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第二章:新たなる力、メガネ付き

第20話:ラクシアの森 2

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 南門を抜けるとすでに多くの冒険者がラクシアの森へ向かっていた。
 しかし、その中にランクの高い冒険者は少ない。ほとんどがカフカの森の調査へ向かっているからだ。
 そして、数少ない高ランク冒険者も街道にまで溢れ出している魔獣に手を取られてラクシアの森まで到達できずにいた。

「くそっ! 邪魔だ!」
「イーライ、まだまだ来るよ!」
「早くラクシアの森に入らないといけないのに!」

 急ぎたい気持ちと、そうさせてくれない魔獣の数が、イーライの苛立ちを駆り立てる。

『ゲギャギャ!』
「危ない、イーライ!」

 転がる魔獣の死体の下から、息を潜めていた別の魔獣が飛び出してくる。

「しま――」

 ――ひゅっ!

『ギャビャッ!?』

 魔獣の爪がレイを捉えようとした刹那、鋭く飛来した一本の矢が魔獣の眉間を打ち抜いた。
 何が起きたのか理解できず、矢が飛んできた方向へ視線を向ける。

「何をやっているのかな、イーライ君!」
「やっほー! 朝ぶりだねー!」
「こっちは任せてさっさと行きなさい!」

 男性一人と女性二人の冒険者がイーライの名前を呼びながら声を掛けてきた。

「……イーライ、あの人たちは?」
「冒険者の先輩だ。昨日の夜、俺と同じ班で行動していたんだが……」
「あぁーっ! イーライ君、女の子と二人乗りとは、怪しからんぞ!」
「本当だー! ひゅーひゅー!」
「あんたたち、うるさいわよ! イーライ、ちゃんと守りなさいよ! 男ならね!」

 そう言いながら明日香たちを追い越していくと、前に固まっていた多くの魔獣を薙ぎ払っていく。

「……つ、強いね」
「……あぁ。あの三人もジャズズと同じでAランク冒険者なんだ」
「エ、Aランク!? でも、みんなカフカの森に行ったって……あっ、そっか。イーライが戻ってきているんだから、一緒に班を組んでいた人も戻ってきているんだよね」
「休まずに駆けつけてくれるんだから、やっぱり冒険者ってすごいな」

 そう口にしながら、イーライの手綱を握る手に力が込められた。

「……行くぞ、アスカ!」
「うん! 三人の助けを無駄にしちゃダメだよ!」

 そして、三人の活躍によって開かれた道を駆け抜けていくと、二人はようやくラクシアの森の入り口まで到着した。

「た、助けてください!」
「い、嫌だ、死にたくないよ!」
『グルオオアアアアッ!』
「はあっ!」

 ラクシアの森に取り残されていたランクの低い冒険者が飛び出してくると、それを追い掛けて魔獣が森から出てきた。
 すれ違いざまに剣を振り抜いたイーライが魔獣の首を刎ねると、逃げてきた冒険者は腰を抜かして地面に座り込む。

「……た、助かった、のか?」
「……うぅぅ、よかったよおおぉぉぉぉっ!」

 お互いに抱き合って泣き出してしまった二人だが、イーライは気にすることなく声を掛ける。

「おい、そっちの二人!」
「「は、はい!」」
「森の中でSランク冒険者のガゼルさんを見なかったか!」

 マゼリアでも有名なガゼルの名前を出した途端、二人の表情がハッとした。

「み、見ました!」
「も、森の奥で、見たことのない魔獣と、戦っていました!」
「見たことのない魔獣だと?」

 魔獣の活性化と関係しているのかと歯噛みするイーライ。
 明日香も何が起きているのかと疑問を浮かべていく。

「真っ黒な魔獣で、見ただけで怖くなって……」
「私たち、逃げてきちゃったんです……」
「……二人が無事でよかった。ね、イーライ」

 自分たちが逃げてきたという事実に落ち込んでしまった二人を見て、明日香は優しい声音で声を掛けた。

「……あぁ、そうだな。お前たちはその情報を持って、必ずマゼリアに戻るんだ! すぐ近くにAランク冒険者も来ているから、そいつらに伝えてもいい。いいか、絶対に生きて情報を届けろ!」
「「わ、わかりました!」」

 ここまでの道のりにいた魔獣はある程度片付けている。
 彼らが無事にマゼリアに戻ってくれることを信じて、明日香たちは振り返ることなくレイを走らせる。
 そして、二人はようやくラクシアの森に足を踏み入れた。
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