77 / 105
第二章:新たなる力、メガネ付き
第19話:ラクシアの森 1
しおりを挟む
マゼリアの南の外壁、それを超えた先で立ち昇る大量の砂煙。
カフカの森から戻ってきていたイーライも冒険者ギルドの前でその光景を見ており、表情を焦りに染めて歯噛みする。
「くそっ! カフカの森じゃなくて、ラクシアの森だったのかよ!」
冒険者ギルドから緊急で依頼が発行されるだろうと中に戻ろうとしたイーライだったが、ラクシアの森に向かっただろう知り合いの顔が浮かび上がると、彼は小さく舌打ちをした。
「……ちっ! そうだ、ラクシアの森にはナツキとガゼルさんがいるんだった!」
ギルドから依頼が発行されるのを待っているわけにはいかなくなった。
イーライはその場から離れて駆け出していく。
向かった先はもちろん、先走って一人で向かおうとしているはずの女性が待つ道具屋だった。
「――アスカ! ジジさん!」
ほどなくして、イーライが息を切らしながら道具屋に飛び込んできた。
「イーライ! あぁ、無事でよかった!」
「俺は大丈夫だが、ラクシアの森で異常が発生した!」
「えぇ、儂らも聞いておるよ。イーライ、ナツキさんのためにも行ってくれるかい?」
ジジの言葉にイーライが頷こうとした時、こちらをジッと見つめている明日香の存在に気がつく。
そして、この目は以前にも見たことのある意志の固いものであることを彼は理解していた。
「……一緒に行くつもりなのか、アスカ?」
「もちろん! 私が行かなくて、誰が夏希ちゃんたちを見つけるのよ!」
「できればジジさんと一緒に残っていて欲しいんだが?」
「無理! イーライが連れて行かなかったら、私は別の冒険者に頼んで向かうからね!」
「ほほほ。イーライ、連れて行ってあげなさい」
この時点でジジは明日香の説得を諦めており、イーライと一緒に行動させる方が比較的安全だろうと考えていた。
「……全く、そう言うだろうと思ったよ。わかった、一緒に行こう」
そんなジジの思惑に気づいたイーライは小さくため息をつくと、仕方なく同行を許可した。
「さすがね、イーライ!」
「ただし! 危ない真似だけは絶対にするなよ! ……ガゼリア山脈でのアスカの行動は、本当に肝が冷えたからな」
「あー……うん。あれは私も無茶をしたなーって、反省してる」
苦笑しながらそう口にした明日香に対して、イーライも似たような表情を浮かべるとすぐに行動へ移していく。
すでに明日香が必要になりそうなポーション類を準備しておりポーチに詰めていく。
イーライは外で休ませていた愛馬のレイの様子を確かめに向かい、ジジは途中で腹を満たせるよう持ち歩きに便利な弁当を準備していく。
全員の準備が整うと、砂煙で日差しが遮られてやや暗くなった空を眺めた。
「……ラクシアの森で、いったい何がおきているの?」
「さぁな。だが、これだけの砂煙がこっちまで飛んできているんだ、ヤバい事態になっているのは間違いないだろうな」
「夏希ちゃん、ガゼルさん」
ギュッと両手を胸の前で握り締めながら二人を心配する明日香を見て、イーライはやや乱暴に彼女の頭を撫でた。
「大丈夫だ。何せ、Sランクのガゼルさんがついているからな」
「……うん」
「それに、ナツキだって勇者の一人だ。身を守る術は心得ているんだろう?」
「……うん、うん。そうだよね、夏希ちゃんは、勇者だもんね」
緊張していた体から少しずつ力が抜けていき、その様子を見たイーライは一つ頷くと華麗にレイへ飛び乗った。
「行くぞ、アスカ」
「行こう、イーライ!」
イーライから差し出された手を握り返すと、グッと引っ張られて後ろに跨る。
「アスカさん、イーライ。ナツキさんのことを、よろしくお願いします」
「もちろんです、ジジさん!」
「任せてくれ。行くぞ、レイ!」
「ヒヒイイイイィィン!」
イーライの言葉に合わせていなないたレイは、力強く地面を蹴りつけて駆け出した。
「……皆さん、どうかご無事で」
ジジは明日香たちの姿が見えなくなるまで、全員の無事を祈り続けたのだった。
カフカの森から戻ってきていたイーライも冒険者ギルドの前でその光景を見ており、表情を焦りに染めて歯噛みする。
「くそっ! カフカの森じゃなくて、ラクシアの森だったのかよ!」
