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第二章:新たなる力、メガネ付き
第24話:ラクシアの森 6
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急いで駆けつけた二人は、微かに息をしている姿を見てホッと胸を撫で下ろす。
「夏希ちゃんは冬華ちゃんを見ていてちょうだい!」
「あ、明日香さんは?」
「私はイーライと一緒にガゼルさんのところに行くわ!」
「砕いた何かの場所を教えてくれ、アスカ!」
このまま凜音を助けるには明日香の助けが必要だとわかっていたイーライが声を掛ける。
明日香もそのつもりだったのですぐに立ち上がる。
「気をつけてください! まだ――岳人さんがどこかにいるんです!」
「「――!!」」
夏希の言葉を受けて、二人はすぐに周囲へ視線を巡らせた。
イーライは気配を探り、明日香はメガネで捉えられないかと首を振る。
しかし、岳人の存在を確認することは出来なかった。
「……近くには、いないの?」
「わからん。だが、警戒しておいていいだろうな」
「そうだね。夏希ちゃん、ポーションは持ってる?」
「持ってます!」
「それじゃあ、冬華ちゃんが飲めるようになったらすぐに飲ませてあげてね!」
「わかりました!」
警戒心を強めながら、二人は一人で凜音を抑えているガゼルの下へと急いだ。
激しい戦闘音が響いているので居場所はすぐにわかったが、こちらは一対一になったことでだいぶ余裕を持って戦えていた。
「おー、来たかー」
『グガアアアアァァッ!』
四本の腕の一つには剣が握られており、残りは素手だが鋭い拳が打ち出されている。
四方向からの攻撃なのだが、ガゼルは大剣で斬撃を防ぎながら拳は全て紙一重で回避している。
それも、二人が到着すると声まで掛けているので凜音からすると挑発されていると思うだろう。
「ガゼルさん! 凜音ちゃんを助ける方法があります!」
「おっ! マジか、教えてくれ!」
「凜音ちゃんは……左肩です! 左肩を貫いてください!」
「左肩だな! 任せろ!」
『グガガガガアアアアァァッ!』
そう自信たっぷりに答えたガゼルの速度が一気に上がる。
先ほどまでは防御に専念して動きを抑えていたのだが、今は違う。
凜音もガゼルの動きが変わったことに気づいたのか、咆哮をあげながら攻撃を加速させる。
しかし、ガゼルの変化とは天と地の差があった。
「遅い、遅いぜ!」
『グ、グガガ、グガガアアアアァァッ!』
ガゼルはすでに大剣の間合いに凜音を捉えている。
すぐに振り抜かないのは他の部分を傷つけて、凜音が人間に戻った時に傷を負ってしまわないかというガゼルの配慮でもあった。
「んじゃまあ、倒れてくれや!」
大振りになりそうな大剣を細かく動かして体に引き寄せたガゼルは、鋭い刺突を放ち左肩に剣先が命中した。
――バキンッ!
冬華の時と同じ何かが砕けるような音が聞こえてくると、凜音が絶叫をあげながら悶え始めた。
『グゲゲガガガガ、ギギャアアアアァァアアァァッ!?』
二本の腕が頭を抱え、残り二本の腕が胸を押さえている。
そして、こちらも冬華と同じで漆黒の煙が抜け出ていき、凜音が人の姿に戻って倒れた。
「鈴音ちゃん! ……あぁ、よかった。息をしてるよ!」
明日香がホッと胸を撫で下ろすと、ガゼルがすぐに抱き上げた。
「さっさとナツキのところに戻るぞ!」
「そうだな。聖女の力があるとはいえ、ガクトが見えないのは不安が強い」
「うん。すぐに戻ろう!」
明日香が立ち上がると、そのまま三人で夏希が待つ場所まで走っていく。
幸いなことに岳人が迫っているということもなく、合流すると全員で聖女の守りの中に入って冬華と凜音の状態を確認した。
「まだ目を覚ましません」
「ポーションは念のため一本ずつ残しておこう。夏希ちゃんはどのポーションを持ってるの?」
「下級ポーションが三本と、中級ポーションが二本です」
「私は中級ポーションが五本か。……よし、二人には私の二本を使おう」
「えっ? でも、それだと本数が少なくなりますよ?」
心配そうに明日香を見た夏希だったが、明日香は笑顔で返しながら口を開いた。
「大丈夫だよ。これからは一緒に行動するんだもんね」
「そういうことだ。回復量で言えば中級ポーション三本の方が高いからな」
「あとはガクトって奴だけなんだろう? さっさと倒して人に戻してやろうぜ、ナツキ!」
「……は、はい! ありがとうございます、皆さん!」
