不遇天職と不遇スキルは組み合わせると最強です! ~モノマネ士×定着で何にでもなれちゃいました~

渡琉兎

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閑話:ナリゴサ村の現状

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 アリウスが村を出てから四日が経った。
 普通の村であれば、たった一人の人間が出ていったからといって大きな影響は出ないだろう。
 しかし、ナリゴサ村は違っていた。

「――今日も魔獣が森の手前まで来ていたぞ!」
「――私も見たわ! 街道沿いよ!」
「――魔獣狩りはいったいどうなっているんだ!」

 村人たちからは不満の声があがっており、ライアンはその対応に追われる日々を送っていた。

「くそっ! どうしていきなり魔獣が増えたのだ!」

 自室のテーブルに拳を振り下ろすと、勢いで置かれていたグラスが倒れて水が端から床に滴り落ちて水溜りを作ってしまう。
 同じ部屋にはラスティン、レギン、ルーカスもいたのだが、無言でその様子を見ていた。

「昨日の魔獣狩りはお前の担当だろう、ラスティン! いったい何をやっていたんだ!」

 しかし、突然やり玉に挙げられたラスティンはカッとなり怒鳴り返す。

「なっ! 俺はちゃんと魔獣狩りをしていたさ! だが、魔獣の数が今までよりも多かったんだよ!」
「そんなはずがないだろう! 一昨日は俺が魔獣狩りをしていたんだからな!」

 魔獣が多かったということは、前日に魔獣狩りへ出ていた人物がサボっていたということにもなる。
 それが自分であるのだから、ライアンは当然ながら否定を口にする。

「だが、実際に多かったんだから仕方がないだろう!」
「まだ言うのか!」
「おいおい、いい加減にしてくれよ。とりあえず、俺たちが呼ばれた理由を聞かせてくれないか?」

 このままでは話が進まないと思ったルーカスが声をあげると、二人は同時に彼を睨みつける。

「……な、なんだよ?」
「……待て。そういえば、私の時も魔獣が今までよりも多かったはずだ。ルーカス、お前か?」
「……はあ!? い、いきなり俺かよ! 俺だってちゃんとやってたっての、ふざけんなよ!」

 話はルーカスまで巻き込んで平行線を辿ることになってしまい、痺れを切らしたレギンが普段は出さない大声をあげた。

「父上! 兄上、ルーカス! 今は責任をなすりつけるよりも、問題解決に尽力することが重要です!」

 冷静に状況を見極めることが多いレギンの大声に三人ともピタリと言い合いを止めて、居住まいを正すにまで至った。

「う、ううん! ……そうだな」

 話を元のレールに戻せたのでライアンはホッとしていたものの、次男に場を収められたラスティンはいい顔をしていない。
 ルーカスは全く身に覚えのないことで文句をつけられて苛立っている。
 場の雰囲気を察したレギンはこれ以上口を開くことはなく、進行をライアンに譲ることにした。

「今日はミリーが父上と共に魔獣狩りへ出ている。ミリーは金級騎士だがまだ漏れもあるだろうが、父上が一緒ならここ最近であがっていた問題も解決されるはずだ」
「だったら俺たちはなんで呼ばれたんだ? 爺ちゃんが出てるならもういいだろう」

 不貞腐れてしまったルーカスはさっさと話を終わらせたい空気を漂わせたが、呼びつけたライアンはそうはいかなかった。

「だが、父上に何度も頼るわけにはいかん。頼るのは今回限り、今日で一度リセットしてもらう、ただそれだけだ」
「……だからなんだってんだ?」
「まだ分からんのか?」

 呆れたかのようにため息をついたライアンに、ルーカスは苛立ちをさらに募らせるものの、ここでまた面倒を起こすわけにはいかないと堪えていた。

「……さっさと教えてくれないかなあ?」
「まあ、いい。リセットされるのだから、次に魔獣が多く出た場合は原因が明らかになるだろう」
「……これ以上村人から問題が噴出することを防げ、そう言うことですか?」
「その通りだ、レギン」

