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第一章:勇者誕生?
一息ついてください
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魔人を倒してから程なく、俺たちは俺の家にようやく帰ってきた。
本当ならボートピアズから日帰りで戻ってくる予定だったにもかかわらず、ここまでの大事を片付けての帰宅だ。
ゆっくりしたくもなるものの、リリルやルリエを放っておくわけにもいかずに仕方なく料理を作っている。
「……ツヴァイルも、もう少しだけ待ってろよ」
「ガウッ!」
ツヴァイルは足元で食事が今か今かと待ちきれない様子だ。
どうやらとてもお腹が空いているらしい。
まあ、あれだけの激闘を繰り広げた後なのだから、ツヴァイルだけではなく全員が空腹なのだが。
「――できたぞ」
「ガウッ! ガフッ、ガフガフッ!」
「……お前が一番飯かよ」
俺はツヴァイルの撫で心地の良い体毛をわしゃわしゃした後にテーブルへ料理を並べていく。
その量に驚いたのか、最初は唖然としていたルリエだったが、リリルが当然のように食べ始めたのを見ると一心不乱に食らいついていた。
「おいおい、まだまだあるから焦るなよ」
「ふぁ、ふぁだあるのふぁ――ぐふっ!?」
「だ、だから言っただろうが! とりあえず水だ!」
「んぐっ、んぐっ……ぷはあっ! ……す、すまない」
木のカップを力強くテーブルに叩きつけながらルリエが謝罪する。
……壊れなくて良かったよ、木のカップ。
「いや、いいんだが……そんなに美味いのか?」
「スウェインはこれがどれほど美味いのか分からないの!」
「分からないのって言われても、いつも食べてるからなぁ」
味付けもシンプルだし、野菜だってまだまだ改良の余地ありだし、特別美味いものを食べている実感はないんだよな。
「……まあ、戦いの後だから美味しく感じるんだろうな」
「そういうことにしておきましょう、ルリエさん」
「……はぁ。世間知らずとはこのことだな」
まあ、世間とはかけ離れてスローライフを送ることが目標ですからね。
というわけで、俺も席に着いて食事を始め、ある程度お腹が満たされたところで勇者になったいきさつを説明した。
当然ながら最初は驚きのあまりに質問攻めにあってしまったが、俺にも分からないことだらけなのだと伝えると渋々引き下がってくれた。
「しかし、本当にそんなことが起こるものなのか?」
「俺だって信じられなかったが、頭の中に色々と情報が……そうそう、ルリエが元勇者を殺した時の映像なんかも頭の中に流れてきたぞ」
「……そうなの?」
なんだ、突然頬を赤くしてしまったが、変なことでも言っただろうか。
「ちょっと待て、今思い出すから」
「お、思い出さなくていい! あれは、隙を突く為にわざとあんな格好をしたんだからな!」
「……あんな格好?」
リリルが首を傾げたところで、俺はルリエが元勇者を殺した時の映像を鮮明に思い出してしまった。
……おぉぅ……これは……セ、セクシー。
「……ルリエって、意外とスタイルが――」
「黙れ! 斬る、この場で斬ってやるぞ!」
「待て待て! 俺は褒めようとしただけ――」
「思い出すなー! 絶対に斬り捨ててやる!」
「止めろ! 俺は無罪だからな!」
しばらく言い合っていた俺とルリエだったが、ここでもリリルが手を叩いて口を開いた。
「はいはい! これで終わりにしなさいよね。スウェインも変なことをわざわざ口にしないの」
「……すみません」
「ルリエも裸を見られたくらいで怒らないの」
「は、裸じゃないわよ! あ、あれは、下着姿であって決して裸ではないわ!」
「だったらなおのことよ。下着姿の一つや二つ、減るものじゃないわ」
……リリルさん、意外と大人なんですね。
「それで? ルリエさんはスウェインが勇者だって信じることができそうなんですか?」
そして、すぐに話を戻す辺り会話慣れしている気がする。
俺は人との会話が苦手なので、とても頼りになりますよ。
「……まあ、ここまで状況証拠を出されたら、信じるしかないわよね」
「そうそう、それと魔人と戦っている最中に女神様と話したな」
「「……はい?」」
「それも、ツヴァイルと通して」
「……ガウ?」
二人はともかく、どうしてツヴァイルまで首を傾げるかな。もしかして、意識は止まっていたってことなのか?
「神獣っていうくらいだし、神様とつながっててもおかしくはないよな」
「いやいや、おかしいわよ!」
「リリルさんの言う通り! スウェイン、頭でも打ったの? 戦闘中もそんなことを言ってたけど、最初からバカだったの?」
「お前ら、酷過ぎるだろ!」
ここで、俺は女神様とのやり取りについても説明した。……まあ、駄女神だったけど。
「……信じられないわ」
「でも、あの場でデーモンスレイヤーを手にしていたことを考えると、それ以外にはあり得ないかも」
「だろ? 俺は嘘なんてつかないぞ!」
「……偽名に偽装スキル」
「ぐぬっ! ルリエ、意趣返しのつもりか!」
信じてもらえないのも理解できる。俺だって信じていいのか判断が付かないんだから。
だが、こうしてお互いに会話をしながら楽しく食卓を囲めているだけでも、信じてみる価値はある気がする。
――この後、ルリエが一泊するということで急ぎベッドを作ったのは言うまでもない。
「な、なんで俺がこんな雑用を……」
勇者っていったい、何なんだよ!
