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第二章:集落誕生?

集落の名前

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 その日の晩ご飯は、野菜尽くしとなった。
 ……リリルからもルリエからも、そしてツヴァイルからも非難の声が聞こえてきたが俺は完全無視である。

「お肉が食べたいです、スウェイン」
「そうだな。肉を所望するぞ」
「ガウガウ!」
「今日の野菜は最高の出来だからな。まあ、食べてみろよ」

 食べずにそんなことを言うなんて、まだまだだなぁ。
 俺の言葉に二人と一匹は顔を見合わせると、渋々口に運ぶ。
 お前たち、食べてからおかわりとか言われても絶対に食べさせないからな?

「――こ、これは!」
「――ふぬっ!」
「――ガフワンッ!!」

 ガフワンッ! ……ってなんだよ。

「お、美味しいですね!」
「これは、ヤバい美味さだな!」
「ガウッ! ガウガウッ!」

 ものすごい勢いで食べ始めたし、ツヴァイルに関してはもうおかわりかよ! 早いなあっ!

「……肉がいいんじゃないのか?」
「ガウンッ!? ……ガ、ガウゥゥン」
「……おいおい、贅沢だなぁ」

 まさか、野菜と肉の両方が欲しいとか、一番の大物はツヴァイルのようです。

「わ、私も、おかわりを!」
「私もおかわりだ!」
「……二人も肉がいいんだろう?」
「「ぐぬっ!? ……や、野菜でお願いします!」」

 うん、やっぱり大物はツヴァイルだね。
 ということで、二人には野菜のおかわりをよそい、ツヴァイルにだけは野菜に加えて肉をよそう。

「えぇっ!? ど、どうしてツヴァイルだけお肉があるのですか!」
「そ、そうだぞ! 私たちにはないのか、スウェイン!」
「生肉だけどいいのか?」
「ガウガウーン!」

 機嫌よくご飯を食べ始めたツヴァイルを羨ましそうに見つめる二人。
 ……いやいや、マジで生肉だから。魔獣の生肉なんて食べたら、腹壊すぞおい。

「……はぁ。とりあえず、ただ焼くだけだからな?」
「「ありがとう、スウェイン!!」」

 ……ま、まあ、女性に笑顔を向けられるのは嬉しい限りなので、少しだけ頑張って料理してみようか。
 とはいえ、ただ調味料を使って焼くだけなんだけどね。
 そして、調理が終わり肉を目の前に差し出すと、これまた一心不乱に食べ始めてしまった。
 ルリエに至っては、野菜と一緒に頬張ることで口内調理をこなしている。
 ……いや、それを真似しなくてもいいんだぞ、リリル。

「お肉の甘みと、野菜の甘みが合わさって、とても美味しくなりますね!」
「ふんぐっ! これは、ヤバさが倍増じゃないか!」
「おいおい、飲み込んでから喋れよ」
「ガウッ! ガウガウッ!」

 そしてツヴァイルはマジで早いから! またおかわりかよ! 収穫した野菜が全部なくなるだろうが!

「……お預けだ」
「ガウンッ!?」
「食べ過ぎだからな」
「……クゥゥン」
「「ツヴァイル……」」
「……お前たちの料理をツヴァイルに与えるなら許すけど?」
「「ごめんなさい、ツヴァイル」」
「ガウアンッ!?」

 うんうん、素直でよろしい。
 俺たちは空になった皿を舐め続けているツヴァイルの横で食事を終えると、洗い物まで終わらせてから少しだけ雑談に興じることにした。

「ここ一ヶ月はずっと集落にいるけど、やることがないのか?」
「その言い方は酷くありませんか?」
「そうだぞ、スウェイン。ここで暮らしているのだから、別にいいじゃないか」
「いやまあ、そうなんだけどさ」

 俺が一度も集落から外に出てないから、そう言われると返す言葉がない。
 ただ、二人は勝手に動いてロットさんたちを連れてきた前科があるからな。サイクロプスさんとインプさんご家族の時は事前に話は合ったけど、また誰かを連れてくるとかすると勝手に思っていたのだ。

「ねえ、スウェイン。ずっと思っていたんだけど、その集落って言い方、止めない?」
「なんで? 集落なんだから、集落でいいんじゃないか?」
「違うぞ、スウェイン。リリルが言っているのは、集落に名前を付けたらどうだって話だ」
「名前だって?」
「ガウゥン?」

 俺が首を傾げると、足元にいたツヴァイルもつられて傾げている。

「だって、呼び難くない? 私たちも、みんなにここの説明をする時に名前が無くて大変だったんだから」
「だったら、NとRの集落でいいんじゃないか?」
「それだと、人族のNが寄り付かないのでは? NはRにも迫害を受けてしまうのでしょう?」

 そう苦言を呈したのはリリルだ。
 リリルは魔族だが、人族の事情についても知っている。
 というか、人族がNを迫害しているのは誰もが知る事実なのだ。

「俺はなんだっていいけどなぁ。……っていうか、こんな話を出したってことは、何か候補があるんじゃないのか?」

 二人が俺に提案をする時点で、すでに話が進んでいる可能性が高い。……前科があるからな。

「うふふ。実は私たちの中ではこれっていう名前があります」
「というか、これ以外に浮かばなかった」
「何て名前なんだ?」

 何やら顔を見合わせて笑っているが……何故だろう、嫌な予感しかしないんだが。

「「名前は――勇者の集落、ブレイレッジ」」
「却下で」
「「なんでよ!」」
「勇者の集落とか、ダメだろ!」

 俺は隠れて暮らしているのだ。スローライフの妨げになりそうな名前を、わざわざ付ける意味が分からん!
 この後、しばらく言い合いを繰り返していたのだが、勇者の集落という言葉を使わなければいいんじゃないか、ということで落ち着き、ブレイレッジという名前に決まった……決まってしまったのだった。
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