 ライアンは三人を眺めながらそう口にすると、テーブルに両肘をついてはっきりと口にした。

「魔獣狩りはガゼルヴィード領にとって死活問題に直結する大問題だ。私たちが騎士職の天職を授かり続けているのは、この領地を守り続けるためなのだからな」
「もちろんです、父上。だから俺たちは毎日魔獣狩りを行っているのです」
「分かればいいのだ。明日からは、今まで以上に励むことだ、いいな?」
「分かりました、父上」

 最後は代表してラスティンが返事をすると、三人が同時に頭を下げて部屋をあとにする。
 部屋に残ったライアンは、閉じられた扉をしばらく睨みつけたあと、小さく息を吐く。

「……はぁ。これでしばらくは大丈夫だろう。父上の台頭を許せば、村人は父上が再び当主になることを望むはず。それだけは、絶対にダメだ」

 村人のため、領地のためと口にしていたライアンではあるが、実をいえば自分の立場を守るために動いていた。
 これ以上何も起きなければ自分の立場は安泰だと、そしてユセフが寿命を迎えればさらに盤石になると思いながら、豪奢な椅子に深く身を預けるのだった。

 ◆◇◆◇

 部屋をあとにした三人はすぐに別々で行動していた。
 その中でレギンだけはライアンが何を考えていたのかを察しており、その足で屋敷を出ると真っ直ぐに森へと向かう。
 目的の人物はすぐに見つかり、あちらもレギンの存在に気づくと満面の笑みを浮かべて声をあげた。

「レギンお兄様!」
「狩りは順調かい、ミリー」

 今日の担当で魔獣狩りを行っていたミリーが駆け寄ってくると、レギンの腰あたりに抱きついた。

「順調ですよ! この辺りの魔獣は一掃できましたし、お爺様も色々と教えてくれるんです!」

 ミリーはそう口にしながら体を離すと、視線を森の奥へ向ける。
 そこには大剣を肩に担いだユセフが戻ってくる姿があった。

「おぉ、レギンか。どうしたのだ?」
「お疲れ様です、お爺様。先ほど父上との話し合いが終わりましたので、手伝おうかと思いまして」
「そうか。ならば、最後に西の森へ向かうが一緒に行くか?」
「……も、もう、三ヶ所も回ったのですね」
「これくらいできなければ、村を守れんからな。しかし、相当にサボっていたようだな、あいつらは」

 西の森に向かいながらため息を漏らしたユセフ。事実、魔獣は彼が思っていた以上に多かったようで、予定ではすでに終わらせているつもりだったのだ。
 レギンは話し合いの内容を伝えながら、さらに自分が感じたライアンの思惑を包み隠さず口にした。

「……まあ、そんなところだろうな」
「そんな、お父様が本当にそんなことを?」
「権力にしがみつこうとするのが、父上の本質だろうからね」

 歩きながらもユセフは村人に頭を下げられており、声を掛けられることも多い。
 それだけでユセフが今でも尊敬されている人物であることは間違いなかった。

「……あの、お爺様。実は折り入ってお願いしたいことがあるのですが」
「いいのではないか?」
「……いや、あの、まだ何も言っていないのですが?」
「レギンとミリーが何を考えているのかくらい、儂もフラウも気づいておるよ」

 レギンだけではなくミリーも同じことを考えていると指摘されたうえで、それを了承されてしまった。
 二人は顔を見合わせると、もう一度確認のために問い掛けた。

「……本当に、いいのですか?」
「構わん。もし何かあれば儂がどうにかしてやろう。孫の頼みを聞けない祖父ではないからな」
「「……あ、ありがとうございます、お爺様!」」

 今すぐにではないが、三人はこれからのことを話し合いながら西の森へ向かい、魔獣を短時間で掃討したのだった。
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