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第二章:新たなる力、メガネ付き

第13話:新たな出会い 6

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 鋭い袈裟斬りがガゼルに迫る中、彼はニヤリと笑って大剣を盾代わりに受け止める。
 激しい金属音が森の中に響き渡ると、一度ならず二度、三度と連続で鳴り響いていく。
 その全てを受け止めているガゼルだったが、その動きが徐々に速くなっていくと、徐々に攻めているはずのイーライが後退していく。

「……くっ!」
「どうした? 俺はまだ何もしちゃいないぞ?」
「なら、これはどうだ!」

 一方的な攻勢の中にフェイントを交ぜていく。
 ガゼルの視線がイーライを追い掛けるようにせわしなく動いている。
 横薙ぎからの刺突、切り上げからの横薙ぎ、袈裟斬りと見せかけて逆袈裟。
 全ての動きに鋭さがあるのだが、そのどれもがガゼルには通用せずに受け止められてしまう。

「魔法を使ってもいいぞ?」
「シルフブレイド!」

 ガゼルの言葉に間髪入れず魔法を発動させたイーライ。
 自らの斬撃に沿ってシルフブレイドを顕現させた事で、一撃が連撃に変化する。
 さすがに受け止めるだけでは敵わないと感じたのか、ガゼルは大剣で斬撃を受け止めるのと同時に大きく振りかぶる。

「くっ!」

 片腕で振り抜かれたたった一振りに、イーライは大きく弾き飛ばされてしまい後退する。
 シルフブレイドも大剣に打ち消されており、接近戦では分が悪いとイーライは判断した。

「アースバイト!」
「甘いな」

 ガゼルの足元にある地面が盛り上がった途端、大剣が鋭く振り抜かれて土を吹き飛ばす。
 顕現するはずだったアースバイトは跡形もなく砕かれてしまい、魔法は失敗に終わる。

「ファイアアロー!」
「火力が足りんな」

 放たれた十を超すファイアアローも、シルフブレイドと同様に振り抜かれた大剣の風圧によって消されてしまう。

「これは、ジャズズの時と同じ――」
「油断大敵だぜ?」
「なっ!?」

 ファイアアローを全く同じ方法で無効化されてしまい驚いている隙を突き、ガゼルは一足飛びで間合いを詰めて大剣を振り抜く。
 イーライが気づいた時にはすでに刃が首筋に当てられているところだった。

「……ま、参りました」
「おう! いい模擬戦だったな!」
「……いいえ、全然ダメでした」

 ガゼルが大剣を持ち上げて肩に乗せながらそう口にしたものの、イーライは圧倒的な実力差を見せつけられてしまい落ち込んでしまう。
 やり過ぎたかなと思ったガゼルだったが、染みついた剣術を見直すためにはこれくらいやらなければならないと自分に言い聞かせる。

「……とりあえず、お嬢さん方のところに戻るぞ。そこで反省会だな」
「……はい」

 見た目にも分かりやすく肩を落として歩いていく姿に、ガゼルは小さくため息をつく。
 どう慰めるか、もしくはやる気にさせるかを考えながら落ち込む背中を追い掛けたのだが、ガゼルの心配は杞憂に終わる事となった。

「ナイスファイト、イーライ!」
「……いいや、ダメだ。あれではお前を守れない」
「いやいや、Sランク冒険者相手に勝つつもりだったの? Aランクにも勝てなかったのに?」
「……手厳しいな」
「イーライには伸びしろがたくさんあるんだから、こんなところで落ち込むなんてもったいないよ。今は課題を見つけて、それを解決する方がいいんだからね!」

 明日香の言葉を受けたイーライは最初こそ表情を変えなかったが、徐々にいつもの顔に戻っていき、最終的には笑みを溢している。
 無駄な心配だったと理解したガゼルは苦笑しながら頭を掻き、イーライの横を通り過ぎる時にガシガシと頭を撫でてから地面に腰掛けた。

「さーて! そんじゃあ、反省会を始めるか!」
「よろしくお願いします!」

 始めにガゼルが語ったのは、元騎士だったイーライだからこその特徴だった。

「イーライの剣術はきれいすぎるんだなぁ」
「きれいすぎる、ですか?」
「あぁ。型にはまりすぎていると言えばいいかな。だから、熟練者には動きが読みやすくなる。最初はイーライに攻めさせていたが、どう感じた?」

 唐突な質問に、イーライは模擬戦が開始した最初の場面を思い出す。

「……攻めているのに、攻められていると感じていました」
「え、そうなの?」
「あぁ。どれだけ剣を振っても受け止められるだけじゃなくて、強く押し返されていたんだ」
「まあ、厳密に言えばあれは押し返していたんじゃなくて、押し当てていたんだ」

 言葉の意味が理解できず、明日香や夏希だけではなくイーライも首を傾げている。

「押し返すだと、受けた後にグッと押す感じだな。だが、押し当てるの場合は迫っている剣に対してこっちから大剣をぶつけにいっているんだ」
「そうするとどうなるんですか?」
「タイミングが大事だが、一番威力が大きくなるタイミングでぶつけられれば、防御に専念しているように見せて攻撃する事ができるんだよ」
「……まさか。俺は全ての攻撃で攻められていると感じていましたよ?」
「そりゃ当然だ。全ての攻撃に合わせていたからな」

 ガゼルが当然だと口にすると、イーライは口を開けたまま固まってしまう。
 総合的な実力でいうと騎士団の中では中の上くらいだったが、速度の面だけ見れば上位に入れる自信がある。
 その速度をもってしても、ガゼルには全ての攻撃に合わせられてしまった。

「最初に言ったが、イーライの剣術は型にはまりすぎている。魔獣を相手にするにはいいかもしれないが、読み合いが生じてくる対人戦では分が悪くなるだろうな」

 騎士団にいた頃の事を思い出してみると、同期の人間には勝っていても、場数を踏んできた先輩騎士の多くには敗北してきた。

「……そういう事だったのか」
「今から剣術を変えろとは言わない。だが、もっと狡猾に、下品な戦い方を覚えるのも必要だと俺は思うぜ。守るべき相手がいるなら特にな」

 ガゼルがそう口にすると、イーライの視線は明日香に向いた。
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