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第一章:勇者召喚、おまけ付き
第43話:ガゼリア山脈の魔獣 7
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「アル様!」
「どうしてこのような前線へ? イーライ、これはいったいどういう事だ!」
「あの、アル様! イーライを怒らないでください! 私がここに来たいと言ったんです」
「ヤマト様がどうして?」
ダルトと入れ替わるようにして戻ってきたアルだったが、明日香が来ている事を聞いた彼は休憩をするのも惜しんで二人の下へ駆けつけていた。
イーライを怒鳴り散らそうと思っていたアルだったが、明日香から自ら望んでこの場に来たと言われてしまい、怒りの矛先をどこへ向ければいいのか分からなくなってしまう。
「……くそっ!」
「す、すみません、アル様。でも、私にもできる事があると思ったから、ここまで来たんです」
「ヤマト様にできる事というと、ポーションですか? それであればイーライに持たせてあなたはマゼリアにいてくれれば――」
「違います! このメガネです!」
「…………メ、メガネですか?」
何を言っているのだと思われただろう。しかし、こうなる事は明日香も承知している。
明日香はメガネが相手の行動を予測してくれるという機能を兼ね備えていた事を説明し、これがあればアースドラゴンにも対処しやすくなるはずだと説明した。
だが、この説明を受けても明日香が前線に立つ事をアルは許さなかった。
「ど、どうしてですか? これがあれば、きっと被害を最小限に抑える事ができます!」
「いいですか、ヤマト様。アースドラゴンの動きを予測できるとしても、それはあなたが最前線に立たなければ意味がありません。指示が出せないのです。この意味が分かりますか?」
アルが何を言わんとしているのか、明日香は理解している。
騎士団と同じ場所に自分が立つ、という事だ。
それがどれだけ危険であるのか、先ほどのダルトを見れば嫌でも理解できてしまう。
だからと言って、ここまで来て尻尾を巻いて逃げるのか。安全な場所から騎士団の無事を祈るだけなのか。
否、そうではないと明日香は強い意志を持って反論した。
「できる事が目の前にあるのにそれをしないなんて、私にはできません!」
「ヤマト様!」
「これも全て、岳人君たちが招いた結果なんですよね? 同郷として、私には皆さんのために何かを成さねばなりません!」
「ヤマト様は何も悪くないではないですか! 悪いのは勇者様たちなのですよ!」
「関係ないわ! 確かに私は年増だとか、存在が不愉快だとか言われて腹も立ちましたけど、それでもあの子たちはまだ子供なんですよ! 見ず知らずの子供たちですけど、それを守るのが大人の仕事じゃないですか!」
アルが反論しようとしても、明日香は捲し立てるように自らの意見を口にしていく。
徐々にアルが身を引いていくが、明日香は前のめりになりながらさらに言葉を続けていく。
逃がさないぞと言わんばかりに詰め寄っていき、自分の意見が通るまで捲し立ててやるという迫力すら感じられる。
こうしている間にも最前線ではアースドラゴンが猛威を振るっており、アルも一刻も早く戻らなければならない。
アルはマグノリア王国の第一王子である。
勇者召喚に巻き込まれた一人の女性の命と、多くの国民の命。それらを天秤に掛けた時、選択するべき答えは決められているも同然だった。
「……分かった。よろしく頼む、ヤマト様」
「あ、ありがとうございます、アル様!」
「イーライ! お前が連れてきたのだから、命を賭してでも守り抜け、いいな!」
「はっ!」
アルにとっては苦渋の決断だっただろう。
だが、これが第一王子としての選択なのであり、間違いではない。あくまでもアルディアン・マグノリアという個人の心の問題なのだ。
「そうだ、アル様。これを飲んでください」
「これは……ポーションですか。ダルトの傷が完全に癒えていたが、あれもヤマト様の?」
「はい。これで傷を癒してください」
「……ダルトめ。私よりも先にヤマト様のポーションを飲むとは」
「え? 何か言いましたか、アル様?」
「ん? いや、なんでもない。では、ありがたくいただこうかな」
少し恥ずかしそうにしながら、アルも一気にポーションを飲み干してしまう。
「……おぉ……これは、素晴らしいポーションですね! 力が漲ってくるようです!」
「これ、普通の下級ポーションですよ?」
「いいや、きっとこれには特別な力が……よし、皆の者! もう一度行くぞ!」
アルの号令を受けて数人の騎士が駆け出すと、イーライと共に明日香も追い掛ける。
「イーライ、レイは?」
「ここで待機させる。いくらレイでも、アースドラゴンを相手に普段通りの動きはできない」
「ブルフフフッ!」
走りながら振り返ると、レイは二人を見つめながら鼻息を荒くした。
「……絶対に戻ってくるから! 待っていてね!」
