79 / 105
第二章:新たなる力、メガネ付き
第21話:ラクシアの森 3
しおりを挟む
街道に溢れていた魔獣からラクシアの森も似たような状況だろうと予想していた。
しかし、多くの魔獣が溢れていたのは森の入り口付近だけで、ある程度進むと魔獣は影を潜めて姿を見なくなってしまう。
「……まさか、この前のアースドラゴンと同じ状況なのか?」
「どういうことなの?」
「あの時はガゼリア山脈からカフカの森まで魔獣が続いていたが、あれはアースドラゴンから逃げてきたことで起きた現象だった。ここには魔獣がいないが、さっきの魔獣たちは似たようなものだろう」
イーライの予測は正しい。ただし、彼は一つの事実を見逃していた。
逃げてきた魔獣は活性化している通常よりも強い魔獣であり、野生の本能に目覚めた魔獣だ。
それらですらも逃げ出す存在が現れたということに、イーライは気づいていなかった。
「アスカ、二人がどこにいるかわかるか?」
「ちょっと待ってね!」
イーライの言葉に明日香は首を左右に振ってメガネが何か情報を拾わないかを確認していく。
「……あっ! あっち、左の方に二人がいるわ!」
「わかった!」
「でも……えっ? これ、なんなの?」
突然困惑の声を漏らした明日香に、レイの足を止めてイーライが振り返る。
「どうした?」
「……わ、わからない。でも、メガネがちゃんと、機能してないの?」
「だから、何がどうしたんだ?」
「その、二人とは別に何かいるんだけど……情報が、文字化けしているのよ」
メガネは確かに夏希とガゼルの情報を捉えている。
しかし、同時に文字化けする二つの謎の存在についても確認していた。
「モジバケ?」
「ちゃんと文字にならないで、意味不明な文字列になっているの」
「よくわからんが、そいつは味方なのか?」
「たぶん……違う」
「なら、やることは一つだ。大丈夫か、アスカ?」
二人を助けるために、イーライはレイを走らせる。彼はついて来られるかを確認していた。
「もちろんだよ、イーライ!」
そして、彼女は即答した。
不確定要素は多くある。それでも二人を助けるための選択肢は一つしかないのだ。
「アースドラゴンの時みたいに、サポートを頼むぞ!」
「わかった!」
明日香のメガネは相手を視界に収めると、次の行動を文字にして示してくれる。
彼女のサポートがあれば大抵の敵には勝てるだろう。
しかし、明日香は返事をしたものの頭の片隅では不安を覚えていた。
(相手の情報が文字化けしている。この状況でちゃんと次の行動が出てきてくれるの?)
不安が明日香の体を緊張させて、イーライにしがみついている腕に力が込められる。
(それに、どうしてここには魔獣がいないの? アースドラゴンの時は少なからず残っていたのに……)
全ての魔獣がラクシアの森を出ていったのか。それとも、別の理由から存在していないのか。
どれだけ考えても、明日香には想像すらつかない。
不安だけが頭の中に広がっていき、彼女のさらに力を込める。
「……大丈夫だ、アスカ」
「……イーライ?」
「何があっても、俺はお前を守る。ガゼルさんもいるんだ、ナツキだってきっと無事なはずさ」
明日香が緊張していることを察したイーライが、できるだけ優しい声音で語り掛ける。
その気遣いが嬉しく、明日香はなんとか気持ちを浮上させていく。
「……ありがとう、イーライ。そうだよね、きっと大丈夫だよね」
そして、言葉にすることでさらに自分を奮い立たせていく。
(そうだよね。私がこんな状態だと、イーライが心配しちゃうわ。気をしっかり持つのよ、大和明日香! 私にはできる、絶対に二人を助けるんだ!)
顔を上げた明日香の視界に映るのは、二人の名前と文字化けした二つの存在。
何が起きているのかはわからない。
それでも今は、前に進むしかないのだ。
しかし、多くの魔獣が溢れていたのは森の入り口付近だけで、ある程度進むと魔獣は影を潜めて姿を見なくなってしまう。
「……まさか、この前のアースドラゴンと同じ状況なのか?」
「どういうことなの?」
「あの時はガゼリア山脈からカフカの森まで魔獣が続いていたが、あれはアースドラゴンから逃げてきたことで起きた現象だった。ここには魔獣がいないが、さっきの魔獣たちは似たようなものだろう」
イーライの予測は正しい。ただし、彼は一つの事実を見逃していた。
逃げてきた魔獣は活性化している通常よりも強い魔獣であり、野生の本能に目覚めた魔獣だ。
それらですらも逃げ出す存在が現れたということに、イーライは気づいていなかった。
「アスカ、二人がどこにいるかわかるか?」
「ちょっと待ってね!」
イーライの言葉に明日香は首を左右に振ってメガネが何か情報を拾わないかを確認していく。
「……あっ! あっち、左の方に二人がいるわ!」
「わかった!」
「でも……えっ? これ、なんなの?」
突然困惑の声を漏らした明日香に、レイの足を止めてイーライが振り返る。
「どうした?」
「……わ、わからない。でも、メガネがちゃんと、機能してないの?」
「だから、何がどうしたんだ?」
「その、二人とは別に何かいるんだけど……情報が、文字化けしているのよ」
メガネは確かに夏希とガゼルの情報を捉えている。
しかし、同時に文字化けする二つの謎の存在についても確認していた。
「モジバケ?」
「ちゃんと文字にならないで、意味不明な文字列になっているの」
「よくわからんが、そいつは味方なのか?」
「たぶん……違う」
「なら、やることは一つだ。大丈夫か、アスカ?」
二人を助けるために、イーライはレイを走らせる。彼はついて来られるかを確認していた。
「もちろんだよ、イーライ!」
そして、彼女は即答した。
不確定要素は多くある。それでも二人を助けるための選択肢は一つしかないのだ。
「アースドラゴンの時みたいに、サポートを頼むぞ!」
「わかった!」
明日香のメガネは相手を視界に収めると、次の行動を文字にして示してくれる。
彼女のサポートがあれば大抵の敵には勝てるだろう。
しかし、明日香は返事をしたものの頭の片隅では不安を覚えていた。
(相手の情報が文字化けしている。この状況でちゃんと次の行動が出てきてくれるの?)
不安が明日香の体を緊張させて、イーライにしがみついている腕に力が込められる。
(それに、どうしてここには魔獣がいないの? アースドラゴンの時は少なからず残っていたのに……)
全ての魔獣がラクシアの森を出ていったのか。それとも、別の理由から存在していないのか。
どれだけ考えても、明日香には想像すらつかない。
不安だけが頭の中に広がっていき、彼女のさらに力を込める。
「……大丈夫だ、アスカ」
「……イーライ?」
「何があっても、俺はお前を守る。ガゼルさんもいるんだ、ナツキだってきっと無事なはずさ」
明日香が緊張していることを察したイーライが、できるだけ優しい声音で語り掛ける。
その気遣いが嬉しく、明日香はなんとか気持ちを浮上させていく。
「……ありがとう、イーライ。そうだよね、きっと大丈夫だよね」
そして、言葉にすることでさらに自分を奮い立たせていく。
(そうだよね。私がこんな状態だと、イーライが心配しちゃうわ。気をしっかり持つのよ、大和明日香! 私にはできる、絶対に二人を助けるんだ!)
顔を上げた明日香の視界に映るのは、二人の名前と文字化けした二つの存在。
何が起きているのかはわからない。
それでも今は、前に進むしかないのだ。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる