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第二章:新たなる力、メガネ付き

第29話:神原岳人 5

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「――セイントレイ」

 何者かの声が明日香の耳に届いたと思った瞬間、彼女の背後から光の筋が幾重にも通り過ぎて岳人へ殺到していく。

『グゲゲギギャアアアアアアアアァァッ!?』

 セイントレイの全てが岳人に命中して血しぶきが舞い上がる。
 何が起きたのかすぐには理解できず、明日香は超えのした方へ視線を向けた。
 声音は間違いなく聞き覚えのあるものだったが、まさかという思いも存在していた。
 何故なら、明日香が思い描いていた声の主は、この国の王子様なのだから。

「……ア、アル様?」
「ヤマト様!」

 駆けつけたアルは明日香をギュッと抱きしめ、彼女の無事を確かめている。
 その瞬間、イーライは胸の奥にズキッと痛みのようなものを感じたが、目の前の敵を倒す必要があるとすぐに忘れることにした。

「ご無事ですか、ヤマト様?」
「は、はい。ありがとうございます、アル様」
「あぁ、本当によかった。……それで、あの魔獣はいったいなんなのですか?」
「あっ! あ、あれは、岳人君です!」
「……なん、だと?」

 あまりの驚きにアルは視線をすぐに岳人の方へと向ける。
 セイントレイにより体中に穴が開いていたのだが、その傷はすでに塞がっている。

「なんだ、この異常なまでの再生能力は?」
「私たちにも何がなんだか。ただ、冬華ちゃんと鈴音ちゃんは元に戻すことができましたが、岳人君だけは元に戻す方法がメガネでもわからないんです」
「ということは、そっちの二人も魔獣になっていたのか」

 僅かに視線を下へ向けたアルは、倒れている二人を見た。

『……キ、キサマアアアアァァッ! アルディアアアアアアアアァァン!!』
「……私の名前を、気安く呼ぶな!」

 腰の剣を抜き放ち、剣先を岳人へ向ける。

「ヤマト様。カミハラ様がこのような姿になってしまったのは、我々の責任でもある。元に戻すことが不可能であれば、私たちが始末をつけるべきでしょう」
「で、でも!」
「わかっています。彼もヤマト様と同郷の者。それを私たちの勝手に巻き込んでおいてその命を奪うのですから、恨まれて当然。ですが……それを気に病み、ヤマト様に危険が及ぶということであれば、私は全ての責任を負う覚悟ができております!」
『キサマガイナケレバ……キサマサエイナケレバアアアアァァッ!』

 咆哮をあげながら飛び掛かってきた岳人。
 しかし、それをまた別の人物が許しはしなかった。

「――アイスプリズン」

 蒸し暑いほどの森の中だが、そこに突如として氷の檻が顕現した。
 アイスプリズンは前進を始めた岳人をその檻に閉じ込めると、漆黒の外皮を凍りつかせていく。

「殿下。勝手に飛び出さないでください」

 アルが姿を見せたその先から、緑髪の見知った人物が右手を突き出した姿で現れた。

「リ、リヒト様まで!」
「ご無事で何よりです、アスカ様」
「ヤマト様のピンチだったのだ、仕方がないだろう」
「それはそうですが、御身も大事になさってくださいね」
「そ、そうですよ、アル様! あなたは第一王子様なんですからね!」

 明日香にまでそう言われてしまい、アルはこれ以上文句を言えなくなってしまう。
 そうしている間にも岳人の体は徐々に凍りついていき、外皮だけではなくその内側にまで冷気が浸透していく。
 だが、これで倒れるほど今の岳人は柔ではなかった。

『……ギギギ、ギギギギガアアアアアアアアァァアアァァッ!』

 地面を吹き飛ばした魔法が、岳人を中心に周囲へと放たれていく。
 爆発が起きるたびに氷の檻が大きく揺れ動き、数秒後には大きくひびが広がった。

「皆さん、離れてください!」

 リヒトの声を受けて、全員が距離を取る。
 イーライは明日香の下へ、ガゼルは夏希を抱えてダルトと共に逆側へ。
 直後には氷の檻が粉砕されて冷たい空気が一帯を包み込んでいく。
 すでに息も絶え絶えの岳人だが、その瞳に含まれている怒気は今もなお健在であり、むしろ最初の時に比べてより濃い怒りが噴き出しているようにも見えた。

『……ナツキィ……ダルトォ……アルディアアアアアアアアンッ! ココニイルヤツラハ、ゼンインブッコロシテヤルゾオオオオオオオオオォォッ!!』

 大咆哮をあげると共に、岳人の肉体に変化が生じた。
 漆黒の外皮に隠れていただろう漆黒の魔石が胸部に露出すると、それが周囲に漂っていた魔力の残滓を吸収し始めたのだ。
 内側から肉体が膨れ上がり、一瞬のうちに二回りほど大きくなった。

「まさか、進化しているのか!」
「ダルト! 一気に片を付けるぞ! リヒトとイーライも援護しろ!」
「「「はっ!」」」

 アルが指示を飛ばして一気に前へ出る。
 セイントレイも、アイスプリズンも、二人が全力で放った魔法だった。
 それでも仕留めきれなかった岳人がこれ以上強くなるのは、この場での全滅もあり得るとアルは瞬時に判断したのだ。

『――遅い』

 先ほどまでの聞き取り辛い発声とは異なり、まるで今までの岳人と同じような発音でそう言い放たれると――ものすごい衝撃波が周囲へと放たれてアルたちは吹き飛ばされた。
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