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第二章:新たなる力、メガネ付き
第42話:それぞれの日常へ 6
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その後、男性陣が女性陣のところへ戻ると、明日香と夏希が楽しそうに会話をしている姿が飛び込んできた。
それを見てガゼルは不思議な安堵感を覚え、イーライは苦笑しながら軽く彼の背中を叩いて二人の下へ向かう。
「戻った」
「あっ! お疲れ様、イーライ!」
「ガゼルさん、狩りはどうでしたか?」
「あー……まあ、この辺りはほとんど魔獣が狩られていてな。遠くまで足を運んでみたが、一匹しか狩れなかった」
頭をガシガシと掻きながらそう口にしたガゼルだったが、そんな彼を見て夏希はニコリと微笑んだ。
「お疲れ様です」
「……お、おう」
「それじゃあ早速お昼にしましょう!」
「たった一匹の肉だ、この場で焼いて食べるのもありじゃないか?」
「調味料は持ってきているわよ?」
「……なんで持っているんだよ、お前は」
やや呆れ顔を浮かべたイーライだったが、明日香は満面の笑みを浮かべながら食事の準備を始めた。
結局、イーライも明日香のやることに文句を言うことはできず、似た者カップルになっていた。
サンドイッチを頬張りながら魔獣の肉に下味をつけて焼いていく。
普通は行儀が悪いと言われそうなところだが、ここは森の中であり、イーライもガゼルも冒険者なので食べながら何かをするということに抵抗はまったくない。
むしろ、時間を掛けて食事をすることの方が珍しかった。
「焼けたよー!」
「おっ! それじゃあこっちに肉を挟んで~」
「うふふ、楽しそうですね、ガゼルさん!」
「外で美味い飯を食う! ……冒険者をやっていると、そう何度もありつけることじゃないからなぁ」
「えぇ~? そうですか~?」
「……どうしたんだ、アスカ? 気持ちが悪いぞ?」
「ちょっとイーライ! 酷くないかなあ!」
腰に手を当てながら詰め寄ってきた明日香を見て、イーライに構うことなく魔獣の肉を挟んだサンドイッチをさらに頬張った。
何を言っても意味がないと思ったのか、明日香は小さくため息をついたあとにガゼルへ向き直った。
「だって、これからは夏希ちゃんが一緒にいるわけでしょう? 美味しいご飯がいつでも食べられるんじゃないかしら?」
「いや、それはないだろう。俺は冒険者稼業を続けるが、ナツキのお嬢さんにまで冒険者になれというつもりはないぞ」
「私は冒険者になっても構いません! ……でも、道具屋も続けさせてもらえると嬉しいですけど」
まさか冒険者になっても構わないと言われると思っていなかったのか、ガゼルは夏希の発言を聞いて驚いていた。
「いやいや! 冒険者なんてなるもんじゃねぇぞ? 安定した収入は見込めないし、移動も日常茶飯事だ。何よりも命の危険が付きまとうような職業、絶対にならねぇほうがいいって!」
「そうなんですか? ……でも、ガゼルさんと一緒ならそんなことはないですよね?」
「いや、可能性は低くなるだろうけど、それでもなぁ……」
「……ううん、違うかな。ガゼルさんと一緒なら、そうだったとしても関係ありません! 私は冒険者になります!」
真っすぐに見つめられ、ガゼルはどう答えるべきか迷ってしまった。
一緒にいられるのはもちろん嬉しい。しかし、自分の我がままを通した結果が夏希を危険に晒すことになるのであれば、我慢するべきではないのか。
しかし、それを夏希も望んでいるとなれば……と、頭の中は短い時間で多くのことを考えてしまう。
「……私もなろうかしら、冒険者」
「ダメだ」
「イーライは即答なのね」
「俺はまだまだ働き盛りだからな。危ない依頼も積極的にこなしていきたい。なら、アスカが一緒だと困る」
「メガネがあっても?」
「危険はなるべく避けるべきだからな」
二人のやり取りを聞いていたガゼルが同じことを口にしようとしたのだが――
「だが、ガゼルさんとナツキは別だろう」
「んなあっ! な、なんでだよ!」
「えっ? だって、ガゼルさんはそろそろ引退を考えているんでしょう? だったら、なるべく安全な依頼をこなしながら、ナツキとの時間を過ごせばいいじゃないですか」
「イーライ、ナイスよ!」
「アスカのお嬢さんまで。……はああぁぁぁぁ」
これ以上は何を言っても無駄だとわかったのか、ガゼルは大きなため息をついた。
「ガゼルさん……ダメ、ですか?」
そして、夏希の上目遣いが炸裂した途端――彼の思考は崩壊した。
「うぐっ!? …………はああぁぁぁぁ。わかった! だが、危険な依頼を受けなければならない時は絶対に連れていかないからな!」