本当ならボートピアズから日帰りで戻ってくる予定だったにもかかわらず、ここまでの大事を片付けての帰宅だ。
ゆっくりしたくもなるものの、リリルやルリエを放っておくわけにもいかずに仕方なく料理を作っている。
「……ツヴァイルも、もう少しだけ待ってろよ」
「ガウッ!」
ツヴァイルは足元で食事が今か今かと待ちきれない様子だ。
どうやらとてもお腹が空いているらしい。
まあ、あれだけの激闘を繰り広げた後なのだから、ツヴァイルだけではなく全員が空腹なのだが。
「――できたぞ」
「ガウッ! ガフッ、ガフガフッ!」
「……お前が一番飯かよ」
俺はツヴァイルの撫で心地の良い体毛をわしゃわしゃした後にテーブルへ料理を並べていく。
その量に驚いたのか、最初は唖然としていたルリエだったが、リリルが当然のように食べ始めたのを見ると一心不乱に食らいついていた。
「おいおい、まだまだあるから焦るなよ」
「ふぁ、ふぁだあるのふぁ――ぐふっ!?」
「だ、だから言っただろうが! とりあえず水だ!」
「んぐっ、んぐっ……ぷはあっ! ……す、すまない」
木のカップを力強くテーブルに叩きつけながらルリエが謝罪する。
……壊れなくて良かったよ、木のカップ。
「いや、いいんだが……そんなに美味いのか?」
「スウェインはこれがどれほど美味いのか分からないの!」
「分からないのって言われても、いつも食べてるからなぁ」
味付けもシンプルだし、野菜だってまだまだ改良の余地ありだし、特別美味いものを食べている実感はないんだよな。
「……まあ、戦いの後だから美味しく感じるんだろうな」
「そういうことにしておきましょう、ルリエさん」
「……はぁ。世間知らずとはこのことだな」
まあ、世間とはかけ離れてスローライフを送ることが目標ですからね。
というわけで、俺も席に着いて食事を始め、ある程度お腹が満たされたところで勇者になったいきさつを説明した。
当然ながら最初は驚きのあまりに質問攻めにあってしまったが、俺にも分からないことだらけなのだと伝えると渋々引き下がってくれた。
「しかし、本当にそんなことが起こるものなのか?」
「俺だって信じられなかったが、頭の中に色々と情報が……そうそう、ルリエが元勇者を殺した時の映像なんかも頭の中に流れてきたぞ」
「……そうなの?」
なんだ、突然頬を赤くしてしまったが、変なことでも言っただろうか。
「ちょっと待て、今思い出すから」
「お、思い出さなくていい! あれは、隙を突く為にわざとあんな格好をしたんだからな!」
「……あんな格好?」
リリルが首を傾げたところで、俺はルリエが元勇者を殺した時の映像を鮮明に思い出してしまった。
……おぉぅ……これは……セ、セクシー。
「……ルリエって、意外とスタイルが――」
「黙れ! 斬る、この場で斬ってやるぞ!」
「待て待て! 俺は褒めようとしただけ――」
「思い出すなー! 絶対に斬り捨ててやる!」
「止めろ! 俺は無罪だからな!」
しばらく言い合っていた俺とルリエだったが、ここでもリリルが手を叩いて口を開いた。
「はいはい! これで終わりにしなさいよね。スウェインも変なことをわざわざ口にしないの」
「……すみません」
「ルリエも裸を見られたくらいで怒らないの」
「は、裸じゃないわよ! あ、あれは、下着姿であって決して裸ではないわ!」
「だったらなおのことよ。下着姿の一つや二つ、減るものじゃないわ」
……リリルさん、意外と大人なんですね。
「それで? ルリエさんはスウェインが勇者だって信じることができそうなんですか?」
そして、すぐに話を戻す辺り会話慣れしている気がする。
俺は人との会話が苦手なので、とても頼りになりますよ。
「……まあ、ここまで状況証拠を出されたら、信じるしかないわよね」
「そうそう、それと魔人と戦っている最中に女神様と話したな」
「「……はい?」」
「それも、ツヴァイルと通して」
「……ガウ?」
二人はともかく、どうしてツヴァイルまで首を傾げるかな。もしかして、意識は止まっていたってことなのか?
「神獣っていうくらいだし、神様とつながっててもおかしくはないよな」
「いやいや、おかしいわよ!」
「リリルさんの言う通り! スウェイン、頭でも打ったの? 戦闘中もそんなことを言ってたけど、最初からバカだったの?」
「お前ら、酷過ぎるだろ!」
ここで、俺は女神様とのやり取りについても説明した。……まあ、駄女神だったけど。
「……信じられないわ」
「でも、あの場でデーモンスレイヤーを手にしていたことを考えると、それ以外にはあり得ないかも」
「だろ? 俺は嘘なんてつかないぞ!」
「……偽名に偽装スキル」
「ぐぬっ! ルリエ、意趣返しのつもりか!」
信じてもらえないのも理解できる。俺だって信じていいのか判断が付かないんだから。
だが、こうしてお互いに会話をしながら楽しく食卓を囲めているだけでも、信じてみる価値はある気がする。
――この後、ルリエが一泊するということで急ぎベッドを作ったのは言うまでもない。
「な、なんで俺がこんな雑用を……」
勇者っていったい、何なんだよ!
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