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第二章:新たなる力、メガネ付き

第15話:森の異変 1

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 イーライがガゼルに師事する事になった翌日、ジジの道具屋に訪ねてくる人物がいた。

「あれ? 今日は定期報告の日ではないですよね? それも、営業中ですよ?」

 訪ねてきたのは定期報告の時にはいつも笑顔で楽しそうなアルとリヒトだった。
 しかし、今日に限って言えばその表情は暗く、とても深刻そうなものである。
 そもそも、明日香が口にした通りに今日は定期報告の予定ではなく、尋ねてきた時間もいつもとは違い営業中で、彼女はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

「何か急ぎの用事があるのでしょう。殿下、リビングを使ってもいいですよ」
「……ありがとうございます、ジジ殿」

 深刻そうな表情を崩す事なく頭を下げたアルたちを、明日香が心配そうに見つめながらリビングへ案内する。
 イーライも明日香たちに続いてリビングへ移動すると、お茶を入れてテーブルに置いた。

「……感謝するぞ、イーライ」
「いえ、そんな」
「あの、何があったんですか? お二人が約束もなしに訪れるなんて、何かあったんですよね?」

 二人の様子があまりにも憔悴しており、明日香は少しでも気持ちが和らぐようにと訪れて理由を問い掛けた。
 明日香の問いに重い口を開いたのはアルだった。

「……非常に申し上げにくい事なのですが……カミハラ様たちが、消息を絶ちました」
「……え? 岳人君たちが?」

 思いがけない言葉に明日香は聞き返してしまう。

「はい。一週間ほどまえにマゼリアの兵士たちがカフカの森へ野外演習に向かったのですが、そこにカミハラ様たちも参加していました」

 一週間ほど前と聞いた明日香は、夏希とガゼルと三人でカフカの森へ採取に向かったあの日の事を思い出していた。
 あの時は岳人たちの姿を確認する事ができなかったが、あの中にいたのだとこの時になって初めて知る事になる。

「実を言うと、兵士たちにカミハラ様たちを任せたのですが、念のためにと騎士団からも数名、兵士の格好で彼らを見張っていたのですが……」
「まさか、騎士たちの目をも欺いて逃亡したのですか?」

 驚きの声をあげたのはイーライだった。
 元騎士団所属だったイーライは、騎士たちの実力を十分に理解している。
 明日香のメガネの力があったとはいえ、アースドラゴンを相手にして誰一人として命を落とす事もなかった強者たちだ。
 イーライには、岳人たちが騎士たちの目を欺いて逃亡する事ができるとは考えられなかった。

「実を言えば、私も少々驚いている。基本のステータスが高かったとはいえ、全体的に見ればまだまだ実力は下の方だ」
「それなら、どうして岳人君たちはいなくなったんですか?」
「我々は、逃亡を手助けした何者かがいるのではないかと睨んでいます」

 アルの言葉を聞いて、明日香はどうなっているのかと理解が追いつかなくなってしまう。

「……で、でも、岳人君たちを逃がして得をするような人たちって、いるんですか?」
「普通に考えて、いないと思います」
「……まさか、国外に協力者が?」

 思考を巡らせていたイーライがそう口にすると、リヒトが大きく頷いた。

「正確には、協力を持ち掛けたのが国外の勢力でしょうがね」

 岳人たちは召喚されてからずっと城で生活をしていた。
 一兵士になってからは城を出たものの、その後も兵士宿舎で生活しており、国外に出るなんて事はもちろん、誰かと接触する時間もなかった。
 こちらも兵士の格好で見張っていた騎士からの報告なので間違いはない。

「できるだけ隠していたとはいえ、アースドラゴンの一件にガクト様たちが関わっていたという事は多くの人間に知れ渡っています」
「我らはそこから情報が国外に漏れ、何者かがカミハラ様たちに接触したのだと考えている」
「それじゃあ、岳人君たちはすでに国外に?」
「いいえ、それはないと考えています」

 心配そうに声を漏らした明日香だったが、その言葉にはリヒトが答えた。

「国境警備にもすでに報告済みですが、ガクト様たちらしき人物を見かけたという報告は上がってきておりません」
「それなら、どうして見つからないんですか?」
「それが分からないのだ。今も兵士と騎士団を総動員して周囲の捜索に当てているが、それでも見つからない。国内のどこかに潜伏している可能性もあるのだがなぁ……」

 そこで大きくため息をついたアルを見て、明日香は彼の方が心配だと思い始めた。

「あの、アル様? 無理をしないでくださいね?」
「あはは、大丈夫ですよ、ヤマト様」
「大丈夫そうに見えないからそう言っているんです! これ、私が作ったものですが、中級ポーションなので持っていってください。リヒト様も」

 ポーションが疲れに効くのかは分からなかったが、何もしないわけにはいかないと明日香は手元にあったポーションを二人に手渡した。

「よろしいのですか?」
「はい。万が一があってはいけませんから。まあ、私が作ったポーションが役に立つかは分かりませんけど」
「何を言いますか、ヤマト様。あなたのポーションの価値は先日のアースドラゴンの一件で、騎士団の中では跳ね上がっています。こちら、ありがたく頂きたいと思います」

 嬉しそうにポーションを受け取ったアルとリヒトを見て、明日香は一先ず息を吐いた。

「それと、こちらも大事な話なのですが、ガクト様たちが消息を絶ったカフカの森では魔獣の活発化が確認されております。しばらくは近づかないようにしていただけると助かります」
「わ、分かりました。ジジさんや夏希ちゃんにも伝えておきます」
「お願いします。イーライは引き続きヤマト様の騎士として、しっかり守れよ」
「はっ!」

 その後、アルとリヒトは急ぎ足で城へと戻っていった。

「……岳人君たち、大丈夫かなぁ」

 二人を見送った明日香は、同郷の三人の無事を願うのだった。
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