73 / 105
第二章:新たなる力、メガネ付き
第16話:森の異変 2
しおりを挟む
その日の夜、明日香はアルから聞いた情報を夏希とジジとも共有するため、夕食時に伝えた。
ジジはそこまで反応を示さなかったが、夏希は顔を青ざめて下を向いてしまう。
「……気を落とさないでね、夏希ちゃん」
「……は、はい。ありがとうございます、明日香さん」
「その、ガクトという方々が、二人と一緒にこちらへ召喚されたのですかな?」
「はい、ジジさん。私も夏希ちゃんも、あまり良い思い出はないんですけどね」
明日香の言葉にジジは何やら考えていたが、ふと何かを思い出したかのように立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「ん? そういえば、ポーションの材料がどれだけ残っていたか気になってなぁ」
「ポーションの材料、ですか?」
「あぁ。カフカの森に入れないのであれば、ラクシアの森でも同じことが起きる可能性もあるだろう? そうなれば、ポーション作りを止めなければならないからなぁ」
そう言い残したジジは調合部屋に行ってしまった。
彼の言っていることは間違いないのだが、何もこのタイミングでなくてもいいのではと思わなくもない。
明日香と夏希が顔を見合わせていると、二人は同時にハッとした表情で何かに気がついた。
「わ、私たちも確認します!」
「お手伝いします、ジジさん!」
同時に椅子から立ち上がった明日香と夏希は、すぐに調合部屋へと向かった。
「おや? 大丈夫なのかい?」
「はい、大丈夫です!」
「手伝わせてください、お願いします!」
「……わかったよ。全く、二人も大変だねぇ」
僅かに考えただけで、ジジは二人の手伝いをあっさりと認めてくれた。
だが、これにはわけがあった。
「……下級ポーションの材料は、問題なさそうです」
「……うーん、中級ポーションは少なくなっていますね」
「調合の練習のために使っていたからねぇ、仕方がないか。中級ポーションならラクシアの森で素材採取ができるけど、明日は営業もあるから……さて、どうしたものか」
そこでジジは横目でチラリと二人を見た。
「わ、私が行きます! 明後日ならガゼルさんにも話をできますから!」
「あぁ、そうかい。それは助かるよ。ただ、もしも問題がありそうなら、すぐに戻ってくるんだよ。それと、何もなければ人探しに時間を使ってもいいからね」
「あ、ありがとうございます、ジジさん!」
ジジは先ほどの席で話を聞きながら、二人の様子を観察していた。
明日香から話してくれた内容なので彼女の反応こそわからなかったが、夏希は大きく反応を示してくれた。
良い思い出ではないと明日香は口にしていたが、夏希にとってはそれでも顔見知りに何かが起きたのではと心配になったのだろう。
だからこそ、ジジはラクシアの森へ向かうための理由作りのために材料の確認を始めたのだ。
「アスカさんはいいのですかな?」
「私も心配ではありますけど、やっぱりジジさんとこのお店も大事ですからね」
「ほほほ。そう言ってもらえると、嬉しいよ」
これからの予定についてある程度決まったところで、明日香たちは部屋に戻って休むことにした。
◆◇◆◇
翌日は通常営業となったものの、夏希は少しだけ浮き足立っている様子が見受けられた。
そのことに夏希とジジは気づいており、気を遣いながらの営業となった。
昼休憩が近づいてくるとイーライが顔を出したのだが、彼も夏希の様子に気づいて首を傾げていた。
「どうしたんだ?」
「昨日の話を二人にもしたんだけど、それ以来岳人君たちのことが心配になっているみたい」
「そうなのか……あぁ、そうだ。アスカに言っておかないといけないことがあるんだ」
「私に? 何かあったの?」
休憩中の看板を下げながら問い掛けたが、イーライは昼食を食べながらでもいいだろうと言ってリビングへ向かう。
イーライが顔を出したことに気づいていたジジが四人分の料理を並べてくれていたので、すぐに昼食となった。
「それで、イーライ。言っておきたいことって?」
「あぁ。明日は昼過ぎにならないと顔を出せそうもない」
「えっ! そ、そうなの?」
「これも昨日の殿下からの話につながるんだけどな。カフカの森の調査依頼を受けたんだ」
話を聞くと、カフカの森の調査をするために冒険者を入れ替えながら森に滞在させることが決まったのだとか。
イーライは先発となり、今日の夜から明日の昼までカフカの森に滞在することとなる。
「大丈夫なの? 魔獣が活性化して危険な状態なんでしょう?」
「まあな。だが、騎士をしていた頃もこれに似た状況で滞在したことも多くあったし、問題はない」
軽く答えているが、それでも明日香は心配になってしまう。
「……いくつか私が作ったポーションがあるから、今日の夜に取りに来てちょうだい」
「だが、売り物になるものだろう?」
「師弟制度もあって私の作品はまだ商品として出せないの。だから貰ってくれないかな」
「……ジジさん、いいのか?」
「ほほほ、構わないよ。そろそろアスカさんが作ったポーションが溢れそうだから、貰ってくれるとありがたいのう」
「……ジジさんが言うなら、わかりました」
ジジの言葉を受けて、イーライは渋々受け取ることにした。
「夏希ちゃんも持っていってね! あっ、でも夏希ちゃんが作ったポーションもあるんだった」
「あっ、頂きます! 下級ポーションはあるんですが、中級ポーションはないので」
明日はイーライも夏希もいない一日となる。
明日香はポーションを配ることで、自分の心の平穏を少しでも整えようとしていたのだった。
ジジはそこまで反応を示さなかったが、夏希は顔を青ざめて下を向いてしまう。
「……気を落とさないでね、夏希ちゃん」
「……は、はい。ありがとうございます、明日香さん」
