異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
20 / 50

第20話:依頼完了

しおりを挟む
「「おそーい!」」
「ご、ごめん!」

 太一が冒険者ギルドに戻ってきたのは、太陽が地平線に隠れてしばらく経ってからだった。
 リーザのお店が閉店したのは少し早い時間だったものの、リーザとカイナとの話が盛り上がり過ぎて遅くなってしまったのだ。

「おかえりなさい、タイチ君」
「クレアさんもすみませんでした!」
「私は仕事だから構わないんだけど、リーザさんのお店、忙しかったの?」
「いえ、お店は時間通りに閉店したんですが、先輩冒険者のカイナさんが来てくれて、話を聞いていたら遅くなってしまいました」
「「先輩冒険者だって!?」」
「そうなんだよ! めっちゃいろいろな話をしてくれて、二人にも教えてあげようって――」

 遅くなった太一に怒っていた勇人と公太だったが、先輩冒険者と聞いた途端に表情を輝かせた。
 そうだろうと思っていた太一も笑顔に戻り、そのまま二人に話をしようとしたのだが、そこにクレアが割って入った。

「はいはい! 盛り上がるのはいいけど、まずはタイチ君の依頼完了を確認しないとね!」
「あっ! す、すみません! そうでしたね!」

 クレアの指摘を受けて、太一はすぐに依頼書を提出する。

「うんうん、問題なさそうね」

 依頼書を確認したクレアは嬉しそうに処理を進めていくと、最後には依頼達成の報酬が入った袋をカウンターに置いた。

「こちらがタイチ君が初めての依頼で稼いだ報酬です! おめでとう、タイチ君!」
「あ、ありがとうございます!」

 嬉しそうに袋を受け取った太一だったが、その重さが思っていた以上に重かったこともあり首を傾げてしまう。

「あれ? なんだか、重いような?」

 太一がそう呟くと、同じ経験をしていたのか勇人と公太が顔を見合わせたあと、苦笑しながら口を開いた。

「なんだ、太一もかよ」
「実は僕も勇人君もそうだったんだ」
「二人も? いったいどういうことなんだ?」
「三人とも、依頼人が思っていた以上の働きをしてくれたってことよ」

 答えを教えてくれたのはクレアだった。

「依頼書に追記がされていてね、本来の報酬額に上乗せするよう書かれていたのよ」
「えぇっ!? ……でも、特別なことなんてしてないけどなぁ?」
「報酬を上げてほしいと頼む時は、その人の気持ちみたいなものだからね。きっとリーザさんにとって、タイチ君との時間がとても楽しかったんだと思うわ」

 太一からすればとても楽しく、そして有意義な時間を過ごすことができた。
 クレアが言っていた通り、少しでもリーザが太一との時間を楽しいと思ってくれていたのであれば、これ以上に嬉しいことはないと思ってしまう。

「ユウト君もコウタ君も依頼人から報酬を上げるよう書かれていたし、三人がきちんと依頼を達成してくれて、アドバイザーとしてこれほど嬉しいことはないわ!」

 それに何より、アドバイザーになってくれたクレアが喜んでいる姿を見て、三人は頑張ってよかったなと心の底から思っていた。

「それじゃあ三人とも、本当にお疲れ様でした! よく頑張ったわね!」
「「「はい! ありがとうございます!」」」

 興奮した様子で返事をした三人――だったが、ここでクレアから重大な確認が口にされた。

「そうそう、三人とも。今日の宿はもう決めたのかしら?」
「「「……宿?」」」

 クレアの確認に三人は声を揃えたあと、徐々にその表情を青くしていく。

「……ま、マズいぞ、勇人、公太」
「……ぜんっぜん、考えてなかった」
「……僕たち、野宿かなぁ?」

 こちらの世界へ迷い込んでから今に至るまで、成り行きに任せて行動していたこともあり、宿のことなど頭の中からすっかり抜け落ちていた。……というか、目の前のことに精一杯すぎて思いついてすらいなかった。
 三人がどうしようかと顔を青ざめていると、クレアがクスクスと笑いながら口を開いた。

「うふふ、安心してちょうだい。そうだろうと思って、ギルドから紹介できる宿を選んでおいたわ」
「「「ありがとうございます、クレアさん! あなたは神様です!!」」」
「大袈裟すぎよ、三人とも。何軒かあるんだけど、私のオススメの宿は『土竜もぐら亭』かな。新人冒険者にも優しい料金設定だし、何より食事が美味しいの!」
「「「そこを紹介してください! よろしくお願いします!!」」」

 太一たちが頭を下げると、クレアはすぐに紹介状を準備してくれた。
 口頭でも問題はないのだが、紹介状があるということはギルド職員から認められた冒険者だということで、それはつまり将来有望な冒険者だと宣伝しているようなものだった。
 クレアは太一たちが迷い人だからではなく、初めての依頼で依頼人が大満足するだけの仕事をしてくれたことに期待して紹介状を書いてくれていた。

「場所の地図も書いておいたから、この場所に行ってみてね。紹介状は女将さんに渡すだけで大丈夫よ、あっちも分かってくれているから」
「本当に、何から何までありがとうございます」
「いつか絶対に恩返しさせてくれな!」
「僕たち、冒険者を頑張りますから!」
「うふふ、期待して待っているわね」

 こうして太一たちは冒険者ギルドを後にした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...