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第一章:勇者召喚、おまけ付き

第20話:好感度の謎 7

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「この中に、小分けにしたポーションが入っているんですよ」
「……本当だ、小さい瓶に入っていますね。でも、どうして店頭に並べないんですか?」
「実はのう、こうして小分けにして販売するのはあまり良しとされていないのじゃよ」

 ポーションの調合に資格が必要なように、販売するにも資格が必要になってくる。
 そして、ポーションの量もしっかりと効果を出すために必要な量が決められていた。

「小分けにするメリットとしては、飲む事で効果は得られなくても振り掛ければ小さな傷程度なら治せるという点にある。しかし、魔獣と相対して小さな傷で収まる事の方が少ないせいか、商人ギルドでは小分けの販売は推奨していないのじゃよ」
「ただし、駆け出しの冒険者は当然ながらランクが低くて危険な依頼は受けられない。せいぜい薬草採取程度になるし、傷を負うにしても枝に引っ掛けてとかその程度だ。とはいえポーションもなしに都市の外に出るのは怖い。ってなわけで、小分けのポーションに行きつくんだ」
「需要があるのに商人ギルドは小分けのポーションを推奨してないんですね。……って、禁止じゃなくて、推奨してないだけ?」

 言葉遊びのように聞こえてしまい、明日香は自分で口にした発言に首を傾げてしまう。

「ほほほ。アスカさんの言う通りじゃよ。推奨はしないが、禁止でもない」
「……それ、意味あるんですか?」
「簡単に言えば、大きなお店は小分けを販売しない分、一本当たりの単価は高い。儂のような小さなところでは小分けのポーションも販売するが単価は少ない」
「……小さなお店の、小銭稼ぎ?」
「ほほほ。そういう事じゃな」

 商売人は基本的に損得勘定で動くもの。故に高価であっても購入する客に事欠かないポーションは大きな収入源の一つになる。
 小分けにして小さな単価を積み重ねるよりも、確実に効果を得られる量で一本ずつ販売する方が、トータル的に多くの儲けを出す事ができるのだとジジは口にした。

「そもそも、大通りに面している大店には顧客がいたり、ランクの高い冒険者が足を運ぶ事が多いからな。小分けのポーションを販売しても効率が悪くなるだけだし、棚を占領してしまうから邪魔なだけらしいぞ」
「儂の店の場合は、そもそも店が狭いからのう。小分けのポーションを並べる場所がないから、カウンターの下で管理しているんじゃよ」

 小さな店では面積が足りずに並べる事ができず、大きな店では効率が悪く販売すらしない。

「そもそも、売上がそこまで見込めないわけだから小さな店が販売するのも結構死活問題になりかねないよな」
「そっか! ジジさんは大丈夫なんですか?」

 イーライの言葉に明日香が声をあげると、当の本人は変わらない笑みを浮かべていた。

「ほほほ。ここに大きなお金を落としてくれる上客がいるからのう。やっていけているよ」
「ここにって……あー、イーライの事ですね」
「ジジさんのポーションは信頼しているからな。金にいとめはつけないさ」

 それだけイーライから信頼されているジジに調合を教えてもらえる自分は幸運だと、明日香は内心で思っていた。

「駆け出しの冒険者が来ないという事は、しばらく暇な時間が多くなりそうじゃのう」
「それなら、なるべく早く殿下やバーグマン様との面会を取り付けないとな」
「ありがとう、イーライ」

 小分けのポーションは量が少ない分すぐに買い足そうと駆け出しの冒険者がやってくるだろうと予想したイーライの言葉に、ジジは小さく頷いた。

「そうですなぁ……二日、三日は同じような状況が続くと思いますよ」
「俺に手伝える事がなければ、早めに城へ戻って確認しようと思っていますが?」
「こちらは大丈夫ですよ、イーライ」

 ジジから許可が出た事もあり、イーライは護衛を切り上げて一度城へ戻っていった。
 残された二人もしばらく店を開けていたのだが、イーライが帰ってからも客は一人として現れる事がなく、普段よりも早い時間で店を閉めたのだった。

 体を流し、夕食をいただいてからベッドへ横になるまで、明日香はどのように報告するべきかをずっと考えていた。

(……好感度の事は、どうやって伝えようかなぁ)

 召喚されてからというもの、明日香はメガネに映し出された数値を頼りに生きてきた。
 アルやリヒトは顔を合わせるたびに少しずつ好感度が上がっていった事もあり、勘違いでなければ好意を持ってくれている可能性も少なからずあると明日香は思っている。
 そこへ好感度の話をしてしまうと彼らの秘めた想いを知っていましたと伝えるようなものではないかと考えてしまった。

(で、でも、単に他の子たちよりは好感を持っているって可能性もあるし、伝えるからには隠し事はしちゃダメだよね!)

 頭の中に様々な考えが駆け巡ってしまい、上手くまとまってくれない。
 それでも全てをきちんと伝えるという事だけは自分の中で決めている明日香だからこそ、その伝え方で悩んでしまっていた。

(うーん……そうだ! 相手が自分にプラスかマイナスかが分かるって感じで伝えたらいいんじゃないかな? それならあながち間違いでもないよね?)

 自分に対して好意を持っていればプラス、悪意を持っていればマイナスになるわけで、それを好感度とは言わずに単純にプラスとマイナスで表示されると伝えればいいと思った明日香は、不思議と自分の中ですっきりした気持ちになっていた。
 思考の波が消えてなくなった次に襲い掛かって来たのは強烈な睡魔である。
 すでにベッドへ横になっている明日香が睡魔に抗えるはずもなく、瞼を閉じてから数秒で深い眠りに落ちていったのだった。
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