中級ポーションであれば酷い傷でも治すことができる。目を覚まして飲める状態になれば問題はないはずだと夏希は安堵する。
そして、残る岳人を見つけるために明日香は周囲へ視線を向けた。
「夏希ちゃんは冬華ちゃんを見ていてちょうだい!」
「あ、明日香さんは?」
「私はイーライと一緒にガゼルさんのところに行くわ!」
「砕いた何かの場所を教えてくれ、アスカ!」
このまま凜音を助けるには明日香の助けが必要だとわかっていたイーライが声を掛ける。
明日香もそのつもりだったのですぐに立ち上がる。
「気をつけてください! まだ――岳人さんがどこかにいるんです!」
「「――!!」」
夏希の言葉を受けて、二人はすぐに周囲へ視線を巡らせた。
イーライは気配を探り、明日香はメガネで捉えられないかと首を振る。
しかし、岳人の存在を確認することは出来なかった。
「……近くには、いないの?」
「わからん。だが、警戒しておいていいだろうな」
「そうだね。夏希ちゃん、ポーションは持ってる?」
「持ってます!」
「それじゃあ、冬華ちゃんが飲めるようになったらすぐに飲ませてあげてね!」
「わかりました!」
警戒心を強めながら、二人は一人で凜音を抑えているガゼルの下へと急いだ。
激しい戦闘音が響いているので居場所はすぐにわかったが、こちらは一対一になったことでだいぶ余裕を持って戦えていた。
「おー、来たかー」
『グガアアアアァァッ!』
四本の腕の一つには剣が握られており、残りは素手だが鋭い拳が打ち出されている。
四方向からの攻撃なのだが、ガゼルは大剣で斬撃を防ぎながら拳は全て紙一重で回避している。
それも、二人が到着すると声まで掛けているので凜音からすると挑発されていると思うだろう。
「ガゼルさん! 凜音ちゃんを助ける方法があります!」
「おっ! マジか、教えてくれ!」
「凜音ちゃんは……左肩です! 左肩を貫いてください!」
「左肩だな! 任せろ!」
『グガガガガアアアアァァッ!』
そう自信たっぷりに答えたガゼルの速度が一気に上がる。
先ほどまでは防御に専念して動きを抑えていたのだが、今は違う。
凜音もガゼルの動きが変わったことに気づいたのか、咆哮をあげながら攻撃を加速させる。
しかし、ガゼルの変化とは天と地の差があった。
「遅い、遅いぜ!」
『グ、グガガ、グガガアアアアァァッ!』
ガゼルはすでに大剣の間合いに凜音を捉えている。
すぐに振り抜かないのは他の部分を傷つけて、凜音が人間に戻った時に傷を負ってしまわないかというガゼルの配慮でもあった。
「んじゃまあ、倒れてくれや!」
大振りになりそうな大剣を細かく動かして体に引き寄せたガゼルは、鋭い刺突を放ち左肩に剣先が命中した。
――バキンッ!
冬華の時と同じ何かが砕けるような音が聞こえてくると、凜音が絶叫をあげながら悶え始めた。
『グゲゲガガガガ、ギギャアアアアァァアアァァッ!?』
二本の腕が頭を抱え、残り二本の腕が胸を押さえている。
そして、こちらも冬華と同じで漆黒の煙が抜け出ていき、凜音が人の姿に戻って倒れた。
「鈴音ちゃん! ……あぁ、よかった。息をしてるよ!」
明日香がホッと胸を撫で下ろすと、ガゼルがすぐに抱き上げた。
「さっさとナツキのところに戻るぞ!」
「そうだな。聖女の力があるとはいえ、ガクトが見えないのは不安が強い」
「うん。すぐに戻ろう!」
明日香が立ち上がると、そのまま三人で夏希が待つ場所まで走っていく。
幸いなことに岳人が迫っているということもなく、合流すると全員で聖女の守りの中に入って冬華と凜音の状態を確認した。
「まだ目を覚ましません」
「ポーションは念のため一本ずつ残しておこう。夏希ちゃんはどのポーションを持ってるの?」
「下級ポーションが三本と、中級ポーションが二本です」
「私は中級ポーションが五本か。……よし、二人には私の二本を使おう」
「えっ? でも、それだと本数が少なくなりますよ?」
心配そうに明日香を見た夏希だったが、明日香は笑顔で返しながら口を開いた。
「大丈夫だよ。これからは一緒に行動するんだもんね」
「そういうことだ。回復量で言えば中級ポーション三本の方が高いからな」
「あとはガクトって奴だけなんだろう? さっさと倒して人に戻してやろうぜ、ナツキ!」
「……は、はい! ありがとうございます、皆さん!」
中級ポーションであれば酷い傷でも治すことができる。目を覚まして飲める状態になれば問題はないはずだと夏希は安堵する。
そして、残る岳人を見つけるために明日香は周囲へ視線を向けた。
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