「はい! ありがとうございます!」
こうして夏希とガゼルに良い落としどころが見つかり、カフカの森でのダブルデートは終わったのだった。
それを見てガゼルは不思議な安堵感を覚え、イーライは苦笑しながら軽く彼の背中を叩いて二人の下へ向かう。
「戻った」
「あっ! お疲れ様、イーライ!」
「ガゼルさん、狩りはどうでしたか?」
「あー……まあ、この辺りはほとんど魔獣が狩られていてな。遠くまで足を運んでみたが、一匹しか狩れなかった」
頭をガシガシと掻きながらそう口にしたガゼルだったが、そんな彼を見て夏希はニコリと微笑んだ。
「お疲れ様です」
「……お、おう」
「それじゃあ早速お昼にしましょう!」
「たった一匹の肉だ、この場で焼いて食べるのもありじゃないか?」
「調味料は持ってきているわよ?」
「……なんで持っているんだよ、お前は」
やや呆れ顔を浮かべたイーライだったが、明日香は満面の笑みを浮かべながら食事の準備を始めた。
結局、イーライも明日香のやることに文句を言うことはできず、似た者カップルになっていた。
サンドイッチを頬張りながら魔獣の肉に下味をつけて焼いていく。
普通は行儀が悪いと言われそうなところだが、ここは森の中であり、イーライもガゼルも冒険者なので食べながら何かをするということに抵抗はまったくない。
むしろ、時間を掛けて食事をすることの方が珍しかった。
「焼けたよー!」
「おっ! それじゃあこっちに肉を挟んで~」
「うふふ、楽しそうですね、ガゼルさん!」
「外で美味い飯を食う! ……冒険者をやっていると、そう何度もありつけることじゃないからなぁ」
「えぇ~? そうですか~?」
「……どうしたんだ、アスカ? 気持ちが悪いぞ?」
「ちょっとイーライ! 酷くないかなあ!」
腰に手を当てながら詰め寄ってきた明日香を見て、イーライに構うことなく魔獣の肉を挟んだサンドイッチをさらに頬張った。
何を言っても意味がないと思ったのか、明日香は小さくため息をついたあとにガゼルへ向き直った。
「だって、これからは夏希ちゃんが一緒にいるわけでしょう? 美味しいご飯がいつでも食べられるんじゃないかしら?」
「いや、それはないだろう。俺は冒険者稼業を続けるが、ナツキのお嬢さんにまで冒険者になれというつもりはないぞ」
「私は冒険者になっても構いません! ……でも、道具屋も続けさせてもらえると嬉しいですけど」
まさか冒険者になっても構わないと言われると思っていなかったのか、ガゼルは夏希の発言を聞いて驚いていた。
「いやいや! 冒険者なんてなるもんじゃねぇぞ? 安定した収入は見込めないし、移動も日常茶飯事だ。何よりも命の危険が付きまとうような職業、絶対にならねぇほうがいいって!」
「そうなんですか? ……でも、ガゼルさんと一緒ならそんなことはないですよね?」
「いや、可能性は低くなるだろうけど、それでもなぁ……」
「……ううん、違うかな。ガゼルさんと一緒なら、そうだったとしても関係ありません! 私は冒険者になります!」
真っすぐに見つめられ、ガゼルはどう答えるべきか迷ってしまった。
一緒にいられるのはもちろん嬉しい。しかし、自分の我がままを通した結果が夏希を危険に晒すことになるのであれば、我慢するべきではないのか。
しかし、それを夏希も望んでいるとなれば……と、頭の中は短い時間で多くのことを考えてしまう。
「……私もなろうかしら、冒険者」
「ダメだ」
「イーライは即答なのね」
「俺はまだまだ働き盛りだからな。危ない依頼も積極的にこなしていきたい。なら、アスカが一緒だと困る」
「メガネがあっても?」
「危険はなるべく避けるべきだからな」
二人のやり取りを聞いていたガゼルが同じことを口にしようとしたのだが――
「だが、ガゼルさんとナツキは別だろう」
「んなあっ! な、なんでだよ!」
「えっ? だって、ガゼルさんはそろそろ引退を考えているんでしょう? だったら、なるべく安全な依頼をこなしながら、ナツキとの時間を過ごせばいいじゃないですか」
「イーライ、ナイスよ!」
「アスカのお嬢さんまで。……はああぁぁぁぁ」
これ以上は何を言っても無駄だとわかったのか、ガゼルは大きなため息をついた。
「ガゼルさん……ダメ、ですか?」
そして、夏希の上目遣いが炸裂した途端――彼の思考は崩壊した。
「うぐっ!? …………はああぁぁぁぁ。わかった! だが、危険な依頼を受けなければならない時は絶対に連れていかないからな!」
「はい! ありがとうございます!」
こうして夏希とガゼルに良い落としどころが見つかり、カフカの森でのダブルデートは終わったのだった。
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