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第二章:新たなる力、メガネ付き

閑話:予期せぬ展開へ

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「――……失敗だったが、収穫もあったか」

 冬華と凜音が倒されていくのを遠目から眺めていた外套の男性は、肩を竦めながら木の上から下へ降りた。
 着地した先では一人の男性が覇気のない顔で立ち尽くしており、外套の男性が歩き出すとフラフラとした足取りでついていく。

「……ぁ……ぁぁ……ぁー……」
「そうそう、その調子だ、ガクト」

 外套の男性が言う通り、覇気のない男性は岳人であり、怒声を響かせていた時の姿は影も形も存在していない。
 まるで死人であるかのように、ただフラフラと外套の男性を追い掛けて足を動かしている。

「それにしても、不完全だったとはいえあの二人が倒されるとはな。それだけは予想外だった」

 漆黒の魔石の煙を浴びた人間が魔獣化するという実験。それを外套の男性は行っていた。
 最初は魔獣から始まり、活性化が起きた。
 そして今度は人間へと実験が進み、そして成功を収めた。
 その者が持っていた力が何倍にも増幅し、凶暴化して周りの生物へ襲い掛かる。
 もちろん、主である外套の男性が襲われることはない。漆黒の魔石には自我があり、主となるべき存在を理解しているからだ。
 だが、主以外の存在にはお構いなしに襲い掛かっていく。それが人間であれ、魔獣であれ。

「活性化した魔獣にまで襲い掛かっては意味がない。こちらでコントロールできるよう、改善が必要だな」

 課題を口にしながら歩いていると、突然岳人の足が止まった。

「……はぁ、またか」

 忌々しそうに呟いて振り返った外套の男性は、覇気のない岳人の目を真っすぐに見つめて魔力を放出する。

「私についてきなさい。あなたは私の奴隷なのだから」
「……ぁ……ぁぁ……ぁー……」

 代り映えしない呻き声を漏らしながら、岳人は再び足を前に進めていく。
 その様子に小さくため息をつきながら、外套の男性はこめかみを軽く指で押さえた。

「全く。洗脳魔法は精神的にきつい。それも、魔獣化する一歩手前の奴だから特にだ」

 軽い頭痛を覚えながら、外套の男性は少しずつ明日香たちから離れていく。
 森から出ていった魔獣もそろそろ討伐される頃だろう。そうなれば冒険者だけではなく、騎士団の人間も集まってくるだろう。

「貴重な実験体を失うわけにはいかないからな。まあ、危なくなれば私だけでも逃げるがな」

 そんなことを口にしながら進んでいると、再び岳人の足が止まった。

「……全く。本当に頼むぞ、貴様――ぐがあっ!?」

 またかと苛立ちながら振り返った外套の男性だったが、突如として首を掴まれて苦悶の声を漏らした。

「ぐぅぅ……き、きさまぁ……何を、している!」
「……ぁぁ……お、おれは……だれだ? きさまは……だれ、だ?」
「……自我が、戻っているのか……があっ!」

 混乱しながらも僅かに意識を取り戻した岳人は、右手で外套の男性の首を鷲掴みにして軽々と持ち上げていた。
 普段の岳人であればできない芸当だが、漆黒の魔石によって魔獣化が始まっている今では容易なことだ。

「ぐぅ……は、離せ……」
「お、おれは……おれ……おで……でで……デゲゲ……ゲゲゲゲギャアアアアァァッ!!』

 なんとか自我を、そして人型を保っていた岳人だったが、その均衡がついに崩れた。
 魔獣と同じ咆哮をあげ、顏が歪み、骨が肉と皮を貫くほどに進化を遂げ、全身が肥大していく。
 外套の男性の首を掴んでいる右手も何倍も大きく変貌すると、グッと力が込められた。

「があっ!? ……しかたが、ないか……は、爆ぜろ!」

 外套の男性が魔法を発動すると、岳人の足元で大きな爆発が起きた。
 自爆に等しい距離だったが、命には代えられない。
 黒煙が立ち昇る中、外套の男性が左足を失いながら転がり出てきた。

「ごほっ、ごほっ! ……くそったれが!」

 大木を背になんとか立ち上がると、青ざめた顔でその場から離れようと試みる。しかし――

「ぐはっ!」
『……ァァ……ゲハッ! ニガサ、ナイ!』
「……この……化け物、め……がはっ!」

 背後から伸びてきた職種によって心臓を貫かれた外套の男性は、大量の血を吐き出しながらその場に倒れた。

『……クラウ……クラウゾ……クラッテヤルゾオオオオォォッ! ナツキイイイイィィッ!!』

 深い憎悪が込められた怨嗟の声が、ラクシアの森に響き渡った。
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