 食い意地の張る人だなぁ。

「まあ、神獣は子供の個体でも強いわけだし、心配はいらないんじゃないかな? ルーちゃんやリーちゃんも一緒なんでしょう?」
「……リーちゃん?」
「魔王の娘ちゃんだよ。あの子も面白そうだったからリーちゃんって呼ぶことにしたんだー」

 魔王の娘のこうなったら形無しだな。いや、勇者の俺も似たようなものか。

「心配なら探しに行ったらどうだい?」
「いや、お客さんを置いてはいけないだろう」
「僕ならここでポロ芋チップスを食べておくよ」
「……いや、食べ終わったら出て行かすか、一緒に探しましょう」
「出て行かすって酷くないかな!? まあ、面白いからいいんだけどね!」

 何が面白いのかは理解できないものの、リーレインさんは急いでポロ芋チップスを食べてくれた。
 あれで一応は気を遣ってくれているんだろう……たぶん。

「それじゃあ……んぐ……行こう……の前に、水くれないかな?」
「……はぁ」

 そりゃあ口いっぱいに詰め込んだら喉も乾くってもんだよ!
 俺はさっさと水をリーレインさんに与えると、家を出てツヴァイルを探すことにした。
 ルリエやリリルと一緒のはずなんだが……大丈夫だろうか。

「あれ? スウェインにリーレインさん?」
「二人共どうしたの?」

 そんな事を考えていると、その二人から中央広場で声を掛けられた。

「ちょうどよかった。ツヴァイルは……って、一緒じゃないのか?」
「え? 私たちは一緒じゃないわよ?」
「スウェインと一緒だと思ってたんだけど?」
「……マジか」

 うーん、まさか迷子か?
 ここからだと何故か人界にも魔界にも行きたい放題だからなぁ。境にできるっていう透明の壁はどこに行ったんだか。

「リーレインさん。ここがずっと空虚地帯になっているのはどうしてなんですか?」
「え? それは当然、スー君のせいだよ?」
「……俺?」
「うん。勇者が境の壁を気にすることなく通る事ができるのは、そこを空虚地帯にしてしまうからなんだ。境近くでスー君が暮らすとなれば、そこは自ずと空虚地帯になるってことさ」
「え? スウェイン、もしかして知らなかったの?」
「あり得ないわー」

 リーレインさんの質問にリリルとルリエまで俺が知らなかったことに驚きの声を漏らす。
 ……すみませんね、知らなくて。

「こちとらいきなり勇者にさせられたわけで、そこら辺の常識なんて知らんわ!」
「子供でも知っている事よ?」
「へ、辺境の村の子供には伝わってないの!」
「はいはい! スウェインの常識知らずは置いといて」

 勝手に置いとくなよ!

「今はツヴァイルがどこに行ったのかを探るのが先決でしょう?」
「……まあ、そうだな」

 これがただの迷子なら問題はない。ツヴァイルは強いからな。
 だが、過去の経験から考えると、変な事に巻き込まれている可能性も否定はできないのだ。
 何故なら、過去にツヴァイルの体を介してとある存在と会話をしたことがあるからな。

「……リーレインさんは、ラクスラインを管理している女神に心当たりはあるか?」

 一番の博識だろうリーレインさんに質問をしたところ、ずっとニコニコと笑っていた表情が見た事の無いくらいの真顔に変わった。

「……スー君、それをどこで聞いたのかな?」
「……あー、えっと、ツヴァイルから?」
「神獣から?」

 もの凄い迫力にしどろもどろになってしまう。
 だが、ここで変に隠し立てをするのは良くない気がする。というか、女神の存在ってマジで問題しか引き起こさないな! マジで駄女神だろこれ!

「正確には、ツヴァイルの体を介して女神が話し掛けてきたんだ」

 そこで俺は賢者のエレーナが魔人化した時の話をリーレインさんに説明する。
 俺が勇者になってしまった経緯、そして無駄に多いスキル、そして女神の駄女神っぷりについてだ。
 ここでリーレインさんが女神を崇拝しているのであれば問題発言につながったかもしれないが、徐々に笑みが戻ってきているのでそうではないと思う。

「――という経緯があって、俺は女神の存在を知っているんですよ」
「そうだったんだね。いやー、威圧してごめんねー!」

 最終的には普段のリーレインさんに戻ってくれたが……いや、どっちが本当のリーレインさんなんだろうか。
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