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第二章:自由と束縛と
第98話:シルバー冒険者アリシア 7
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その後の話し合いから、冒険者の活動を制限することはせず、アリシアたちが行っていたように遠方の依頼を中心に受けていこうということになった。
というのも、ラクドウィズに留まっていては魔導師ギルドから何かしら接触がある可能性が高く、そこで問題を起こせば魔導師が力を持っている土地柄もあり、こちらが不利になる可能性も高いと判断したからだ。
仮に都市の外で接触があった場合は都度対応することになるが、おそらくは衝突も止む無しとなるかもしれないと結論付けた。
「衝突するなら、結局は同じじゃねぇか?」
「そうでもないよ。都市の中と外、誰が見ているのか見ていないのか、それだけでも周囲の印象は大きく変わるもの」
「そういうものですか?」
「だな。特に力を持っている奴らと敵対するなら、少しでもあっちの土俵から離れるのが一番だ」
そんな会話をしながら、アリシアたちはどの依頼を受けようかと依頼板を眺めている。
たったそれだけなのだが、多くの冒険者が注目しており、その中心にいるのは当然ながらミスリル冒険者のネイドだ。
「……軽くてでも振ってみたら、ネイド兄」
「……絶対に嫌だね。さっさと依頼を選んで出ようぜ」
そう言いながらネイドが一枚の依頼書を手に取った。
「これなんてどうだ? 西の森の魔獣狩りだってよ」
「西の森ってことは、精霊樹の森ですか?」
「精霊って、なんでそんなもんの依頼が冒険者ギルドに出されているんだ?」
「……ネイド兄、それはやめた方がいいかも」
「なんでだ?」
「ここ見て」
アリシアが指差した箇所は依頼主が書かれている項目。
「……あー、そうだな。これはやめておこう」
「まさか、魔導師ギルドが冒険者ギルドに依頼とか、あり得ないだろ」
「これってもしかして、ネイドさんを狙った依頼ですか?」
「かもしれないわね。もしくは、私たちが遠方の依頼を受けていると知って狙ってきたか、かな」
アリシアの意見を聞いて全員がため息をつき、そのまま依頼板へ戻す。
結局、アリシアたちは南の方へ向かう依頼書を手にリティに声を掛けた。
「あ! ……アリシアさん、実はですねぇ――」
「魔導師ギルドの依頼?」
「……もう見てたんですか?」
「うん。危なくネイド兄が受けるところだったからやめておいた」
「おい、アリシア!」
小声になっていたリティにアリシアが問い掛けると、驚いた顔をされてしまう。
そこで冗談っぽくネイドが受けそうになったと伝えると、彼が慌てて声をあげ、その姿を見たリティは最初こそポカンとしていたが、すぐにクスクスと笑いだした。
「うふふ、そうだったんですね。でも、よかったです、気づいてくれて」
「持ってきたとしても、リティさんが止めてくれたでしょ?」
「もちろんです! 私はアリシアさんたちを守る使命がありますから!」
「気にしてくれてありがとうございます。それと、これは代わりに受ける依頼書です」
「拝見しますね。……うん、これなら問題なさそうです。今回も遠方の依頼なんですね」
依頼書を返しながらそう問い掛けたリティに、アリシアは笑いながら答えた。
「いろいろなところを見て回りたいので、遠方の依頼は積極的に受けているんです」
「それは私たちとしてもありがたいですが、あまり無理はしないでくださいね。それと……魔導師ギルドが外で仕掛けてくることも考えられますから」
「そこも分かってる。それじゃあ、いってきます」
「気をつけていってらっしゃいませ!」
どこまでも気にしてくれるリティの心遣いに感謝しながら、アリシアは挨拶をしてから冒険者ギルドをあとにした。
というのも、ラクドウィズに留まっていては魔導師ギルドから何かしら接触がある可能性が高く、そこで問題を起こせば魔導師が力を持っている土地柄もあり、こちらが不利になる可能性も高いと判断したからだ。
仮に都市の外で接触があった場合は都度対応することになるが、おそらくは衝突も止む無しとなるかもしれないと結論付けた。
「衝突するなら、結局は同じじゃねぇか?」
「そうでもないよ。都市の中と外、誰が見ているのか見ていないのか、それだけでも周囲の印象は大きく変わるもの」
「そういうものですか?」
「だな。特に力を持っている奴らと敵対するなら、少しでもあっちの土俵から離れるのが一番だ」
そんな会話をしながら、アリシアたちはどの依頼を受けようかと依頼板を眺めている。
たったそれだけなのだが、多くの冒険者が注目しており、その中心にいるのは当然ながらミスリル冒険者のネイドだ。
「……軽くてでも振ってみたら、ネイド兄」
「……絶対に嫌だね。さっさと依頼を選んで出ようぜ」
そう言いながらネイドが一枚の依頼書を手に取った。
「これなんてどうだ? 西の森の魔獣狩りだってよ」
「西の森ってことは、精霊樹の森ですか?」
「精霊って、なんでそんなもんの依頼が冒険者ギルドに出されているんだ?」
「……ネイド兄、それはやめた方がいいかも」
「なんでだ?」
「ここ見て」
アリシアが指差した箇所は依頼主が書かれている項目。
「……あー、そうだな。これはやめておこう」
「まさか、魔導師ギルドが冒険者ギルドに依頼とか、あり得ないだろ」
「これってもしかして、ネイドさんを狙った依頼ですか?」
「かもしれないわね。もしくは、私たちが遠方の依頼を受けていると知って狙ってきたか、かな」
アリシアの意見を聞いて全員がため息をつき、そのまま依頼板へ戻す。
結局、アリシアたちは南の方へ向かう依頼書を手にリティに声を掛けた。
「あ! ……アリシアさん、実はですねぇ――」
「魔導師ギルドの依頼?」
「……もう見てたんですか?」
「うん。危なくネイド兄が受けるところだったからやめておいた」
「おい、アリシア!」
小声になっていたリティにアリシアが問い掛けると、驚いた顔をされてしまう。
そこで冗談っぽくネイドが受けそうになったと伝えると、彼が慌てて声をあげ、その姿を見たリティは最初こそポカンとしていたが、すぐにクスクスと笑いだした。
「うふふ、そうだったんですね。でも、よかったです、気づいてくれて」
「持ってきたとしても、リティさんが止めてくれたでしょ?」
「もちろんです! 私はアリシアさんたちを守る使命がありますから!」
「気にしてくれてありがとうございます。それと、これは代わりに受ける依頼書です」
「拝見しますね。……うん、これなら問題なさそうです。今回も遠方の依頼なんですね」
依頼書を返しながらそう問い掛けたリティに、アリシアは笑いながら答えた。
「いろいろなところを見て回りたいので、遠方の依頼は積極的に受けているんです」
「それは私たちとしてもありがたいですが、あまり無理はしないでくださいね。それと……魔導師ギルドが外で仕掛けてくることも考えられますから」
「そこも分かってる。それじゃあ、いってきます」
「気をつけていってらっしゃいませ!」
どこまでも気にしてくれるリティの心遣いに感謝しながら、アリシアは挨拶をしてから冒険者ギルドをあとにした。
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