「ヒヒイイィィン!」
明日香の問い掛けに答えたのか、レイのいななきがガゼリア山脈に響き渡った。
「どうしてこのような前線へ? イーライ、これはいったいどういう事だ!」
「あの、アル様! イーライを怒らないでください! 私がここに来たいと言ったんです」
「ヤマト様がどうして?」
ダルトと入れ替わるようにして戻ってきたアルだったが、明日香が来ている事を聞いた彼は休憩をするのも惜しんで二人の下へ駆けつけていた。
イーライを怒鳴り散らそうと思っていたアルだったが、明日香から自ら望んでこの場に来たと言われてしまい、怒りの矛先をどこへ向ければいいのか分からなくなってしまう。
「……くそっ!」
「す、すみません、アル様。でも、私にもできる事があると思ったから、ここまで来たんです」
「ヤマト様にできる事というと、ポーションですか? それであればイーライに持たせてあなたはマゼリアにいてくれれば――」
「違います! このメガネです!」
「…………メ、メガネですか?」
何を言っているのだと思われただろう。しかし、こうなる事は明日香も承知している。
明日香はメガネが相手の行動を予測してくれるという機能を兼ね備えていた事を説明し、これがあればアースドラゴンにも対処しやすくなるはずだと説明した。
だが、この説明を受けても明日香が前線に立つ事をアルは許さなかった。
「ど、どうしてですか? これがあれば、きっと被害を最小限に抑える事ができます!」
「いいですか、ヤマト様。アースドラゴンの動きを予測できるとしても、それはあなたが最前線に立たなければ意味がありません。指示が出せないのです。この意味が分かりますか?」
アルが何を言わんとしているのか、明日香は理解している。
騎士団と同じ場所に自分が立つ、という事だ。
それがどれだけ危険であるのか、先ほどのダルトを見れば嫌でも理解できてしまう。
だからと言って、ここまで来て尻尾を巻いて逃げるのか。安全な場所から騎士団の無事を祈るだけなのか。
否、そうではないと明日香は強い意志を持って反論した。
「できる事が目の前にあるのにそれをしないなんて、私にはできません!」
「ヤマト様!」
「これも全て、岳人君たちが招いた結果なんですよね? 同郷として、私には皆さんのために何かを成さねばなりません!」
「ヤマト様は何も悪くないではないですか! 悪いのは勇者様たちなのですよ!」
「関係ないわ! 確かに私は年増だとか、存在が不愉快だとか言われて腹も立ちましたけど、それでもあの子たちはまだ子供なんですよ! 見ず知らずの子供たちですけど、それを守るのが大人の仕事じゃないですか!」
アルが反論しようとしても、明日香は捲し立てるように自らの意見を口にしていく。
徐々にアルが身を引いていくが、明日香は前のめりになりながらさらに言葉を続けていく。
逃がさないぞと言わんばかりに詰め寄っていき、自分の意見が通るまで捲し立ててやるという迫力すら感じられる。
こうしている間にも最前線ではアースドラゴンが猛威を振るっており、アルも一刻も早く戻らなければならない。
アルはマグノリア王国の第一王子である。
勇者召喚に巻き込まれた一人の女性の命と、多くの国民の命。それらを天秤に掛けた時、選択するべき答えは決められているも同然だった。
「……分かった。よろしく頼む、ヤマト様」
「あ、ありがとうございます、アル様!」
「イーライ! お前が連れてきたのだから、命を賭してでも守り抜け、いいな!」
「はっ!」
アルにとっては苦渋の決断だっただろう。
だが、これが第一王子としての選択なのであり、間違いではない。あくまでもアルディアン・マグノリアという個人の心の問題なのだ。
「そうだ、アル様。これを飲んでください」
「これは……ポーションですか。ダルトの傷が完全に癒えていたが、あれもヤマト様の?」
「はい。これで傷を癒してください」
「……ダルトめ。私よりも先にヤマト様のポーションを飲むとは」
「え? 何か言いましたか、アル様?」
「ん? いや、なんでもない。では、ありがたくいただこうかな」
少し恥ずかしそうにしながら、アルも一気にポーションを飲み干してしまう。
「……おぉ……これは、素晴らしいポーションですね! 力が漲ってくるようです!」
「これ、普通の下級ポーションですよ?」
「いいや、きっとこれには特別な力が……よし、皆の者! もう一度行くぞ!」
アルの号令を受けて数人の騎士が駆け出すと、イーライと共に明日香も追い掛ける。
「イーライ、レイは?」
「ここで待機させる。いくらレイでも、アースドラゴンを相手に普段通りの動きはできない」
「ブルフフフッ!」
走りながら振り返ると、レイは二人を見つめながら鼻息を荒くした。
「……絶対に戻ってくるから! 待っていてね!」
「ヒヒイイィィン!」
明日香の問い掛けに答えたのか、レイのいななきがガゼリア山脈に響き渡った。
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