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第一章:勇者誕生?

二人と一匹での食事ですよ

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 家に戻ってきた俺は、とりあえず食事の準備をすることにした。
 木魔法で食器を増やし、簡易的なテーブルとイスをパパっと作ってみせると彼女はとても驚いていた。

「すぐに作るので、座って待っていてください」
「何から何まで、本当にありがとう」

 お昼ご飯は時間を掛けて作るつもりだったが、それは晩ご飯に回してしまおう。
 散策の途中で採取した野草で酸っぱさを足したスープと、ピリ辛に味付けしたシャドウウルフの肉を盛りつける。
 しかし、彼女は目の前の料理を見て顔をしかめてしまう。

「ごめん、ここの森だと野菜とかは取れないんだ。野草はあるけど、野菜は絶賛栽培中なもんで」
「あっ! ち、違うんです! その、久しぶりの食事だったので、食べきれるか心配で」

 そういえば、風魔法で簡単に土や埃は落としてもらったけど、洋服なんかもボロボロだし、靴も逃げる途中で脱げたのか履いていない。
 相当長い時間を掛けてここまでやって来たのがそれだけでも分かってしまう。
 そして、風魔法を使う時に初めて面と向かって彼女を見たのだが……うん、めっちゃ美人さんだ。
 腰まで伸びるストレートの黒髪に、見つめていると吸い込まれてしまいそうな黒眼。
 体の線も出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでるし、正直に言うとめっちゃ好みである。

「……あ、あの?」
「あっ! ご、ごめん。えっと、スープでゆっくりと胃を刺激して、食べられる分だけ食べてください。もし食べきれなかったら俺が食べますし、自分が口を付けた料理を食べられるのが嫌ならツヴァイルが食べますから」
「ガウッ!」
「い、嫌じゃないわ! ……あの、本当に、ありがとう」
「さあ! とりあえず食べましょう!」

 俺がそう口にして手を叩くと、彼女は言われた通りに暖かなスープから口にして胃の中へ流し込んでいく。
 最初は少しずつ、そして徐々に飲む量が増えていくのが一目でわかるくらいにお椀を傾け始める。

「……はぁ……とても、美味しいわ」
「それはよかった」

 そして、肉の方にも手を付けてくれた。
 こちらも最初はほんの少しだけを切り分けて口に運んだのだが、味付けが好みだったのかその後からはがっつくように食べ進めていく。
 先ほどまでのおしとやかな雰囲気はどこへやらと思ったが、おそらくこれが本来の彼女の姿なのかと思えば特段おかしなところはない。
 初対面の、しかも男性を相手に隙を見せること自体あり得ないのだから。

「がうっ! わふっ! ……がうあっ!」

 ……えっと、さすがにがっつき過ぎでは? もう肉を手づかみしているその姿は男性だけではなく人に見せてはいけないような気もするんだが。

「……み、見てない、俺は何も見てない」

 そう言い聞かせながら、俺も食事を始めることにした。

 ――そして、30分後。

「……は、恥ずかしぃ……」
「あはは、まあ、お腹が空いてたんだから仕方がないのかな?」
「ガウ?」

 両手で顔を覆っている彼女の前に俺は水を注いだ木のカップを置く。
 ちなみに、彼女の両手は綺麗に洗い終わっております。

「……そ、そういえば! あの、お名前を伺ってもいいですか?」

 今さらなのだが、彼女の名前を聞いていなかった。
 森の中では助けることで頭が一杯だったし、お腹が鳴った後は料理のことで頭が一杯だったし、食事が始まるとあんなんだったし。

「……空腹ですっかり忘れていた! ほ、ほほほほ、本当にごめんなさい!」
「いやいや、そこはもういいですから」

 これでは話が進まないと思い空腹については横に置いておき、本題に入ることにした。

「わ、私の名前はリリル・サーティン・キングス。魔王の娘です」
「へぇー、リリルさんか。家名があるってことは貴族様? それに魔王の娘さんって……はあっ!? ま、魔王の娘!?」

 俺はガタンと音を立てながら立ち上がると壁際まで後退る。
 ……いやいやいやいや、待て待て待て待て、あり得ないだろう!

「……た、質の悪い嘘、ですよね?」
「……本当なんです」
「……マジで?」
「……マジです」

 ……どうやら、マジなようです。

「ちょっと待って、頭の中を整理させてもらっていいですか?」
「も、もちろんです!」

 えっと、どこから整理するべきか。
 ……俺の目の前にいるリリルは魔獣に襲われていた。だから助けたってのもあるんだけど、なんで魔王の娘が魔獣に襲われていたんだよ。というか、なんで魔界から人界にまで逃げてきたんだよ。
 そんでもって、俺の家に来てご飯を食べていると……いや、これは俺が招き入れたんだし整理する必要なしだな。
 ……あー、ダメだ。軽くパニックになってるわ。

「ガウ?」

 ……あれ、よくよく考えると、俺の家には勇者である俺と、神獣であるツヴァイルと、魔王の娘であるリリルがいるのか。

「……なんか、この家、ヤバくないか?」
「あの、どうかしましたか?」
「ガウ?」
「いや、なんでもありません」

 よ、よし! こうなったらあれだ、俺の平穏なスローライフを守る為に出て行ってもらおう!

「えっと、魔王の娘様」
「そ、そのような態度をしないでください!」
「俺……いや、私では貴方様のような凄い方を歓待できるはずもありませんので」
「私はあなたに助けて欲しいの!」
「速やかに魔王城へ引き返された方が」
「その魔王が、魔皇将軍の一人に裏切られて深手を負ってしまったんです!」

 だから、俺はそういう話を聞きたくなかったんだよおおおおっ!
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