54 / 105
第一章:勇者召喚、おまけ付き
第50話:エピローグ 2
しおりを挟む
「次に、イーライとナツキ・カミヤよ、前へ」
「はっ!」
「は、はい!」
話題はどんどんと移り変わっていく。
名前を呼ばれた二人が返事をすると、明日香のすぐ後ろまでやって来た。
「さて、アスカ・ヤマトよ。此度の褒賞として小金貨五枚をそなたに贈るわけだが、他にも贈るものがある」
「え? 他にもあるのですか?」
「うむ。それはだなぁ……直接本人から聞いた方が良いだろうな」
「……へ? ほ、本人から?」
何を言っているのかと首をコテンと横に倒した明日香の隣に、後ろに立っていた二人が歩き出して彼女の前で振り返る。
何度も瞬きを繰り返していると、イーライと夏希が明日香の前で片膝をついた。
「えっ! ちょっと、二人とも!?」
「私、イーライ・ヤングストンは、汝、アスカ・ヤマトの剣となり、あなたの騎士となる事をここに誓います」
「わ、私、神谷夏希は、汝、大和明日香を守護する盾となり、あなたの騎士となる事をここに誓います!」
二人が明日香の騎士となる宣誓を終えると、アルが腰に下げた剣を抜いて明日香に手渡す。
「……二人の両肩に、剣を当ててください」
「……でも、これはちょっとダメですって!」
「……いいのです。これは、二人が望んだ事でもありますから」
小声でこれはダメだと口にするが、二人の望みだと言われると言い返せなくなってしまう。
しばらく迷っていたものの、このまま何もしなければ終わりがないと判断した明日香は決心を固めるために一度咳ばらいを挟んだ。
「ゴホン! ……こ、これでいいのかな?」
イーライの右肩から左肩に一回ずつ剣を軽く当て、同じ動作を夏希にも行う。
「ここにイーライ・ヤングストンとナツキ・カミヤの宣誓を受けて、二人がアスカ・ヤマトの騎士になった事を、マグノリア王国第一王子、アルディアン・マグノリアが見届けた!」
何がどうしてこうなった。
アルの口上を聞きながら、明日香は内心でそんな事を考えていたのだった。
大広間を出てから明日香の部屋に集まったイーライと夏希に対して、明日香は怒った様子で声を荒げていた。
「これはいったいどういう事ですか! ちゃんとした説明を求めます!」
当然の主張だと明日香は腕組みしながら問いただしているが、イーライも夏希もどこ吹く風といった感じで口を開いた。
「俺がそうしたいと思ったからだ。それ以外の理由はない」
「私は明日香さんと一緒にこの世界で暮らしたいと思いました! それだけです!」
「……いや、そんな自信満々に言われてもなぁ」
「まあまあ、いいじゃないか、ヤマト様」
「そうですよ。ナツキ様にとってはガクト様たちといるよりも、あなたと一緒にいた方がより良い時間を過ごせると思いますしね」
アルとリヒトも二人へ助け舟を出して明日香の説得を試みる。
とはいえ、現時点で騎士になる事を断ってしまうと二人が路頭に迷ってしまうらしく、明日香としては選択肢が一つしかない状態になっていた。
「私はジジ様とも面識がございますし、このまま道具屋までご案内いたしましょう」
「ありがとうございます、バーグマン様!」
「では、私は公務に戻るとしよう。後は任せたぞ、イーライ」
話が勝手にまとまっていき、夏希とリヒト、そしてアルが部屋を後にしてしまう。
残された明日香はイーライを睨みつけながら詰め寄っていく。
「ちょっと! 本当にどういう事なのよ!」
「さっき言った通りだ」
「あれじゃあ説明になってないわよ! イーライがそうしたいって、どういう事よ! 騎士団はどうするのよ!」
「騎士団ではできない事が見つかった、ただそれだけの事だ」
「それじゃあ、その騎士団ではできない事ってなんなのよ?」
真正面からイーライの目を見ながらそう問い掛けると、珍しく彼の方が照れたように視線を逸らせながら答えた。
「……惚れた女性を、守りたいだけだ」
「……え?」
ここにきてようやく気がついた。
明日香のメガネに映し出されているイーライの好感度が――100になっていた事に。
そして明日香も思い出してしまった。イーライを助けるためとはいえ、口移しでポーションを飲ませた事を。
「…………な、ななななっ!?」
「お、俺じゃあダメなのか? やはり、殿下が好き……なのか?」
「ち、ちちちち、違うからね! 私は別にアル様が好きってわけじゃないの! 良くしてもらっているし慕ってはいるけど、恋愛感情じゃないわよ!」
「なら、俺はどうなんだ! 俺は! ……アスカが、好きだ」
今度の言葉は視線を逸らす事なく、真正面から明日香の目を見ての言葉だった。
イーライの問いに対する明日香の答えは――
「……い、今はまだ、気持ちの整理がついてないの! ……だけど、その……」
何やら言い淀んでいる明日香の言葉を、イーライは真っすぐに見つめながら待ち続けた。
「…………こ、これからも、よろしくお願いします! これでいいでしょ――んっ」
明日香の答えを聞いたイーライは、彼女の手を取り引き寄せて、唇を重ねた。
驚いた明日香だったが、自分もイーライに好意を抱いていたのだと気づく事ができたのだと嬉しくも思っていた。
明日香のこれからの物語は、きっと幸せに彩られる事だろう。
