異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
4 / 50

第4話:異世界の人間たち

しおりを挟む
 そんなこんなで建物が近づいてきた。
 三人が遠目に見ていたものは外壁であり、近づくにつれてその大きさが相当なものであることが分かってくる。
 元の世界でいえば五階建てのビルに相当する高さがあり、その上には警備兵だろうか、武器を持った者が巡回しており、当然ながら外壁の下にも警備兵は立っていた。

「……なあ、太一。人間はいるけどよ、俺たちって中に入れるのか?」
「……俺も思った。こういう時って身分証を見せたり、入場料を支払って中に入るのがテンプレだと思うけど」
「……僕たち、そのどっちも持ってないよね?」

 そこまで口にすると、三人は顔を見合わせ、すぐに大きなため息をついた。

「どうする? とりあえず行ってみるか?」
「それで捕まえられたりしたらどうするんだ?」
「言葉も伝わるか分からないし……僕たち、ここで死んじゃうのかな?」

 外壁まであと少しと迫ったところで足が止まってしまった三人だったが、そこに予想外の展開が訪れた。

「――おーい! お前たちー!」
「「「……こ、言葉が分かる!」」」

 三人が通ってきた道の方から理解できる言葉が聞こえてくると、嬉しそうな表情でそう口にする。
 そして勢いよく振り返ると、そこには武装した四人の人影が手を振りながら近づいてくる姿が見えた。

「よかった、無事だったみたいだな!」

 声を掛けてくれたのは先頭を歩く偉丈夫の男性だ。その後ろには小柄な少年が続き、さらに後方には長髪と短髪の女性が歩いている。
 言葉が通じると分かり嬉しくなっていた三人だが、四人がどういった人物なのかなど分かるはずもない。
 特に武装しているところを見て、三人は嬉しさを忘れて緊張感に包まれてしまった。

「あの、えっと、その……」
「あぁ、すまない。いきなり声を掛けて悪かったな」

 偉丈夫の男性が間近まで来ると、公太が怖がるように声を漏らす。
 その姿を見て男性は慌てて笑顔を作り、何もしないという意味か両手を上げるジェスチャーをしてくれた。

「もう! ディーの顔は怖いんだから子供たちを怖がらせないの!」
「いや、だってよぅ、こいつらも絶対に困ってるに決まってるからさぁ」
「だからって怖がらせちゃ意味がないでしょうよ!」

 ディーと呼ばれた男性に詰め寄っていくのは短髪で赤髪の女性だった。
 ややきつそうな表情で詰め寄られたからか、男性は苦笑いしながら後退っている。

「ごめんね、君たち」
「あっちの二人はあれが通常運転だから気にしないでねー」

 二人が言い争っている間、挑発で青髪の女性と小柄な少年が太一たちに話し掛けてくれた。

「いえ、俺たちもその、怖がってしまってすみませんでした」
「ねえ、君たち。君たちってたぶんだけど、迷い人かな?」
「「「……迷い人?」」」

 迷い人かと問われた三人は、同時に首を傾げてしまう。

「おいおい、ミリー。まずは自己紹介からじゃないか?」
「あぁ、確かにそうでしたね」
「僕はリッツ! よろしくねー!」
「リッツは軽すぎ!」

 ディー、リッツ、ミリーと三人の名前は分かった太一たちは、その視線を赤髪の女性へ向けた。

「私の名前はタニアよ」
「えっと、ディーさんに、リッツさんに、ミリーさんに、タニアさん、ですか?」
「おっ! 物覚えがいいじゃないか!」
「あんたと違って優秀な子供たちってことねー」
「タニア、お前なぁ」
「はいはい、夫婦喧嘩はその辺にしておこうね?」
「「夫婦じゃないから!」」

 何かにつけて言い合っているディーとタニアに向けてリッツが夫婦喧嘩と言い放つと、二人はものすごい形相で否定してきた。

「本当にそのあたりにしておいてね? そうねぇ……先に君たちの名前も聞いていいかしら?」

 四人の中で一番冷静そうなミリーが太一たちに声を掛けてくれたこともあり、三人はそのまま自己紹介をした。

「弥生太一です」
「鈴木勇人です」
「榊、公太、です」
「そっか。君たちの世界では、あとの呼び方が名前になるんだったわよね?」

『君たちの世界』と言われたところで、太一たちはハッとした表情でミリーを見た。

「警戒しなくて大丈夫よ。君たちのように異世界からこっちに来た人のことを、私たちは迷い人と言っているの」
「そうそう! そんで、迷い人は保護対象になっていてな、そういうわけで声を掛けたってわけだ!」
「そういうわけって、どういうわけよ! あんたは説明を省き過ぎなのよ!」
「だから夫婦喧嘩は――」
「「夫婦じゃないから!」」

 何やら急に賑やかになってしまい、太一たちは顔を見合わせると、とりあえず悪い人たちではなさそうで安堵の息を吐き出した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...