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第一章:勇者召喚、おまけ付き

第26話:好感度の謎 13

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 王城の門を潜ろうとした時、聞き覚えのある声が明日香の耳に届いた。

「なんだぁ? 年増じゃねえかよぉ!」

 年増という発言をした人物に一人だけ心当たりがあった明日香はため息をつきながらも越えのした方へ振り返る。
 すると、そこにはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた岳人が立っていた。

「……久しぶりね」
「なんだあ? 俺様はこの世界を救う勇者様だぜぇ? そんな態度でいいのかぁ?」
「ってかさ~? なんで年増と一緒にイケメンがいるのよ~!」
「不愉快ですね。私たちの要望は聞き入れられていないというのに」
「あの、その、私はその……」

 岳人たちの態度に苛立ちを覚えた明日香だったが、顔に出さないよう必死に堪えている。
 だが、この場にはもう一人だけ苛立ちを覚え、そして感情を抑えられない人物がいた。

「貴様ら、言わせておけばアスカになんて事を――!」
「いいのよ、イーライ。確かにあなたたちはこの世界の勇者様だわ。殿下やバーグマン様と共に頑張ってくださいね。そして、先ほどは失礼いたしました」
「アスカ!」

 岳人の言葉を受け入れたわけではない。しかし、ここで彼らが癇癪を起してしまえばそれはアルやリヒトにぶつけられてしまう。
 ここで頭を下げるだけでそれが回避できるならと明日香は頭を下げて謝罪を口にした。

「ぎゃははははっ! んだよ、つまんねぇなあっ!」
「ウケる~! 年増が頭下げてるよ~!」
「不愉快ですね」
「あー、久しぶりにスッキリしたぜ。ありがとよ、年増さん。ぎゃははははっ!」

 侮辱する様な言葉を投げつけていった岳人、凜音、冬華は次々に歩き去っていく。

「……あ、あの、ごめんなさい。本当に、その、ごめんなさい」

 そんな中で夏希だけは小さな声ではあるものの謝罪を口にしてから早足で去っていった。
 しばらく頭を下げたままの明日香だったが、四人が立ち去ったのを横目で確認してから顔を上げると、その場で大きく伸びをした。

「……うぅ~ん! あー、あれは確かにアル様やリヒト様も苦労するわね」
「おい! なんでアスカが頭を下げるんだ、お前は何も悪い事はしてないだろう!」
「そうだけどさ。ここであの子たちを怒らせたら、アル様やリヒト様が苦労するんだよ? それが私の謝罪一つで収まるなら、何度だって謝ってあげるわよ」

 明日香の言葉にイーライは何も言えなくなり、そして悔しそうな顔を浮かべた。

「……殿下やバーグマン様にあれだけの啖呵を切っておいて、情けないな」
「いやいや! イーライはあの子たちを諫めようとしたじゃない。それを止めたのは私なんだから気にしないでね」

 腰に手を当てながら俯くイーライ。そんな彼の視界に入るよう自分の顔を移動させてニコリと微笑む明日香。

「……全く。アスカは本当に優しいんだな」
「そうかな? イーライの方が優しいと思うけど?」
「どこがだよ」
「こんな私のために怒ろうとしてくれたじゃない?」

 笑いながらそう口にした明日香はゆっくりと歩き出した。
 その背中を見つめながら、イーライはぼそりと呟く。

「……アスカだから、怒ったんだよ」

 誰にも聞こえていないその呟きは風に乗って掻き消えた。
 小さく息を吐き出したイーライも歩き出して明日香の隣に並ぶと、二人はジジの道具屋へ向かったのだった。

 道具屋の前に到着すると、イーライは王城へ戻っていった。

(イーライの好感度、30になっていたな。こんな私に好感を持ってくれるなんて、本当にありがたいよ)

 自分の感情をひた隠しにしているイーライだが、今回はそれすらも通り越して好感度に反映されてしまった。それだけ彼の明日香に対する想いが強くなっている証拠でもある。
 そんな事とは露知らず、明日香は護衛をしてくれているイーライに感謝しながら道具屋に入っていった。

「ただいま戻りました、ジジさん」
「おぉ。おかえりなさい、アスカさん。相談はできましたかな?」
「はい、大丈夫です。今日は本当にありがとうございました」
「ほほほ。お客さんは予想通りにほとんど来なかったから、気にするでない」

 微笑みながらそう口にしたジジは、店を閉めようかと言いながら立ち上がろうとする。
 そんなジジに座っているよう伝えると、明日香は手際よく閉店の準備を始めた。

「アスカさんはお休みですよ?」
「もう十分休ませてもらいましたから、これくらいはやらせてください」
「ほほほ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えましょうかねぇ」

 てきぱきと動く明日香を見ながらお礼を口にしたジジは再び腰を下ろす。
 店を完全に閉めて二人でリビングに移動すると、そこにはすでに夕食が準備されていた。

「あれ? ジジさん、ずっと店頭に出ていたんですよね?」
「あまりにも暇でのう。時々後ろに下がっては準備を進めていたんじゃよ」
「もっと早く戻ってこられたらよかったですね、すみませんでした」
「何を言いますか。そんな事をされたら、儂の暇な時間が増えていましたよ。さあさあ、そんな事は置いておいて食べましょうか」

 笑みを絶やす事なくそう口にしたジジに促され、明日香も笑みを浮かべて食卓に着く。
 ジジの料理はどれもホッとする家庭の味わいがあり、とてもリラックスした気持ちになれる。
 これから話す内容を考えると、明日香にとってこれほど嬉しい食事はなかったかもしれない。
 存分に料理を堪能した明日香は、居住まいを正すとジジと向き合い切り出した。
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