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第二章:新たなる力、メガネ付き
第34話:神原岳人 10
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『――ごぼあっ!?』
「よしっ!」
ブルーシャボンの中を水で満たし、それを岳人の顔に顕現させたことで、一瞬ではあるが呼吸を止めることに成功した。
すぐに割られてしまったが、それでも一瞬だが稼ぐことのできた時間は貴重なものだった。
『がはっ! ごほっ! ……て、てめえっ! ぶっ殺してや――』
「シルフブレイド!」
『ぐがあっ!! て、てめえっ!!』
切れ味を極限まで引き上げたイーライの一閃が、岳人の堅い皮膚を切り裂いた。
ドロリとどす黒い血が傷口から溢れ出てくる。
「これで終わりじゃないぞ!」
「どっせええええいっ!」
「こっちもいるぜっ!」
『てめえらまで、いつの間に!』
魔力暴走による暴風はすでに収まっていた。
明日香と夏希に掛かりっきりになっていたせいで気づいておらず、岳人は完全に奇襲を受ける形となる。
「ダークアイ!」
『くそっ! また視界が!』
そこへリヒトの視覚阻害魔法が放たれると、悪態をつきながら腕を振り回した。
冷静さを欠いている岳人は最初の時のようにダークアイの効果を消滅させるまで頭が回らない。
さらに言えば、魔力暴走によって多少なり肉体にダメージが残っていた岳人は、僅かな焦りを覚えていた。
「夏希ちゃん! 大丈夫?」
「……は、はい。なんとか、大丈夫です」
「これ、飲んで」
「あ、ありがとうございます」
明日香が手渡したマジックポーションは、中級のものだった。
一気に飲み干した夏希の顔色が徐々に良くなり、明日香はホッと胸を撫で下ろす。
「……このマジックポーション、すごいですね」
「ジジさんから特別に貰った素材で作った中級マジックポーションなの」
「そうなんですか? そんな貴重なものを私なんかが飲んでしまってよかったんですか?」
「夏希ちゃんだからだよ。それに、今使わないでいつ使うんだって話だよね」
ニコリと微笑みながらそう口にした明日香を見て、夏希も思わず笑みを浮かべる。
「このまま一気にいこう、夏希ちゃん!」
「わかりました! 聖女の加護!」
岳人が押されているのを見た明日香が声をあげると、夏希も呼応して聖女の加護に回復した魔力を注ぎこんでいく。
イーライたちのバフがさらに強力になり、動きの鋭さが増していく。
『くそったれが! 俺様は最強なんだ! 俺様が勇者なんだ、主人公なんだようっ!』
徐々に追い込まれていく岳人は悪態をつきながら、自分こそが主人公なのだと声高に宣言する。
「私たちはあなたを勇者として召喚した。しかし、人としての道を踏み外した時点で、あなたはこの世界の悪になったのだ!」
『うるせえっ! これが俺様なんだよう! これが――最強の勇者なんだ!』
「我々が作ってしまった汚点は、我々が注いでくれよう!」
『やれるもんなら、やってみやがれ!』
岳人の怒りが頂点に達した。
拳を握りしめて大きく振り抜く。
咆哮をあげながら暴れまわるその姿は、まさに魔獣そのものだった。
これが闇に染まった者の末路かと、呼び出したアルは自らを戒めるために彼の姿を心に刻み込む。
魔力暴走から明らかに動きが悪くなった岳人と、聖女の加護によって動きが良くなっていく自分たちを比べながら、この戦いも終盤に差し掛かったなとアルは見ていた。
『くそぅ……くそ、くそっ! くそったれがあっ!!』
このままでは自分が殺されると判断した岳人は、もう一度魔力暴走を誘発させたあとに一時撤退をしようと決断を下す。しかし――
『絶対に、生き残ってみせ――!?』
急に声が出なくなった。
声だけではなく、視界が大きく歪み、呼吸も苦しくなってくる。
何が起きたのか全く理解できず、岳人は首を押さえながらその場に両膝をついた。
『ぐがっ! が……ぐがああああぁぁっ!?』
「……な、なんだぁ?」
理解できないのはアルたちも同じだった。
思わず声を漏らしたのはガゼルだったが、その声に答える者はいない。