「その、ガクトという方々が、二人と一緒にこちらへ召喚されたのですかな?」
「はい、ジジさん。私も夏希ちゃんも、あまり良い思い出はないんですけどね」
明日香の言葉にジジは何やら考えていたが、ふと何かを思い出したかのように立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「ん? そういえば、ポーションの材料がどれだけ残っていたか気になってなぁ」
「ポーションの材料、ですか?」
「あぁ。カフカの森に入れないのであれば、ラクシアの森でも同じことが起きる可能性もあるだろう? そうなれば、ポーション作りを止めなければならないからなぁ」
そう言い残したジジは調合部屋に行ってしまった。
彼の言っていることは間違いないのだが、何もこのタイミングでなくてもいいのではと思わなくもない。
明日香と夏希が顔を見合わせていると、二人は同時にハッとした表情で何かに気がついた。
「わ、私たちも確認します!」
「お手伝いします、ジジさん!」
同時に椅子から立ち上がった明日香と夏希は、すぐに調合部屋へと向かった。
「おや? 大丈夫なのかい?」
「はい、大丈夫です!」
「手伝わせてください、お願いします!」
「……わかったよ。全く、二人も大変だねぇ」
僅かに考えただけで、ジジは二人の手伝いをあっさりと認めてくれた。
だが、これにはわけがあった。
「……下級ポーションの材料は、問題なさそうです」
「……うーん、中級ポーションは少なくなっていますね」
「調合の練習のために使っていたからねぇ、仕方がないか。中級ポーションならラクシアの森で素材採取ができるけど、明日は営業もあるから……さて、どうしたものか」
そこでジジは横目でチラリと二人を見た。
「わ、私が行きます! 明後日ならガゼルさんにも話をできますから!」
「あぁ、そうかい。それは助かるよ。ただ、もしも問題がありそうなら、すぐに戻ってくるんだよ。それと、何もなければ人探しに時間を使ってもいいからね」
「あ、ありがとうございます、ジジさん!」
ジジは先ほどの席で話を聞きながら、二人の様子を観察していた。
明日香から話してくれた内容なので彼女の反応こそわからなかったが、夏希は大きく反応を示してくれた。
良い思い出ではないと明日香は口にしていたが、夏希にとってはそれでも顔見知りに何かが起きたのではと心配になったのだろう。
だからこそ、ジジはラクシアの森へ向かうための理由作りのために材料の確認を始めたのだ。
「アスカさんはいいのですかな?」
「私も心配ではありますけど、やっぱりジジさんとこのお店も大事ですからね」
「ほほほ。そう言ってもらえると、嬉しいよ」
これからの予定についてある程度決まったところで、明日香たちは部屋に戻って休むことにした。
◆◇◆◇
翌日は通常営業となったものの、夏希は少しだけ浮き足立っている様子が見受けられた。
そのことに夏希とジジは気づいており、気を遣いながらの営業となった。
昼休憩が近づいてくるとイーライが顔を出したのだが、彼も夏希の様子に気づいて首を傾げていた。
「どうしたんだ?」
「昨日の話を二人にもしたんだけど、それ以来岳人君たちのことが心配になっているみたい」
「そうなのか……あぁ、そうだ。アスカに言っておかないといけないことがあるんだ」
「私に? 何かあったの?」
休憩中の看板を下げながら問い掛けたが、イーライは昼食を食べながらでもいいだろうと言ってリビングへ向かう。
イーライが顔を出したことに気づいていたジジが四人分の料理を並べてくれていたので、すぐに昼食となった。
「それで、イーライ。言っておきたいことって?」
「あぁ。明日は昼過ぎにならないと顔を出せそうもない」
「えっ! そ、そうなの?」
「これも昨日の殿下からの話につながるんだけどな。カフカの森の調査依頼を受けたんだ」
話を聞くと、カフカの森の調査をするために冒険者を入れ替えながら森に滞在させることが決まったのだとか。
イーライは先発となり、今日の夜から明日の昼までカフカの森に滞在することとなる。
「大丈夫なの? 魔獣が活性化して危険な状態なんでしょう?」
「まあな。だが、騎士をしていた頃もこれに似た状況で滞在したことも多くあったし、問題はない」
軽く答えているが、それでも明日香は心配になってしまう。
「……いくつか私が作ったポーションがあるから、今日の夜に取りに来てちょうだい」
「だが、売り物になるものだろう?」
「師弟制度もあって私の作品はまだ商品として出せないの。だから貰ってくれないかな」
「……ジジさん、いいのか?」
「ほほほ、構わないよ。そろそろアスカさんが作ったポーションが溢れそうだから、貰ってくれるとありがたいのう」
「……ジジさんが言うなら、わかりました」
ジジの言葉を受けて、イーライは渋々受け取ることにした。
「夏希ちゃんも持っていってね! あっ、でも夏希ちゃんが作ったポーションもあるんだった」
「あっ、頂きます! 下級ポーションはあるんですが、中級ポーションはないので」
明日はイーライも夏希もいない一日となる。
明日香はポーションを配ることで、自分の心の平穏を少しでも整えようとしていたのだった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ・更新報告はXにて。
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

貴方のために
豆狸
ファンタジー
悔やんでいても仕方がありません。新米商人に失敗はつきものです。
後はどれだけ損をせずに、不良債権を切り捨てられるかなのです。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる