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第二章:新たなる力、メガネ付き
閑話:事後処理
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岳人、そして気を失ったままの冬華と凜音は負傷した騎士たちと共に城へと戻っていった。
夏希はガゼルが背負い、明日香とイーライと共に戻っていく。
冒険者たちは縄張りを追われて森の外に出てきた魔獣が王都に向かわないよう、魔獣狩りを継続させている。
その場に残ったアルたちは騎士団に指示を出してラクシアの森の中の調査に当たった。
「カミハラ様は間者を殺したと言っていたが、実際のところはわからないからな」
「そうですね。疑うわけではありませんが、相手が本当に死んでいたのか、仲間がいた可能性もありますからね」
「私も同感です」
アルの言葉にリヒトとダルトも同意を示す。
周囲に散開していった騎士たちを見送りながらも、彼らも多少なり傷を負っている。
長時間の調査は難しいと思いながらも、問題が起きた直後にしか見つけられないこともあるだろうと、今回の調査を決断していた。
「日が落ちる前には戻る予定だが……何か見つかってくれるのを祈るばかりだな」
小さく息を吐き出しながら下を向いた。
「……ん?」
「どうしましたか、アルフォンス様?」
ふと、視線の先に見つけたものが気になり声が漏れた。
リヒトも声を掛けながらアルの視線の先を見ると、そこには漆黒の何かが転がっていた。
「……アル様は少し下がっていてください」
「殿下、私の後ろへ」
「わかった。気をつけろよ」
アルが見つけた漆黒の何か、それは岳人の体内に取り込まれていた魔石のように見えた。
リヒトも身内しかいない場所でしか口にしない呼び方でアルの名前を呼び、漆黒の魔石へと近づいていく。
そして、手を伸ばし――掴み取った。
「……何も、起きませんね?」
「……そのようで、ございますな」
「……だが、警戒するに越したことはないだろう」
アルの言葉を受けて、リヒトは内ポケットに入れていた布で漆黒の魔石を包み、魔力封じの印が刻まれた小瓶に入れる。
「リヒト殿、いったいどこにそのようなものを入れていたのだ?」
「何が起きるかわかりませんからね。常に内ポケットに忍ばせているんですよ」
「……あの戦闘の中で、よく割れなかったものだなぁ」
「耐久性を上げる印も刻んでいますから」
「……そ、そうか」
納得していいものかと思案したダルトだったが、何を言っても言い返される未来しか見えず、口を閉ざすことにした。
「これが、ガクト様を魔獣化させた原因であるなら、いったいなんなのでしょうか?」
「わからないが、それを調べるのが私たちの務めになるだろうな」
「彼らからも話を聞く必要があるだろうなぁ」
三人で腕組みをしながら考えていると、リヒトがボソリと呟いた。
「……アスカ様のメガネで見てもらうというのはどうでしょうか?」
「それはダメだ!」
リヒトの言葉に即答を示したのはアルだった。
「どうしてですか、殿下? アスカ殿のメガネであれば、私たちではわからない情報を得られるかもしれないのですぞ?」
「それはわかっている。それに、きっとヤマト様も協力を惜しまないだろう。だが……それで彼女が危険に晒される可能性がないとはいえないだろう」
「うむむ、それはそうですねぇ……」
「では、私たちが調べられるところまで調べ、それで解決すればよし。しかし、そうでなければお力を借りる、それでいかがでしょうか?」
「だがなぁ……」
「殿下」
今まで柔和な声でやり取りをしていたダルトだが、この瞬間だけは低く重い声音で呼び掛けた。
「……なんだ、ダルト?」
「あなたは勇者召喚の責任者でもあり、アスカ殿たちを守りたい気持ちもわかります。ですが、その前にあなたはマグノリア王国の第一王子でございます。この国に危機が迫っているのであれば、その解決を最優先に考えることも時には必要かと存じます」
厳しめの言葉ではっきりと口にされ、アルは口を噤んでしまう。
「それに、私たちはアスカ殿も含め、召喚した者たちの力を借りる前提だったではありませんか。危険だからと彼ら彼女らを遠ざけるのは、本末転倒ではありませんかな?」
「それは……まあ、そうだが……」
「ご理解いただけて幸いでございます。では、そろそろ騎士たちも戻ってくる頃合いでしょうから、帰還する準備を始めましょう」
「お、おい! 私はまだ理解したわけでは――」
「がははははっ! 準備を急ぎましょう!」
有無を言わせず、ダルトは大声で笑いながら歩き出してしまった。
「……リヒト、お前がヤマト様の名前を出したからだぞ?」
「そうですが、ダルト様の仰ることも間違いはないかと」
「……図ったな?」
「はい。私もダルト様と意見は同じですからね」
「あっ、おい!」
そう口にしたリヒトも、帰り支度をするために歩き出す。
「……はぁ。わかっているさ、私だってな」
――結局、戻ってきた騎士たちからは有用な情報はなく、アルたちは漆黒の魔石だけを持ち帰ることになったのだった。
夏希はガゼルが背負い、明日香とイーライと共に戻っていく。
冒険者たちは縄張りを追われて森の外に出てきた魔獣が王都に向かわないよう、魔獣狩りを継続させている。
その場に残ったアルたちは騎士団に指示を出してラクシアの森の中の調査に当たった。
「カミハラ様は間者を殺したと言っていたが、実際のところはわからないからな」
「そうですね。疑うわけではありませんが、相手が本当に死んでいたのか、仲間がいた可能性もありますからね」
「私も同感です」
アルの言葉にリヒトとダルトも同意を示す。
周囲に散開していった騎士たちを見送りながらも、彼らも多少なり傷を負っている。
長時間の調査は難しいと思いながらも、問題が起きた直後にしか見つけられないこともあるだろうと、今回の調査を決断していた。
「日が落ちる前には戻る予定だが……何か見つかってくれるのを祈るばかりだな」
小さく息を吐き出しながら下を向いた。
「……ん?」
「どうしましたか、アルフォンス様?」
ふと、視線の先に見つけたものが気になり声が漏れた。
リヒトも声を掛けながらアルの視線の先を見ると、そこには漆黒の何かが転がっていた。
「……アル様は少し下がっていてください」
「殿下、私の後ろへ」
「わかった。気をつけろよ」
アルが見つけた漆黒の何か、それは岳人の体内に取り込まれていた魔石のように見えた。
リヒトも身内しかいない場所でしか口にしない呼び方でアルの名前を呼び、漆黒の魔石へと近づいていく。
そして、手を伸ばし――掴み取った。
「……何も、起きませんね?」
「……そのようで、ございますな」
「……だが、警戒するに越したことはないだろう」
アルの言葉を受けて、リヒトは内ポケットに入れていた布で漆黒の魔石を包み、魔力封じの印が刻まれた小瓶に入れる。
「リヒト殿、いったいどこにそのようなものを入れていたのだ?」
「何が起きるかわかりませんからね。常に内ポケットに忍ばせているんですよ」
「……あの戦闘の中で、よく割れなかったものだなぁ」
「耐久性を上げる印も刻んでいますから」
「……そ、そうか」
納得していいものかと思案したダルトだったが、何を言っても言い返される未来しか見えず、口を閉ざすことにした。
「これが、ガクト様を魔獣化させた原因であるなら、いったいなんなのでしょうか?」
「わからないが、それを調べるのが私たちの務めになるだろうな」
「彼らからも話を聞く必要があるだろうなぁ」
三人で腕組みをしながら考えていると、リヒトがボソリと呟いた。
「……アスカ様のメガネで見てもらうというのはどうでしょうか?」
「それはダメだ!」
リヒトの言葉に即答を示したのはアルだった。
「どうしてですか、殿下? アスカ殿のメガネであれば、私たちではわからない情報を得られるかもしれないのですぞ?」
「それはわかっている。それに、きっとヤマト様も協力を惜しまないだろう。だが……それで彼女が危険に晒される可能性がないとはいえないだろう」
「うむむ、それはそうですねぇ……」
「では、私たちが調べられるところまで調べ、それで解決すればよし。しかし、そうでなければお力を借りる、それでいかがでしょうか?」
「だがなぁ……」
「殿下」
今まで柔和な声でやり取りをしていたダルトだが、この瞬間だけは低く重い声音で呼び掛けた。
「……なんだ、ダルト?」
「あなたは勇者召喚の責任者でもあり、アスカ殿たちを守りたい気持ちもわかります。ですが、その前にあなたはマグノリア王国の第一王子でございます。この国に危機が迫っているのであれば、その解決を最優先に考えることも時には必要かと存じます」
厳しめの言葉ではっきりと口にされ、アルは口を噤んでしまう。
「それに、私たちはアスカ殿も含め、召喚した者たちの力を借りる前提だったではありませんか。危険だからと彼ら彼女らを遠ざけるのは、本末転倒ではありませんかな?」
「それは……まあ、そうだが……」
「ご理解いただけて幸いでございます。では、そろそろ騎士たちも戻ってくる頃合いでしょうから、帰還する準備を始めましょう」
「お、おい! 私はまだ理解したわけでは――」
「がははははっ! 準備を急ぎましょう!」
有無を言わせず、ダルトは大声で笑いながら歩き出してしまった。
「……リヒト、お前がヤマト様の名前を出したからだぞ?」
「そうですが、ダルト様の仰ることも間違いはないかと」
「……図ったな?」
「はい。私もダルト様と意見は同じですからね」
「あっ、おい!」
そう口にしたリヒトも、帰り支度をするために歩き出す。
「……はぁ。わかっているさ、私だってな」
――結局、戻ってきた騎士たちからは有用な情報はなく、アルたちは漆黒の魔石だけを持ち帰ることになったのだった。
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