「……終わったみたいだよ」
そこで口を開いたのは、明日香だった。
「よしっ!」
ブルーシャボンの中を水で満たし、それを岳人の顔に顕現させたことで、一瞬ではあるが呼吸を止めることに成功した。
すぐに割られてしまったが、それでも一瞬だが稼ぐことのできた時間は貴重なものだった。
『がはっ! ごほっ! ……て、てめえっ! ぶっ殺してや――』
「シルフブレイド!」
『ぐがあっ!! て、てめえっ!!』
切れ味を極限まで引き上げたイーライの一閃が、岳人の堅い皮膚を切り裂いた。
ドロリとどす黒い血が傷口から溢れ出てくる。
「これで終わりじゃないぞ!」
「どっせええええいっ!」
「こっちもいるぜっ!」
『てめえらまで、いつの間に!』
魔力暴走による暴風はすでに収まっていた。
明日香と夏希に掛かりっきりになっていたせいで気づいておらず、岳人は完全に奇襲を受ける形となる。
「ダークアイ!」
『くそっ! また視界が!』
そこへリヒトの視覚阻害魔法が放たれると、悪態をつきながら腕を振り回した。
冷静さを欠いている岳人は最初の時のようにダークアイの効果を消滅させるまで頭が回らない。
さらに言えば、魔力暴走によって多少なり肉体にダメージが残っていた岳人は、僅かな焦りを覚えていた。
「夏希ちゃん! 大丈夫?」
「……は、はい。なんとか、大丈夫です」
「これ、飲んで」
「あ、ありがとうございます」
明日香が手渡したマジックポーションは、中級のものだった。
一気に飲み干した夏希の顔色が徐々に良くなり、明日香はホッと胸を撫で下ろす。
「……このマジックポーション、すごいですね」
「ジジさんから特別に貰った素材で作った中級マジックポーションなの」
「そうなんですか? そんな貴重なものを私なんかが飲んでしまってよかったんですか?」
「夏希ちゃんだからだよ。それに、今使わないでいつ使うんだって話だよね」
ニコリと微笑みながらそう口にした明日香を見て、夏希も思わず笑みを浮かべる。
「このまま一気にいこう、夏希ちゃん!」
「わかりました! 聖女の加護!」
岳人が押されているのを見た明日香が声をあげると、夏希も呼応して聖女の加護に回復した魔力を注ぎこんでいく。
イーライたちのバフがさらに強力になり、動きの鋭さが増していく。
『くそったれが! 俺様は最強なんだ! 俺様が勇者なんだ、主人公なんだようっ!』
徐々に追い込まれていく岳人は悪態をつきながら、自分こそが主人公なのだと声高に宣言する。
「私たちはあなたを勇者として召喚した。しかし、人としての道を踏み外した時点で、あなたはこの世界の悪になったのだ!」
『うるせえっ! これが俺様なんだよう! これが――最強の勇者なんだ!』
「我々が作ってしまった汚点は、我々が注いでくれよう!」
『やれるもんなら、やってみやがれ!』
岳人の怒りが頂点に達した。
拳を握りしめて大きく振り抜く。
咆哮をあげながら暴れまわるその姿は、まさに魔獣そのものだった。
これが闇に染まった者の末路かと、呼び出したアルは自らを戒めるために彼の姿を心に刻み込む。
魔力暴走から明らかに動きが悪くなった岳人と、聖女の加護によって動きが良くなっていく自分たちを比べながら、この戦いも終盤に差し掛かったなとアルは見ていた。
『くそぅ……くそ、くそっ! くそったれがあっ!!』
このままでは自分が殺されると判断した岳人は、もう一度魔力暴走を誘発させたあとに一時撤退をしようと決断を下す。しかし――
『絶対に、生き残ってみせ――!?』
急に声が出なくなった。
声だけではなく、視界が大きく歪み、呼吸も苦しくなってくる。
何が起きたのか全く理解できず、岳人は首を押さえながらその場に両膝をついた。
『ぐがっ! が……ぐがああああぁぁっ!?』
「……な、なんだぁ?」
理解できないのはアルたちも同じだった。
思わず声を漏らしたのはガゼルだったが、その声に答える者はいない。
「……終わったみたいだよ」
そこで口を開いたのは、明日香だった。
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