40 / 105
第一章:勇者召喚、おまけ付き
閑話・暴走する勇者たち
しおりを挟む
王城では大型の魔獣を討伐するべく、夜遅くまで掛けて大規模な部隊が結成されていた。
部隊の隊長は騎士団長のダルトである。
冒険者ギルドとも連携を取りながら、明日の朝にはマゼリアを出発してカフカの森、そしてその先にあるガゼリア山脈へ向かう手はずとなっていた。
「面倒を掛けるな、ダルト」
「がはは! 何を謝る事がありますか、殿下! 騎士団とは本来、こういうものですよ!」
今回の魔獣討伐にアルは参加しない。いや、できなかった。
「私も行きたかったのだが、さすがに陛下に止められてしまったよ」
「いや、仮に陛下が止めなかったとしても、私が止めていましたよ」
「私も止めますよ、殿下」
「……リヒト、お前なぁ」
自分に味方がいないと悟ったのか、アルはジト目を二人に向けた後、大きくため息をついた。
「あなたは一国の第一王子なのですから、自重してください」
「はいはい、分かっているよ。……しかし、勇者たちは本当に置いていくのか?」
「当然です! あれらはまだ小型の魔獣とも戦った事がない、戦闘の素人です。初陣が大型魔獣ではかわいそうでしょう」
今回の魔獣討伐に、岳人たちは同行を許されなかった。
岳人本人は勇者の出番がやって来たかとやる気満々だったのだが、それをダルトが頑なに拒否したのだ。
しかし、この時点で岳人は荒れに荒れてしまった。
拒否をしたダルトに食って掛かり、訓練用の木剣とはいえ剣まで向けてしまったのだ。
「あれは精神面から鍛え直さなければなりません。今のままでは、戦場に出ても全く役に立たないでしょうなぁ」
「……まあ、当然と言えば当然か。勇者たちの世界だと、彼らはまだ子供らしいからな」
「そうなのですか?」
「あぁ。ヤマト様が言っていたよ。この世界とあちらの世界では、常識が違い過ぎるとね」
「ヤマト様と言うと……例の女性の方ですかな?」
ダルトの問い掛けにアルは一つ頷いた。
「正直、ヤマト様がいなければ、私たちは勇者たちとどのように接すればいいのか、今もなお悩み続けていただろうな」
「いや、悩んだ結果があれでは、どちらにしても効果は薄かったのではありませんかな?」
「……それは言わないでくれ、ダルト。私も苦悩しているんだよ」
今までの関わり合い方で苛立っていた岳人たちを見て、アルは明日香のアドバイスを活かそうと関わり合い方を変えてみた。子供と接するように、なるべく優しく対応してみたのだ。
しかし、そうすると今度は岳人たちが図に乗ってやりたい放題し始めてしまい、最終的にはダルトに剣を向けるまでになってしまった。
その時はダルトが岳人を一撃で倒してしまい大きな騒動にはならなかったが、今後も同じようになるとは限らない。
その事を、剣を向けられたダルト自身が一番理解していた。
「曲がりなりにも勇者です。急激な成長から、私を追い抜いていく事も考えられます。その時点で自らの考え方を変えていなければ、大きな問題を遠からず起こしてしまうでしょうなぁ」
明日香からのアドバイスを上手く活かす事ができていない自分を腹立たしく思ってしまうアルだったが、今回に限って言えば岳人たちの性格の問題なのでどうしようもなかった。
むしろ、今の状況は岳人たちをよく抑えている、と言えるものでもあった。
「まあ、大型魔獣の件が片付いたら、もう一度あれらと話し合いましょう」
「それもそうだな。ちゃんと話し合いができれば、きっと分かってもらえるはずだ」
「私も協力しますよ、殿下」
ダルト、アル、リヒトと口にしながら、この日は明日の朝に備えて休む事にした。
しかし――彼らの想いは呆気なく打ち砕かれる事になってしまう。
――ドンドンドンッ!
普段では絶対にあり得ないほどの力強さで、アルが休む部屋の扉が叩かれた。
慌てて飛び起きたアルが扉を開けると、そこには血相を変えたリヒトと、怒り心頭のダルトが立っていた。
「どうした! まさか、魔獣が下りてきたのか!」
「……ち、違います、アル様」
「あれらが勝手に、ガゼリア山脈へ向かってしまったのですよ!」
「……あれらとは……ま、まさか!?」
魔獣との実戦を長引かせた結果、岳人たちの苛立ちは頂点に達していた。
そして、自分が主人公だと思い込み、勇者なら死ぬ事はないと勘違いをして、勝手にマゼリアを飛び出してしまったのだ。
「……し、城の、マゼリアの門番はどうした!」
「勇者様方は、それぞれの門番を気絶させて飛び出していったようです」
「あれらを守る必要などないでしょう! 私たちは予定通り、冒険者たちと一緒になってガゼリア山脈へ――」
「いいや、ダメだ!」
岳人たちを見捨てるべきだと口にしたダルトとは対照的に、アルは声を張り上げると急ぎ身支度を整え始めた。
「……で、殿下、何をしているのですか?」
「見たら分かるだろう、出発準備だ!」
「な、なりませんぞ、殿下! あなたがあれらのために危険を冒すなど、断じてなりません!」
「仕方がないだろう! 私は勇者たちの世話を陛下から任せられている! ここで見捨ててしまえば、処罰が下るだろう!」
剣を腰に下げて飛び出したアルだったが、その隣にはリヒトとダルトがついている。
「お前たちまで巻き添えを食う必要はないぞ?」
「何を仰いますか。私はアル様の補佐官ですよ?」
「それを言うならば、私は今回の大部隊の隊長ですからな! どちらにしても、私が行かなければ指揮はできませんぞ!」
二人の言葉にアルは小さくため息をついたが、その表情は笑っていた。
「……面倒を掛ける」
こうして、ガゼリア山脈へはアルとリヒトも同行する事になったのだった。
部隊の隊長は騎士団長のダルトである。
冒険者ギルドとも連携を取りながら、明日の朝にはマゼリアを出発してカフカの森、そしてその先にあるガゼリア山脈へ向かう手はずとなっていた。
「面倒を掛けるな、ダルト」
「がはは! 何を謝る事がありますか、殿下! 騎士団とは本来、こういうものですよ!」
今回の魔獣討伐にアルは参加しない。いや、できなかった。
「私も行きたかったのだが、さすがに陛下に止められてしまったよ」
「いや、仮に陛下が止めなかったとしても、私が止めていましたよ」
「私も止めますよ、殿下」
「……リヒト、お前なぁ」
自分に味方がいないと悟ったのか、アルはジト目を二人に向けた後、大きくため息をついた。
「あなたは一国の第一王子なのですから、自重してください」
「はいはい、分かっているよ。……しかし、勇者たちは本当に置いていくのか?」
「当然です! あれらはまだ小型の魔獣とも戦った事がない、戦闘の素人です。初陣が大型魔獣ではかわいそうでしょう」
今回の魔獣討伐に、岳人たちは同行を許されなかった。
岳人本人は勇者の出番がやって来たかとやる気満々だったのだが、それをダルトが頑なに拒否したのだ。
しかし、この時点で岳人は荒れに荒れてしまった。
拒否をしたダルトに食って掛かり、訓練用の木剣とはいえ剣まで向けてしまったのだ。
「あれは精神面から鍛え直さなければなりません。今のままでは、戦場に出ても全く役に立たないでしょうなぁ」
「……まあ、当然と言えば当然か。勇者たちの世界だと、彼らはまだ子供らしいからな」
「そうなのですか?」
「あぁ。ヤマト様が言っていたよ。この世界とあちらの世界では、常識が違い過ぎるとね」
「ヤマト様と言うと……例の女性の方ですかな?」
ダルトの問い掛けにアルは一つ頷いた。
「正直、ヤマト様がいなければ、私たちは勇者たちとどのように接すればいいのか、今もなお悩み続けていただろうな」
「いや、悩んだ結果があれでは、どちらにしても効果は薄かったのではありませんかな?」
「……それは言わないでくれ、ダルト。私も苦悩しているんだよ」
今までの関わり合い方で苛立っていた岳人たちを見て、アルは明日香のアドバイスを活かそうと関わり合い方を変えてみた。子供と接するように、なるべく優しく対応してみたのだ。
しかし、そうすると今度は岳人たちが図に乗ってやりたい放題し始めてしまい、最終的にはダルトに剣を向けるまでになってしまった。
その時はダルトが岳人を一撃で倒してしまい大きな騒動にはならなかったが、今後も同じようになるとは限らない。
その事を、剣を向けられたダルト自身が一番理解していた。
「曲がりなりにも勇者です。急激な成長から、私を追い抜いていく事も考えられます。その時点で自らの考え方を変えていなければ、大きな問題を遠からず起こしてしまうでしょうなぁ」
明日香からのアドバイスを上手く活かす事ができていない自分を腹立たしく思ってしまうアルだったが、今回に限って言えば岳人たちの性格の問題なのでどうしようもなかった。
むしろ、今の状況は岳人たちをよく抑えている、と言えるものでもあった。
「まあ、大型魔獣の件が片付いたら、もう一度あれらと話し合いましょう」
「それもそうだな。ちゃんと話し合いができれば、きっと分かってもらえるはずだ」
「私も協力しますよ、殿下」
ダルト、アル、リヒトと口にしながら、この日は明日の朝に備えて休む事にした。
しかし――彼らの想いは呆気なく打ち砕かれる事になってしまう。
――ドンドンドンッ!
普段では絶対にあり得ないほどの力強さで、アルが休む部屋の扉が叩かれた。
慌てて飛び起きたアルが扉を開けると、そこには血相を変えたリヒトと、怒り心頭のダルトが立っていた。
「どうした! まさか、魔獣が下りてきたのか!」
「……ち、違います、アル様」
「あれらが勝手に、ガゼリア山脈へ向かってしまったのですよ!」
「……あれらとは……ま、まさか!?」
魔獣との実戦を長引かせた結果、岳人たちの苛立ちは頂点に達していた。
そして、自分が主人公だと思い込み、勇者なら死ぬ事はないと勘違いをして、勝手にマゼリアを飛び出してしまったのだ。
「……し、城の、マゼリアの門番はどうした!」
「勇者様方は、それぞれの門番を気絶させて飛び出していったようです」
「あれらを守る必要などないでしょう! 私たちは予定通り、冒険者たちと一緒になってガゼリア山脈へ――」
「いいや、ダメだ!」
岳人たちを見捨てるべきだと口にしたダルトとは対照的に、アルは声を張り上げると急ぎ身支度を整え始めた。
「……で、殿下、何をしているのですか?」
「見たら分かるだろう、出発準備だ!」
「な、なりませんぞ、殿下! あなたがあれらのために危険を冒すなど、断じてなりません!」
「仕方がないだろう! 私は勇者たちの世話を陛下から任せられている! ここで見捨ててしまえば、処罰が下るだろう!」
剣を腰に下げて飛び出したアルだったが、その隣にはリヒトとダルトがついている。
「お前たちまで巻き添えを食う必要はないぞ?」
「何を仰いますか。私はアル様の補佐官ですよ?」
「それを言うならば、私は今回の大部隊の隊長ですからな! どちらにしても、私が行かなければ指揮はできませんぞ!」
二人の言葉にアルは小さくため息をついたが、その表情は笑っていた。
「……面倒を掛ける」
こうして、ガゼリア山脈へはアルとリヒトも同行する事になったのだった。
21
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ・更新報告はXにて。
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる