6 / 105
第一章:勇者召喚、おまけ付き
閑話・アルの苦悩
しおりを挟む
突如として異世界に召喚された四人の学生たち。
彼らは最初こそ驚きはしたものの順応力が高いのか、現れた一国の殿下に対して傲慢な態度を取りながら話し掛けていた。
「だからよぅ! 俺様は勇者だぜぇ? だったら贅沢させてもらってもいいよなぁ!」
「もちろんです。我々がお出しできる最大限の歓待をさせていただきます」
「んじゃあさぁ~! イケメンを揃えてくれる? 私の専属執事として~!」
「私には知的で優秀な方をお願いします」
「えっと、あの、私は……いえ、私もその……」
神原岳人は傲慢で、三神凛音と神藤冬華は自分本位であり、神谷夏希は何を言っているのかよく分からない。
勇者と呼ぶには無理があるような性格の四人を相手に、アルは怒りが表情に出ないよう抑えながら対応していた。
「な、なるべく揃えさせますが、人材は宝ですから全てにお応えするのは難しいかと思います」
「あぁん? てめぇは王子様なんだろう? だったらこれくらいの要求くらい飲みやがれ!」
「そうだ! そうだ~!」
「よろしくお願いしますね」
「あの、私はその、普通でも……」
「……努力させていただきます」
そう口にしたアルは四人を部屋に案内するようメイドたちに伝えると、一度気持ちを切り替えるためにその場を離れていく。向かう先は、もう一人の召喚者の下である。
(あの四人があのような性格だった。という事は、巻き込まれたというあの女性も……はぁ)
内心でため息をつきながらも、任せたリヒトも同じように大変な思いをしているかもしれないと考えると自然と早足になっていた。
そして、到着したリヒトの執務室を前にアルは気を引き締め直していた。
――コンコン。
意を決し扉をノックしてから少し待ち、リヒトが中から現れた。
不安が顔に出ないようにしていたが、汗で髪が額に張り付いている事も忘れて中に入る。
しかし、巻き込まれた女性は自ら自己紹介をすると、殿下であるアルに頭を下げてきたのだ。
岳人たちとの対応に雲泥の差を感じたアルは驚きつつも、リヒトから明日香が心優しい女性であると聞き、心のどこかでホッとしていた。
しばらく三人で話をしていたのだが、アルにはやらなければならない事が山ほど残っている。そして、その大半が岳人たち関連のものだ。
ずっとこの場で話をしていたい、その可愛い笑顔に癒されていたい、そう思う気持ちに蓋をして立ち上がると部屋を後にしようとした。
しかし、せっかくの出会いをここで終わらせるのはもったいないと感じたアルは最後に明日香へ爆弾を落とした。
「そうだ、ヤマト様」
「なんですか?」
「私の事は殿下ではなくアルと呼ぶように」
「……はああぁぁあぁあっ!? ちょっと殿下、それはさすがに――」
「それでは失礼します」
驚きの声をあげた明日香を見て、ちょっとした悪戯が成功したとアルは内心で微笑んでいた。
悪戯をされた方の明日香からすると堪ったものではないが、それでもアルは嬉しかった。
(ヤマト様は何と心優しき女性なのだろうか。それに比べて、あの四人の方々は……)
だが、これから向かう先で出会うだろう岳人たちの事を考えると、次第に気分が落ちていくのは仕方がないだろう。
(……ヤマト様が勇者であれば、こうはならなかったのだろうか)
そして、明日香が勇者であればと思ってしまうのもまた、仕方がないのかもしれない。
彼らは最初こそ驚きはしたものの順応力が高いのか、現れた一国の殿下に対して傲慢な態度を取りながら話し掛けていた。
「だからよぅ! 俺様は勇者だぜぇ? だったら贅沢させてもらってもいいよなぁ!」
「もちろんです。我々がお出しできる最大限の歓待をさせていただきます」
「んじゃあさぁ~! イケメンを揃えてくれる? 私の専属執事として~!」
「私には知的で優秀な方をお願いします」
「えっと、あの、私は……いえ、私もその……」
神原岳人は傲慢で、三神凛音と神藤冬華は自分本位であり、神谷夏希は何を言っているのかよく分からない。
勇者と呼ぶには無理があるような性格の四人を相手に、アルは怒りが表情に出ないよう抑えながら対応していた。
「な、なるべく揃えさせますが、人材は宝ですから全てにお応えするのは難しいかと思います」
「あぁん? てめぇは王子様なんだろう? だったらこれくらいの要求くらい飲みやがれ!」
「そうだ! そうだ~!」
「よろしくお願いしますね」
「あの、私はその、普通でも……」
「……努力させていただきます」
そう口にしたアルは四人を部屋に案内するようメイドたちに伝えると、一度気持ちを切り替えるためにその場を離れていく。向かう先は、もう一人の召喚者の下である。
(あの四人があのような性格だった。という事は、巻き込まれたというあの女性も……はぁ)
内心でため息をつきながらも、任せたリヒトも同じように大変な思いをしているかもしれないと考えると自然と早足になっていた。
そして、到着したリヒトの執務室を前にアルは気を引き締め直していた。
――コンコン。
意を決し扉をノックしてから少し待ち、リヒトが中から現れた。
不安が顔に出ないようにしていたが、汗で髪が額に張り付いている事も忘れて中に入る。
しかし、巻き込まれた女性は自ら自己紹介をすると、殿下であるアルに頭を下げてきたのだ。
岳人たちとの対応に雲泥の差を感じたアルは驚きつつも、リヒトから明日香が心優しい女性であると聞き、心のどこかでホッとしていた。
しばらく三人で話をしていたのだが、アルにはやらなければならない事が山ほど残っている。そして、その大半が岳人たち関連のものだ。
ずっとこの場で話をしていたい、その可愛い笑顔に癒されていたい、そう思う気持ちに蓋をして立ち上がると部屋を後にしようとした。
しかし、せっかくの出会いをここで終わらせるのはもったいないと感じたアルは最後に明日香へ爆弾を落とした。
「そうだ、ヤマト様」
「なんですか?」
「私の事は殿下ではなくアルと呼ぶように」
「……はああぁぁあぁあっ!? ちょっと殿下、それはさすがに――」
「それでは失礼します」
驚きの声をあげた明日香を見て、ちょっとした悪戯が成功したとアルは内心で微笑んでいた。
悪戯をされた方の明日香からすると堪ったものではないが、それでもアルは嬉しかった。
(ヤマト様は何と心優しき女性なのだろうか。それに比べて、あの四人の方々は……)
だが、これから向かう先で出会うだろう岳人たちの事を考えると、次第に気分が落ちていくのは仕方がないだろう。
(……ヤマト様が勇者であれば、こうはならなかったのだろうか)
そして、明日香が勇者であればと思ってしまうのもまた、仕方がないのかもしれない。
32
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる