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第二章:新たなる力、メガネ付き

第7話:新しい生活 6

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 マゼリアに戻ってきたその日の夕方、夏希はジジから調合を教えてもらう事になった。
 明日香は店頭で在庫チェックをしており、イーライはその手伝いだ。
 しかし、イーライは心ここにあらずといった感じで作業をしており、明日香から見るとポーションを落としてしまわないか心配になってしまう。

「……イーライ、大丈夫?」
「ん? ……あ、あぁ、大丈夫だ、すまない」

 手が止まっていた事に気づいたのか、イーライは謝罪を口にした後からテキパキ動き出す。
 それでもしばらくするとまたボーっとしていたので、明日香は仕事の手を止めてイーライに声を掛けた。

「イーライ、ちょっと話そうよ」
「……あー、すまん」
「ねえ、本当にどうしたの? 今日の模擬戦で怪我でもしたんじゃないの?」

 最後は寸止めされていたとはいえ、その前までは全力でぶつかり合っていた。その過程で怪我をしていたとしてもおかしくはない。
 しかし、明日香の懸念にイーライは首を横に振る。

「いいや、怪我はしていない。ただな……」

 そこで言い淀んでしまったイーライだったが、明日香が目の前までやって来ると真正面から彼の目を見つめた事で、正直に自分の気持ちを伝えようと思えた。

「……今日の模擬戦、あれは俺の完敗だった。騎士団にいた頃もまだまだだと思っていたが、冒険者を相手にしても上には上がいるんだなと思い知らされたんだ」

 カウンターにもたれながら語り出した内容は、自分が明日香を本当に守れるかどうかという、不安に襲われたものだった。
 明日香のメガネに関しては秘匿されている。事情を知っている面々も限られており、信用できる者にしか伝わっていない。
 それでもいつかはバレてしまうだろう。特に冒険者たちにはアースドラゴンの一件で明日香の姿を目撃した者が多くいる。
 メガネが魔導具だと思わないにしても、あの女には何かがあると思われているかもしれない。
 そして、そこから明日香を狙う輩が出てこないとも限らないのだ。

「俺はまだまだだ。もっと鍛錬をしなければならないと、改めて自覚したよ」

 イーライの言葉を受けて、明日香はまた別の視点から申し訳ないという気持ちに苛まれた。

「……ごめんね、イーライ」
「どうしてアスカが謝るんだ?」
「だって、私がいなかったら、イーライは今も騎士団で鍛錬をしていて、剣の腕を磨いていたんだろうなって思ったら、申し訳なく思っちゃって」

 勝手に呼び出されたのだから明日香にはどうしようもできない事だった。
 しかし、自分が城の外に出たいと言わなければ護衛として選ばれる事もなく、接点も生まれなかったかもしれない。
 自分の事しか考えられなかった当時を振り返ると、どうしても申し訳ないという気持ちが大きく膨れ上がってしまった。

「何を言っているんだ。アスカがいなかったら、俺はお前と出会えなかったんだぞ? 今考えると、そっちの方が嫌だわ」
「でも……」
「それじゃあ聞くが、アスカは俺と出会わなかった方がよかったのか?」
「そ、そんな事ないわ! 私は、イーライと出会えて、イーライが護衛で嬉しかったもの!」

 イーライの問い掛けに即答した明日香は、彼が微笑むのを見てホッと胸を撫で下ろした。

「それなら、お前が謝る必要はどこにもない。それに、鍛錬はどこでもできるんだし、俺次第って事だよな」
「……ありがとう、イーライ」
「気にするな。むしろ、話を聞いてくれて俺がお礼を言いたいくらいだよ」

 そう口にしたイーライは、優しく明日香の頭をポンポンと叩いた。
 嬉しくも恥ずかしくなった明日香は少しだけ下を向き、顔を赤くする。
 ふと、視線を感じた方向へ横目を向けると、調合部屋へと続くドアの隙間から顔を覗かせている夏希とジジが視界に飛び込んできた。

「うふふ。良い雰囲気ですね、ジジさん」
「ほほほ。仲が良くて何よりですなぁ」
「……あ……あぁぁっ! 二人とも、違うからああああああああぁぁぁぁっ!?」

 慌てて否定を口にした明日香だったが、夏希とジジは微笑むだけでこれ以上は口を挟む事をせずに調合部屋に引っ込んでしまう。
 残された明日香は口をパクパクさせながら固まってしまい、イーライも顔を背けながら顔を真っ赤にさせていたのだった。
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