勇者召喚おまけ付き ~チートはメガネで私がおまけ~

渡琉兎

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第一章:勇者召喚、おまけ付き

閑話・暴走する勇者たち

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 王城では大型の魔獣を討伐するべく、夜遅くまで掛けて大規模な部隊が結成されていた。
 部隊の隊長は騎士団長のダルトである。
 冒険者ギルドとも連携を取りながら、明日の朝にはマゼリアを出発してカフカの森、そしてその先にあるガゼリア山脈へ向かう手はずとなっていた。

「面倒を掛けるな、ダルト」
「がはは! 何を謝る事がありますか、殿下! 騎士団とは本来、こういうものですよ!」

 今回の魔獣討伐にアルは参加しない。いや、できなかった。

「私も行きたかったのだが、さすがに陛下に止められてしまったよ」
「いや、仮に陛下が止めなかったとしても、私が止めていましたよ」
「私も止めますよ、殿下」
「……リヒト、お前なぁ」

 自分に味方がいないと悟ったのか、アルはジト目を二人に向けた後、大きくため息をついた。

「あなたは一国の第一王子なのですから、自重してください」
「はいはい、分かっているよ。……しかし、勇者たちは本当に置いていくのか?」
「当然です! あれらはまだ小型の魔獣とも戦った事がない、戦闘の素人です。初陣が大型魔獣ではかわいそうでしょう」

 今回の魔獣討伐に、岳人たちは同行を許されなかった。
 岳人本人は勇者の出番がやって来たかとやる気満々だったのだが、それをダルトが頑なに拒否したのだ。
 しかし、この時点で岳人は荒れに荒れてしまった。
 拒否をしたダルトに食って掛かり、訓練用の木剣とはいえ剣まで向けてしまったのだ。

「あれは精神面から鍛え直さなければなりません。今のままでは、戦場に出ても全く役に立たないでしょうなぁ」
「……まあ、当然と言えば当然か。勇者たちの世界だと、彼らはまだ子供らしいからな」
「そうなのですか?」
「あぁ。ヤマト様が言っていたよ。この世界とあちらの世界では、常識が違い過ぎるとね」
「ヤマト様と言うと……例の女性の方ですかな?」

 ダルトの問い掛けにアルは一つ頷いた。

「正直、ヤマト様がいなければ、私たちは勇者たちとどのように接すればいいのか、今もなお悩み続けていただろうな」
「いや、悩んだ結果があれでは、どちらにしても効果は薄かったのではありませんかな?」
「……それは言わないでくれ、ダルト。私も苦悩しているんだよ」

 今までの関わり合い方で苛立っていた岳人たちを見て、アルは明日香のアドバイスを活かそうと関わり合い方を変えてみた。子供と接するように、なるべく優しく対応してみたのだ。
 しかし、そうすると今度は岳人たちが図に乗ってやりたい放題し始めてしまい、最終的にはダルトに剣を向けるまでになってしまった。
 その時はダルトが岳人を一撃で倒してしまい大きな騒動にはならなかったが、今後も同じようになるとは限らない。
 その事を、剣を向けられたダルト自身が一番理解していた。

「曲がりなりにも勇者です。急激な成長から、私を追い抜いていく事も考えられます。その時点で自らの考え方を変えていなければ、大きな問題を遠からず起こしてしまうでしょうなぁ」

 明日香からのアドバイスを上手く活かす事ができていない自分を腹立たしく思ってしまうアルだったが、今回に限って言えば岳人たちの性格の問題なのでどうしようもなかった。
 むしろ、今の状況は岳人たちをよく抑えている、と言えるものでもあった。

「まあ、大型魔獣の件が片付いたら、もう一度あれらと話し合いましょう」
「それもそうだな。ちゃんと話し合いができれば、きっと分かってもらえるはずだ」
「私も協力しますよ、殿下」

 ダルト、アル、リヒトと口にしながら、この日は明日の朝に備えて休む事にした。
 しかし――彼らの想いは呆気なく打ち砕かれる事になってしまう。

 ――ドンドンドンッ!

 普段では絶対にあり得ないほどの力強さで、アルが休む部屋の扉が叩かれた。
 慌てて飛び起きたアルが扉を開けると、そこには血相を変えたリヒトと、怒り心頭のダルトが立っていた。

「どうした! まさか、魔獣が下りてきたのか!」
「……ち、違います、アル様」
「あれらが勝手に、ガゼリア山脈へ向かってしまったのですよ!」
「……あれらとは……ま、まさか!?」

 魔獣との実戦を長引かせた結果、岳人たちの苛立ちは頂点に達していた。
 そして、自分が主人公だと思い込み、勇者なら死ぬ事はないと勘違いをして、勝手にマゼリアを飛び出してしまったのだ。

「……し、城の、マゼリアの門番はどうした!」
「勇者様方は、それぞれの門番を気絶させて飛び出していったようです」
「あれらを守る必要などないでしょう! 私たちは予定通り、冒険者たちと一緒になってガゼリア山脈へ――」
「いいや、ダメだ!」

 岳人たちを見捨てるべきだと口にしたダルトとは対照的に、アルは声を張り上げると急ぎ身支度を整え始めた。

「……で、殿下、何をしているのですか?」
「見たら分かるだろう、出発準備だ!」
「な、なりませんぞ、殿下! あなたがあれらのために危険を冒すなど、断じてなりません!」
「仕方がないだろう! 私は勇者たちの世話を陛下から任せられている! ここで見捨ててしまえば、処罰が下るだろう!」

 剣を腰に下げて飛び出したアルだったが、その隣にはリヒトとダルトがついている。

「お前たちまで巻き添えを食う必要はないぞ?」
「何を仰いますか。私はアル様の補佐官ですよ?」
「それを言うならば、私は今回の大部隊の隊長ですからな! どちらにしても、私が行かなければ指揮はできませんぞ!」

 二人の言葉にアルは小さくため息をついたが、その表情は笑っていた。

「……面倒を掛ける」

 こうして、ガゼリア山脈へはアルとリヒトも同行する事になったのだった。
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