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第二章:新たなる力、メガネ付き

閑話:変貌

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 カフカの森には冒険者だけではなく、騎士たちも多く集まっている。
 これはもちろん、魔獣の活性化について調べるためだ。
 冒険者はパーティを組み、騎士は班を組んで、孤立しないよう注意しながら調査に当たる。
 しかし、そこに活性化の大本は存在していなかった。

「……くくくっ、入ったぜぇ」

 活性化の大本――岳人は今、ラクシアの森の入り口に近い場所に身を隠している。
 そこには一緒に召喚された凛音と冬華の姿もあるが、二人は困惑した表情を浮かべていた。

「……ね、ねぇ、岳人? 本当に大丈夫なの~?」
「……た、確かに。神谷さんは別に私たちに何かをしたわけでは――」
「あぁん? てめぇら、俺様の言うことが聞けないってのかぁ?」

 岳人を宥めようとした二人に対して、彼は睨みを利かせながら低い声を響かせる。

「ま、まさか~! 私たちは岳人についていくよ~?」
「そ、その通りよ、岳人」
「なら、黙ってついて来たらいいんだよぉ」

 ニヤリと笑っている岳人の視線の先にいたのは、中級ポーションの素材を採取しに来た夏希とガゼルだが、彼の視線に映っているのは夏希ただ一人。
 勝手な嫉妬心がそうさせているのだが、今回はそれが岳人の良い方向へ向かっている。
 本来であればガゼルが悪意のある視線に気づかないはずはないのだが、岳人の視線も悪意も、その全てが夏希に向いているせいもあり彼は三人の存在に気づくことができなかった。

「くくくっ、そろそろ奥に向かうみたいだ。俺たちも行くぜぇ」
「……う、うん」
「……わかりました」

 気配を消して、それでいて夏希に対してだけ悪意を放ち、岳人たちはひっそりとついていく。
 二人がラクシアの森の中腹に辿り着いた瞬間――悪意が夏希だけではなく周囲へ一気に放出された。

「ナツキ!」
「えっ――きゃあっ!」

 突如として放たれた悪意を感じ取ったガゼルは夏希を引き寄せると、悪意から庇うように後ろへ移動させる。
 しかし、悪意は小さくなるどころかより増幅していき、夏希だけではなくガゼルをも飲み込もうとしていた。

「こ、これはいったい?」
「俺にもわからん。だが、俺じゃなくてナツキを狙ったものであるのは確かだな」
「……わ、私を?」
「あぁ。これだけの悪意を持った奴らが俺を狙っていたなら、気づかないわけがないからな。……まあ、変な気配がうろついていたのは気づいていたから警戒はしていたんだが、これほどとはなぁ」

 ガゼルの額からは冷や汗が自然と噴き出してしまう。こんなことは何年も感じたことがなかった。

「……くくくっ、な~つ~き~!」
「あ、あなたは……岳人さん! それに、凛音さんに冬華さんまで!」
「あは、あはは~。久しぶりね、ナッキ~?」
「ひ、久しぶり、神谷さん」
「あん? 知り合いなのか?」

 顔見知りだとわかったとしても、ガゼルが警戒を解くことはない。
 後ろから現れた二人は別としても、正面に立ちながら下卑た笑みを浮かべている岳人が変わらない悪意を振りまいているからだ。

「……私と一緒に召喚された、残りの三人です」
「一緒に召喚……ということは、てめぇらがナツキを!」
「あぁん? なんだぁ、てめぇは? 邪魔だ、ここから消えろぉ」

 ようやく気づいたという反応でガゼルを睨みつけた岳人だが、もちろん彼がそのまま引き下がるはずはない。

「あいにくと、俺はナツキの護衛なんでなぁ。てめぇみたいな悪意満々の奴の前に置いていくことはできないんだよ」
「悪意ねぇ……くくくっ、それは当然だろう。俺はこいつを――殺すためにいるんだからなあ!」

 岳人がそう口にした途端、彼の足元から漆黒の煙が一気に噴き出した。

「きゃあっ!」
「何よ、何が起きているのよ、岳人!」
「ちいっ! 逃げるぞ、ナツキ!」
「は、はい!」
「逃がすわけ、ねぇだろうがよお~!」

 まるで悪魔にでもなったかのような岳人は表情がさらなる悪意に歪むと、ずっと握りしめていた漆黒の魔石を地面に叩きつけた。

 ――パキンッ!

 乾いた魔石の割れる音がラクシアの森に響き渡る。
 そして――割れた魔石からは岳人の足元から噴き出したものと同じ漆黒の煙が、凝縮された悪意と一緒になって飛び出してきた。

「死にやがれぇ、なつきいいいいぃぃいいぃぃっ!!」

 漆黒の煙が空高くまで舞い上がろうとした途端――地面が大爆発を起こして砂煙が立ち昇ったのだった。
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