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第一章:勇者召喚、おまけ付き
第39話:ガゼリア山脈の魔獣 3
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冒険者ギルドに到着すると、ギルドの中はとても慌ただしくなっていた。
というのも、冒険者ギルドにも岳人たちが独断でガゼリア山脈へ向かった事が報告されており、騎士団と連携して向かう予定が、あちらが先行して出発してしまった。
冒険者の中には文句を口にする者も多くいて、士気はだいぶ落ちている。
「リンスさん!」
「あっ! アスカ様、皆さんも!」
「ポーションを持ってきました!」
明日香の声が冒険者ギルド内に響き渡り多くの視線を集める。
しかし、明日香はそんな視線に気づく事はなく、合計四つの木箱をカウンター前に置くとリンスが受付から飛び出してきた。
「ありがとうございます! ……はい……確かに、下級ポーションに、中級ポーションまで!」
「ほほほ。在庫はなくなってしまいましたが、皆さんの無事を思えばこれくらいはのう」
「本当にありがとうございます、ジジ様!」
「アスカさんも頑張ってくれましたからのう」
「アスカ様も本当にありがとうございます!」
年配のジジや女性の明日香が頑張ってポーションを大量に用意してくれている。
その姿を見た冒険者たちは、自分たちの態度を改めて、自分たちが拠点としているマゼリアに危機が迫っているのだともう一度自覚すると、先ほどまでのどんよりとした雰囲気が一変した。
誰もが表情を引き締めており、一人ひとりが声を掛け合って装備の確認を始める。
「ギルドからポーションを支給いたします! ガゼリア山脈へ向かう第一陣には中級ポーションと下級ポーションを! カフカの森で魔獣を押し止める第二陣には下級ポーションを!」
リンスの声が響き渡ると、多くの冒険者がカウンター前に集まって来た。
「おう! 助かったぜ!」
「ジジさん、いつもありがとう。お嬢ちゃんもね」
「よーし! 騎士団の奴らに手柄を取られる前に、俺たちも行くぞおおおおぉぉっ!」
「「「「おおおおぉぉっ!」」」」
誰もが明日香とジジにお礼を口にしながらポーションを受け取っていく。
そして、士気が高まると一気に歓声があがり、多くの冒険者が飛び出していった。
「イーライ!」
「あぁ。俺たちも行こう!」
「アスカさん、イーライ。気をつけてくださいね」
ジジが心配そうに口を開くと、二人は力強く頷いてから冒険者ギルドを飛び出していった。
イーライは騎士団が所有している馬房に足を運んでいた。
すでに多くの騎士が馬を使ってガゼリア山脈へ向かっておりほとんどの馬房が空になっているのだが、一頭だけ鼻息を荒くしてこちらを見ていた。
「レイ!」
「ブルフフフッ!」
「……お、大きいですね」
雄々しい体格をした栗毛の牡馬の前に立ったイーライが名前を呼ぶと、レイはさらに鼻息を荒くして顔を近づけてきた。
本物の馬を間近で見た事のなかった明日香は気圧されながらも、イーライが手招きしてきたのでゆっくりと歩み寄っていく。
「こいつは俺の愛馬のレイだ。騎士団の中でも特に気性の荒い馬だが、俺とは相性が良くてな」
「そ、そうなんですね」
「レイ。今からガゼリア山脈まで一気に駆け抜けて欲しい。アスカも一緒だが、いけるか?」
イーライの言葉を理解しているのか、レイは明日香に顔を向けるとまじまじと見つめた後、鼻息を吹きかけてから大きくいなないた。
「すごいな」
「……え、何が?」
「レイがアスカの事を認めたみたいだ」
「……そ、そうなの? 何もしてないんだけど?」
「こいつもアスカに何かを感じ取ったのかもしれないな」
そう口にしながらイーライは鞍を取りつけると、鮮やかに飛び乗って明日香に手を伸ばす。
「……え……え?」
「急ぐんだろう?」
まさか馬に乗る事になるとは思っておらず慌ててしまったが、急ぐという言葉に我に返った明日香は意を決しイーライの手を取った。
すると、グイっと引っ張られて浮遊感を味わった明日香は驚きと同時に目を閉じてしまう。
浮遊感はすぐになくなり恐る恐る目を開けると、自分が腰掛けている場所にさらに驚き、そして極限に恥ずかしくなってしまった。
「ちょっと! ちょっと、イーライ!?」
「なんだ?」
「なんで膝の上なのよ! しかも横向き、顏が近いって!?」
「直に座ったらお尻が痛くなるけど、いいのか?」
「うっ!? …………お、お願いします」
耳まで真っ赤にさせた明日香は顔を逸らしてイーライの方を見る事ができないでいる。
だから気づかなかったのだが、この時はイーライも顔を赤くしていた。
すれ違いの想いを乗せたレイは王城から門まで一直線に駆け抜けると、そのままカフカの森に向けて突き進んでいくのだった。
というのも、冒険者ギルドにも岳人たちが独断でガゼリア山脈へ向かった事が報告されており、騎士団と連携して向かう予定が、あちらが先行して出発してしまった。
冒険者の中には文句を口にする者も多くいて、士気はだいぶ落ちている。
「リンスさん!」
「あっ! アスカ様、皆さんも!」
「ポーションを持ってきました!」
明日香の声が冒険者ギルド内に響き渡り多くの視線を集める。
しかし、明日香はそんな視線に気づく事はなく、合計四つの木箱をカウンター前に置くとリンスが受付から飛び出してきた。
「ありがとうございます! ……はい……確かに、下級ポーションに、中級ポーションまで!」
「ほほほ。在庫はなくなってしまいましたが、皆さんの無事を思えばこれくらいはのう」
「本当にありがとうございます、ジジ様!」
「アスカさんも頑張ってくれましたからのう」
「アスカ様も本当にありがとうございます!」
年配のジジや女性の明日香が頑張ってポーションを大量に用意してくれている。
その姿を見た冒険者たちは、自分たちの態度を改めて、自分たちが拠点としているマゼリアに危機が迫っているのだともう一度自覚すると、先ほどまでのどんよりとした雰囲気が一変した。
誰もが表情を引き締めており、一人ひとりが声を掛け合って装備の確認を始める。
「ギルドからポーションを支給いたします! ガゼリア山脈へ向かう第一陣には中級ポーションと下級ポーションを! カフカの森で魔獣を押し止める第二陣には下級ポーションを!」
リンスの声が響き渡ると、多くの冒険者がカウンター前に集まって来た。
「おう! 助かったぜ!」
「ジジさん、いつもありがとう。お嬢ちゃんもね」
「よーし! 騎士団の奴らに手柄を取られる前に、俺たちも行くぞおおおおぉぉっ!」
「「「「おおおおぉぉっ!」」」」
誰もが明日香とジジにお礼を口にしながらポーションを受け取っていく。
そして、士気が高まると一気に歓声があがり、多くの冒険者が飛び出していった。
「イーライ!」
「あぁ。俺たちも行こう!」
「アスカさん、イーライ。気をつけてくださいね」
ジジが心配そうに口を開くと、二人は力強く頷いてから冒険者ギルドを飛び出していった。
イーライは騎士団が所有している馬房に足を運んでいた。
すでに多くの騎士が馬を使ってガゼリア山脈へ向かっておりほとんどの馬房が空になっているのだが、一頭だけ鼻息を荒くしてこちらを見ていた。
「レイ!」
「ブルフフフッ!」
「……お、大きいですね」
雄々しい体格をした栗毛の牡馬の前に立ったイーライが名前を呼ぶと、レイはさらに鼻息を荒くして顔を近づけてきた。
本物の馬を間近で見た事のなかった明日香は気圧されながらも、イーライが手招きしてきたのでゆっくりと歩み寄っていく。
「こいつは俺の愛馬のレイだ。騎士団の中でも特に気性の荒い馬だが、俺とは相性が良くてな」
「そ、そうなんですね」
「レイ。今からガゼリア山脈まで一気に駆け抜けて欲しい。アスカも一緒だが、いけるか?」
イーライの言葉を理解しているのか、レイは明日香に顔を向けるとまじまじと見つめた後、鼻息を吹きかけてから大きくいなないた。
「すごいな」
「……え、何が?」
「レイがアスカの事を認めたみたいだ」
「……そ、そうなの? 何もしてないんだけど?」
「こいつもアスカに何かを感じ取ったのかもしれないな」
そう口にしながらイーライは鞍を取りつけると、鮮やかに飛び乗って明日香に手を伸ばす。
「……え……え?」
「急ぐんだろう?」
まさか馬に乗る事になるとは思っておらず慌ててしまったが、急ぐという言葉に我に返った明日香は意を決しイーライの手を取った。
すると、グイっと引っ張られて浮遊感を味わった明日香は驚きと同時に目を閉じてしまう。
浮遊感はすぐになくなり恐る恐る目を開けると、自分が腰掛けている場所にさらに驚き、そして極限に恥ずかしくなってしまった。
「ちょっと! ちょっと、イーライ!?」
「なんだ?」
「なんで膝の上なのよ! しかも横向き、顏が近いって!?」
「直に座ったらお尻が痛くなるけど、いいのか?」
「うっ!? …………お、お願いします」
耳まで真っ赤にさせた明日香は顔を逸らしてイーライの方を見る事ができないでいる。
だから気づかなかったのだが、この時はイーライも顔を赤くしていた。
すれ違いの想いを乗せたレイは王城から門まで一直線に駆け抜けると、そのままカフカの森に向けて突き進んでいくのだった。
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