上 下
43 / 105
第一章:勇者召喚、おまけ付き

第39話:ガゼリア山脈の魔獣 3

しおりを挟む
 冒険者ギルドに到着すると、ギルドの中はとても慌ただしくなっていた。
 というのも、冒険者ギルドにも岳人たちが独断でガゼリア山脈へ向かった事が報告されており、騎士団と連携して向かう予定が、あちらが先行して出発してしまった。
 冒険者の中には文句を口にする者も多くいて、士気はだいぶ落ちている。

「リンスさん!」
「あっ! アスカ様、皆さんも!」
「ポーションを持ってきました!」

 明日香の声が冒険者ギルド内に響き渡り多くの視線を集める。
 しかし、明日香はそんな視線に気づく事はなく、合計四つの木箱をカウンター前に置くとリンスが受付から飛び出してきた。

「ありがとうございます! ……はい……確かに、下級ポーションに、中級ポーションまで!」
「ほほほ。在庫はなくなってしまいましたが、皆さんの無事を思えばこれくらいはのう」
「本当にありがとうございます、ジジ様!」
「アスカさんも頑張ってくれましたからのう」
「アスカ様も本当にありがとうございます!」

 年配のジジや女性の明日香が頑張ってポーションを大量に用意してくれている。
 その姿を見た冒険者たちは、自分たちの態度を改めて、自分たちが拠点としているマゼリアに危機が迫っているのだともう一度自覚すると、先ほどまでのどんよりとした雰囲気が一変した。
 誰もが表情を引き締めており、一人ひとりが声を掛け合って装備の確認を始める。

「ギルドからポーションを支給いたします! ガゼリア山脈へ向かう第一陣には中級ポーションと下級ポーションを! カフカの森で魔獣を押し止める第二陣には下級ポーションを!」

 リンスの声が響き渡ると、多くの冒険者がカウンター前に集まって来た。

「おう! 助かったぜ!」
「ジジさん、いつもありがとう。お嬢ちゃんもね」
「よーし! 騎士団の奴らに手柄を取られる前に、俺たちも行くぞおおおおぉぉっ!」
「「「「おおおおぉぉっ!」」」」

 誰もが明日香とジジにお礼を口にしながらポーションを受け取っていく。
 そして、士気が高まると一気に歓声があがり、多くの冒険者が飛び出していった。

「イーライ!」
「あぁ。俺たちも行こう!」
「アスカさん、イーライ。気をつけてくださいね」

 ジジが心配そうに口を開くと、二人は力強く頷いてから冒険者ギルドを飛び出していった。

 イーライは騎士団が所有している馬房に足を運んでいた。
 すでに多くの騎士が馬を使ってガゼリア山脈へ向かっておりほとんどの馬房が空になっているのだが、一頭だけ鼻息を荒くしてこちらを見ていた。

「レイ!」
「ブルフフフッ!」
「……お、大きいですね」

 雄々しい体格をした栗毛の牡馬の前に立ったイーライが名前を呼ぶと、レイはさらに鼻息を荒くして顔を近づけてきた。
 本物の馬を間近で見た事のなかった明日香は気圧されながらも、イーライが手招きしてきたのでゆっくりと歩み寄っていく。

「こいつは俺の愛馬のレイだ。騎士団の中でも特に気性の荒い馬だが、俺とは相性が良くてな」
「そ、そうなんですね」
「レイ。今からガゼリア山脈まで一気に駆け抜けて欲しい。アスカも一緒だが、いけるか?」

 イーライの言葉を理解しているのか、レイは明日香に顔を向けるとまじまじと見つめた後、鼻息を吹きかけてから大きくいなないた。

「すごいな」
「……え、何が?」
「レイがアスカの事を認めたみたいだ」
「……そ、そうなの? 何もしてないんだけど?」
「こいつもアスカに何かを感じ取ったのかもしれないな」

 そう口にしながらイーライは鞍を取りつけると、鮮やかに飛び乗って明日香に手を伸ばす。

「……え……え?」
「急ぐんだろう?」

 まさか馬に乗る事になるとは思っておらず慌ててしまったが、急ぐという言葉に我に返った明日香は意を決しイーライの手を取った。
 すると、グイっと引っ張られて浮遊感を味わった明日香は驚きと同時に目を閉じてしまう。
 浮遊感はすぐになくなり恐る恐る目を開けると、自分が腰掛けている場所にさらに驚き、そして極限に恥ずかしくなってしまった。

「ちょっと! ちょっと、イーライ!?」
「なんだ?」
「なんで膝の上なのよ! しかも横向き、顏が近いって!?」
「直に座ったらお尻が痛くなるけど、いいのか?」
「うっ!? …………お、お願いします」

 耳まで真っ赤にさせた明日香は顔を逸らしてイーライの方を見る事ができないでいる。
 だから気づかなかったのだが、この時はイーライも顔を赤くしていた。
 すれ違いの想いを乗せたレイは王城から門まで一直線に駆け抜けると、そのままカフカの森に向けて突き進んでいくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...