第一章 終わり
「はっ!」
「は、はい!」
話題はどんどんと移り変わっていく。
名前を呼ばれた二人が返事をすると、明日香のすぐ後ろまでやって来た。
「さて、アスカ・ヤマトよ。此度の褒賞として小金貨五枚をそなたに贈るわけだが、他にも贈るものがある」
「え? 他にもあるのですか?」
「うむ。それはだなぁ……直接本人から聞いた方が良いだろうな」
「……へ? ほ、本人から?」
何を言っているのかと首をコテンと横に倒した明日香の隣に、後ろに立っていた二人が歩き出して彼女の前で振り返る。
何度も瞬きを繰り返していると、イーライと夏希が明日香の前で片膝をついた。
「えっ! ちょっと、二人とも!?」
「私、イーライ・ヤングストンは、汝、アスカ・ヤマトの剣となり、あなたの騎士となる事をここに誓います」
「わ、私、神谷夏希は、汝、大和明日香を守護する盾となり、あなたの騎士となる事をここに誓います!」
二人が明日香の騎士となる宣誓を終えると、アルが腰に下げた剣を抜いて明日香に手渡す。
「……二人の両肩に、剣を当ててください」
「……でも、これはちょっとダメですって!」
「……いいのです。これは、二人が望んだ事でもありますから」
小声でこれはダメだと口にするが、二人の望みだと言われると言い返せなくなってしまう。
しばらく迷っていたものの、このまま何もしなければ終わりがないと判断した明日香は決心を固めるために一度咳ばらいを挟んだ。
「ゴホン! ……こ、これでいいのかな?」
イーライの右肩から左肩に一回ずつ剣を軽く当て、同じ動作を夏希にも行う。
「ここにイーライ・ヤングストンとナツキ・カミヤの宣誓を受けて、二人がアスカ・ヤマトの騎士になった事を、マグノリア王国第一王子、アルディアン・マグノリアが見届けた!」
何がどうしてこうなった。
アルの口上を聞きながら、明日香は内心でそんな事を考えていたのだった。
大広間を出てから明日香の部屋に集まったイーライと夏希に対して、明日香は怒った様子で声を荒げていた。
「これはいったいどういう事ですか! ちゃんとした説明を求めます!」
当然の主張だと明日香は腕組みしながら問いただしているが、イーライも夏希もどこ吹く風といった感じで口を開いた。
「俺がそうしたいと思ったからだ。それ以外の理由はない」
「私は明日香さんと一緒にこの世界で暮らしたいと思いました! それだけです!」
「……いや、そんな自信満々に言われてもなぁ」
「まあまあ、いいじゃないか、ヤマト様」
「そうですよ。ナツキ様にとってはガクト様たちといるよりも、あなたと一緒にいた方がより良い時間を過ごせると思いますしね」
アルとリヒトも二人へ助け舟を出して明日香の説得を試みる。
とはいえ、現時点で騎士になる事を断ってしまうと二人が路頭に迷ってしまうらしく、明日香としては選択肢が一つしかない状態になっていた。
「私はジジ様とも面識がございますし、このまま道具屋までご案内いたしましょう」
「ありがとうございます、バーグマン様!」
「では、私は公務に戻るとしよう。後は任せたぞ、イーライ」
話が勝手にまとまっていき、夏希とリヒト、そしてアルが部屋を後にしてしまう。
残された明日香はイーライを睨みつけながら詰め寄っていく。
「ちょっと! 本当にどういう事なのよ!」
「さっき言った通りだ」
「あれじゃあ説明になってないわよ! イーライがそうしたいって、どういう事よ! 騎士団はどうするのよ!」
「騎士団ではできない事が見つかった、ただそれだけの事だ」
「それじゃあ、その騎士団ではできない事ってなんなのよ?」
真正面からイーライの目を見ながらそう問い掛けると、珍しく彼の方が照れたように視線を逸らせながら答えた。
「……惚れた女性を、守りたいだけだ」
「……え?」
ここにきてようやく気がついた。
明日香のメガネに映し出されているイーライの好感度が――100になっていた事に。
そして明日香も思い出してしまった。イーライを助けるためとはいえ、口移しでポーションを飲ませた事を。
「…………な、ななななっ!?」
「お、俺じゃあダメなのか? やはり、殿下が好き……なのか?」
「ち、ちちちち、違うからね! 私は別にアル様が好きってわけじゃないの! 良くしてもらっているし慕ってはいるけど、恋愛感情じゃないわよ!」
「なら、俺はどうなんだ! 俺は! ……アスカが、好きだ」
今度の言葉は視線を逸らす事なく、真正面から明日香の目を見ての言葉だった。
イーライの問いに対する明日香の答えは――
「……い、今はまだ、気持ちの整理がついてないの! ……だけど、その……」
何やら言い淀んでいる明日香の言葉を、イーライは真っすぐに見つめながら待ち続けた。
「…………こ、これからも、よろしくお願いします! これでいいでしょ――んっ」
明日香の答えを聞いたイーライは、彼女の手を取り引き寄せて、唇を重ねた。
驚いた明日香だったが、自分もイーライに好意を抱いていたのだと気づく事ができたのだと嬉しくも思っていた。
明日香のこれからの物語は、きっと幸せに彩られる事だろう。
第一章 終わり
21
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる