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第一章:勇者召喚、おまけ付き

第34話:魔獣との遭遇 7

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「ありがとうございます、イーライさん!」
「私たち、頑張る!」
「あぁ、俺が難儀をしないよう頑張ってくれよ」

 男性冒険者を見送った二人はすぐにイーライへ振り返りお礼を口にすると、彼は少し照れた様子で簡単に返していた。
 その姿に明日香とジジは顔を見合わせると、クスクスと笑ってしまう。

「あ、あの、イーライさん!」
「……なんだ?」
「わ、私に、索敵の方法を教えてください!」
「俺がか?」
「私も索敵を上達させたいんです!」

 現状、二人の索敵はリザベラが魔法で大まかに行い、キャロラインは漏れがないよう近場を入念に探る形で固定されている。
 しかし、今回の場合は休憩中に魔獣が近づいてきており、本来であれば近場を担当するキャロラインが気づかなければならないものだった。
 この場で気づいたのがイーライだけだったという事もあり、キャロラインは彼に教えを乞いたいと願い出たのだ。

「それを、護衛をしながらできると思っているのか?」
「うっ! ……そ、それは」
「ねえ、イーライ」
「……はぁ。なんだ、アスカ?」

 イーライは明日香が何を言おうとしているのか分かっている。だからこそ、ため息をつきながらも確認を求めてきたのだ。

「キャロちゃんに教えてあげて?」
「……だから、それを護衛をしながらできるのかと聞いたんだが?」
「そこはイーライがカバーしてあげてよ」
「それじゃあ、二人の成長につながらないだろう」
「イーライが索敵方法を教えてあげたら、十分成長につながるでしょう?」
「だからと言って仕事を放棄させていい理由にはならないだろう」
「でも、周囲にはもう魔獣、いないよね?」

 明日香から放たれた最後の言葉に、イーライは何も言えなくなってしまう。
 事実、周囲の魔獣は先ほどで掃討されており、その一回り遠くにも魔獣の気配はなかった。
 だが、どうして明日香がその事を知っているのか。
 追及する事もできるが、イーライはここでも明日香が何をしたのか分かってしまったので、何も口にせずため息と同時に頷いた。

「……はぁ。分かった、いいぞ」
「ありがとう、イーライ!」
「ありがとうございます、イーライさん!」
「それじゃあ、リザベラはしっかりとアスカとジジさんの護衛を頼むぞ」
「分かった、頑張る!」

 リザベラに指示も出し終えると、イーライはキャロラインと共に森の奥へと進んで行った。
 残された三人はジジの指示で薬草採取を再開させる。
 ジジは当然として、明日香までが手早く薬草を採取していくので、リザベラは驚いてしまう。

「アスカさんも、早い!」
「あ、あははー。まあ、ジジさんに厳しく指導してもらったからねー」
「ほほほ。よろしければリザベラさんにも教えてあげますよ?」
「お、お願いします!」

 こうして、キャロラインだけではなく、リザベラの訓練も行われながらの護衛依頼、薬草採取になるのだった。

 ◆◇◆◇

 予定していたよりも大量の薬草を採取する事ができた明日香たちは、無事にマゼリアへ帰還した。
 しかし、外に出た時と比べて街の雰囲気が騒がしくなっている事に気がついた。

「な、何かあったんでしょうか?」
「分からない。一度、冒険者ギルドに行ってみよう」
「俺たちも行こう」
「そうですね。何かあれば、情報は集まっているでしょうから」
「わ、分かった」

 何事だろうと理解が追いついていない明日香だけが、イーライたちについていく形で冒険者ギルドへ足を運んだ。
 すると、そこでは街中の雰囲気よりもさらに騒がしく、そしてせわしなく動き回る職員や冒険者の姿があった。

「お疲れ様です、リンスさん」

 ジジがカウンターにいたリンスに声を掛けると、彼女はとても安堵した様子で口を開いた。

「あぁ! ジジ様、それに皆様も! ご無事で何よりでした!」
「何かあったのですかな?」
「は、はい。実は、ガゼリア山脈の方で、大型の魔獣が確認されたと報告が入ったんです」

 ガゼリア山脈はカフカの森を抜けた先にそびえる山々の事である。
 手前にあるカフカの森へ薬草採取に向かった明日香たちの事をずっと心配していたリンスは、全員の無事をその目で確認できて心底安堵していたのだ。

「もしかすると、ガゼリア山脈を縄張りにしていた魔獣がカフカの森に流れてくる可能性もあるとされていまして、つい先ほど立ち入り禁止になったんです」
「というと、これから魔獣狩りですかな?」
「はい。まだカフカの森から戻ってきていない冒険者も多いようで、ランクの高い冒険者へ魔獣狩りと共に、情報を知らない冒険者の救出依頼も出されています」

 リンスが説明している間にも、荷物を抱えた冒険者が何人も飛び出していく姿が見られた。

「この情報は王城にも伝わっているのか?」
「え? あ、はい。もしかすると、小規模ではありますがスタンピードに発展する可能性もあるという事で、ギルドマスターが報告へ上がっています」

 突然、王城に関する質問をされて驚いたリンスだったが、事が事だけに情報は受付嬢にも伝達されており、すぐに答えていた。
 スタンピード――魔獣の大行進に発展するとなれば、冒険者だけでも、城の騎士だけでも、手に負える代物ではなくなってしまう。
 全員が一致団結しなければ、最悪の場合ここマゼリアが壊滅状態に陥る可能性もあった。

「ふむ……であれば、こちらの薬草は役に立つのではないですかな?」

 話を聞いたジジは調合するために採取した薬草の大半を、冒険者ギルドへ納品する事にした。

「よ、よろしいのですか?」
「えぇ。必要最低限の分は確保してありますし、緊急事態ですからね」
「た、助かります!」

 ジジとリンスのやり取りを見ていたキャロラインとリゼベラも、余分に採取できた薬草を全て納品する事を決めた。

「あの、私たちも提出します!」
「これ、使ってください!」
「二人もありがとう。それでは、今回は通常時よりも三割増しで報酬をお渡ししますね」
「「……え?」」

 三割増しと聞いて驚いた二人へ、リンスが微笑みながら説明を口にした。

「緊急時の急ぎ必要な物に対する納品には、特急料金が上乗せされるのよ」
「そ、そうだったんだぁ」
「勉強不足」
「Fランク冒険者だもの、仕方ないわ。でも、本当に助かるわ、ありがとう」

 改めてお礼を口にしたリンスは、すぐに納品手続きを済ませると、三人へ報酬を手渡した。

「それと、ジジ様。可能であれば、調合したポーションを納品していただけると助かります」
「引き受けましょう。儂にできる分になってしまいますが、今なら優秀な弟子もいますからな」
「……え? わ、私ですか!?」
「アスカ様、よろしくお願いいたします」
「……わ、分かりました」

 自分に役割が与えられるとは思いもせず、明日香はただ返事をする事しかできなかった。
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