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第二章:新たなる力、メガネ付き

閑話・岳人の恨み節

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 勇者という立場から一転して一兵士にまで身を落とした岳人たち。
 マグノリア王国の都合で異世界から勝手に召喚してしまった手前、アースドラゴンの一件には情状酌量の余地があると判断されて死罪は免れている。
 ここから気持ちを新たにして活躍を示していけば、再び勇者としての立場を約束する事にもなっていた。……しかし。

「ふざけんなっ! 俺は勇者だぞ、てめぇらなんかの言う事なんか聞けるかよ!」
「黙れ! 貴様はすでに一兵士として配属されている! 命令違反は懲罰房行きだぞ!」
「てめぇが黙れよ! 事あるごとに懲罰房だと? マジでふざけんじゃねぇっての!」
「おい! 貴様、どこに行く!」

 騎士団が使用している訓練場と比べてやや廃れた感じも見える兵士たちの訓練場。
 それでも設備はしっかりしており、怪我をした時の救護班も待機している。
 そこで訓練後の片づけを言い渡された岳人だったが、地面に唾を吐き掛けてその場を立ち去ろうとしていた。

「止まれ、ガクト・カミハラ」

 しかし、入口の手前に立っていた人物が岳人の足を止めた。

「……てめぇ、ダルト・ホーク!」
「ホ、ホーク様!」
「兵士長の言葉が聞こえなかったのか? さっさと掃除をしろ」
「誰がするかよ! っていうか、勇者の俺様をこんなところに寄こしやがって、てめぇらの頭は空っぽなのか? あぁん?」

 騎士団長であるダルトは騎士たちの憧れであり、それは兵士たちであっても変わらない。
 誰もが敬意を示して言葉遣いにも気をつけるものだが、岳人は目の前まで歩いていくと睨みを利かせている。
 安い挑発にダルトが乗るわけもなく、淡々と同じ事を口にした。

「さっさと掃除をしろ」
「……ぺっ!」

 ――べちゃ。

 岳人の口から吐き出された唾がダルトの頬に飛ぶ。
 それを見ていた兵士長は怒りのあまり怒声を響かせようとしたのだが――すぐに口を噤んだ。
 それはなぜか――兵士長以上に憤怒している人物が目の前に立っていたからだ。

「なんだあ? 文句の一つも言えねぇの――ぐはあっ!?」

 もう一度唾を吐き掛けようとした刹那、岳人の腹にダルトの拳がめり込んでいた。
 体はくの字に折れ曲がり、全身から汗が一気に噴き出している。
 そのままよろよろとしゃがみ込んでいく岳人を見下ろしながら、ダルトはもう一度同じ言葉を口にした。

「さっさと掃除をしろ」
「……て、てめぇ……ぶっ殺してや――ぶべあっ!?」

 態度を変えようとしない岳人に対して、今度は左頬に平手打ちが炸裂する。
 体がグンと伸びたかと思えば、そのまま意識を飛ばして地面に転がってしまった。

「……すまんな、兵士長」
「い、いえ! むしろ、私の方こそお手を煩わせてしまい、申し訳ありません!」
「何を言うか。騎士団預かりからこちらにお願いする事になってしまったのだから、我らに非があるのだよ」

 ため息をつきながら謝罪を口にしたダルトに対して、兵士長は緊張しながら返答する。

「……とりあえず、私がこいつを懲罰房に連れて行こう。すまんが、片付けを頼めるか?」
「はっ! かしこまりました!」

 テキパキと片づけを始めた兵士長を横目に、ダルトは岳人を片手で持ち上げると、そのまま肩に担いで歩き出した。

「……全く。本当に、アスカ殿の方が勇者なのではないか?」
 そんな事を呟きながら、ダルトは懲罰房へ向かったのだった。

 ◆◇◆◇

 訓練場の片づけを終えた兵士長がその場を後にした。
 地面はきれいに均されており、静寂が訓練場を包み込んでいる。

 ――ジャリ。

 しかし、壁際から地面を踏みしめる音が訓練場に響いてきた。
 誰もいないはずの訓練場に突如として影が差し込み、漆黒の外套を羽織った男性が姿を現す。

「……くくく。あいつは利用できそうだな」

 そう呟いた直後、大きく跳躍した男性は訓練場の壁を乗り越えて、姿を消したのだった。
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