冒険者ギルドから緊急で依頼が発行されるだろうと中に戻ろうとしたイーライだったが、ラクシアの森に向かっただろう知り合いの顔が浮かび上がると、彼は小さく舌打ちをした。
「……ちっ! そうだ、ラクシアの森にはナツキとガゼルさんがいるんだった!」
ギルドから依頼が発行されるのを待っているわけにはいかなくなった。
イーライはその場から離れて駆け出していく。
向かった先はもちろん、先走って一人で向かおうとしているはずの女性が待つ道具屋だった。
「――アスカ! ジジさん!」
ほどなくして、イーライが息を切らしながら道具屋に飛び込んできた。
「イーライ! あぁ、無事でよかった!」
「俺は大丈夫だが、ラクシアの森で異常が発生した!」
「えぇ、儂らも聞いておるよ。イーライ、ナツキさんのためにも行ってくれるかい?」
ジジの言葉にイーライが頷こうとした時、こちらをジッと見つめている明日香の存在に気がつく。
そして、この目は以前にも見たことのある意志の固いものであることを彼は理解していた。
「……一緒に行くつもりなのか、アスカ?」
「もちろん! 私が行かなくて、誰が夏希ちゃんたちを見つけるのよ!」
「できればジジさんと一緒に残っていて欲しいんだが?」
「無理! イーライが連れて行かなかったら、私は別の冒険者に頼んで向かうからね!」
「ほほほ。イーライ、連れて行ってあげなさい」
この時点でジジは明日香の説得を諦めており、イーライと一緒に行動させる方が比較的安全だろうと考えていた。
「……全く、そう言うだろうと思ったよ。わかった、一緒に行こう」
そんなジジの思惑に気づいたイーライは小さくため息をつくと、仕方なく同行を許可した。
「さすがね、イーライ!」
「ただし! 危ない真似だけは絶対にするなよ! ……ガゼリア山脈でのアスカの行動は、本当に肝が冷えたからな」
「あー……うん。あれは私も無茶をしたなーって、反省してる」
苦笑しながらそう口にした明日香に対して、イーライも似たような表情を浮かべるとすぐに行動へ移していく。
すでに明日香が必要になりそうなポーション類を準備しておりポーチに詰めていく。
イーライは外で休ませていた愛馬のレイの様子を確かめに向かい、ジジは途中で腹を満たせるよう持ち歩きに便利な弁当を準備していく。
全員の準備が整うと、砂煙で日差しが遮られてやや暗くなった空を眺めた。
「……ラクシアの森で、いったい何がおきているの?」
「さぁな。だが、これだけの砂煙がこっちまで飛んできているんだ、ヤバい事態になっているのは間違いないだろうな」
「夏希ちゃん、ガゼルさん」
ギュッと両手を胸の前で握り締めながら二人を心配する明日香を見て、イーライはやや乱暴に彼女の頭を撫でた。
「大丈夫だ。何せ、Sランクのガゼルさんがついているからな」
「……うん」
「それに、ナツキだって勇者の一人だ。身を守る術は心得ているんだろう?」
「……うん、うん。そうだよね、夏希ちゃんは、勇者だもんね」
緊張していた体から少しずつ力が抜けていき、その様子を見たイーライは一つ頷くと華麗にレイへ飛び乗った。
「行くぞ、アスカ」
「行こう、イーライ!」
イーライから差し出された手を握り返すと、グッと引っ張られて後ろに跨る。
「アスカさん、イーライ。ナツキさんのことを、よろしくお願いします」
「もちろんです、ジジさん!」
「任せてくれ。行くぞ、レイ!」
「ヒヒイイイイィィン!」
イーライの言葉に合わせていなないたレイは、力強く地面を蹴りつけて駆け出した。
「……皆さん、どうかご無事で」
ジジは明日香たちの姿が見えなくなるまで、全員の無事を祈り続けたのだった。
1
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ・更新報告はXにて。
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

貴方のために
豆狸
ファンタジー
悔やんでいても仕方がありません。新米商人に失敗はつきものです。
後はどれだけ損をせずに、不良債権を切り捨てられるかなのです。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる