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第二章:自由と束縛と
第83話:冒険者アリシア 8
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アリシアたちは代表して依頼を出していた村の村長から依頼完了のサインをもらうと、その足でラクドウィズへ戻っていった。
冒険者ギルドでリティに声を掛けると、彼女はまさか一日で完了するとは思っていなかったのか、驚きの顔で固まってしまった。
「……え? ほ、本当にもう終わらせたんですか?」
「はい。こちらにサインもいただいています」
「ご、ご確認いたします! 少々お待ちを!」
手に持っていた書類をバサバサと落としてしまったが、リティは気にすることなく依頼書を受け取ると、バタバタとカウンターの奥へ行ってしまった。
「これ、いいのかな?」
「ダメだろう」
「か、片付けておきましょうか」
アリシアの問いにゼーアが答え、ケイナが床に散らばった書類を集めていく。
集め終わったところでリティが確認を終えて戻ってきたのだが、ケイナの手に書類があるのを見ると、慌てた様子で何度も頭を下げてきた。
「あぁ! も、申し訳ございません、ケイナさん!」
「いえ、構いませんよ」
「それで、依頼はどうでしたか?」
「はい! 問題ありません! それでは、こちらが依頼達成の報酬になります!」
ケイナから書類を受け取ると、入れ替わるようにしてテーブルに報酬の入った袋が置かれた。
「10万リラになります!」
「ありがとうございます」
「それにしても、アイアンランクで受けられる依頼にしては報酬が良すぎないか?」
「今回の依頼は多くの村が報酬をかき集めてくれましたからね。アイアンランクの依頼でも結構な金額になったんですよ」
「でも、それじゃあどうして依頼が残っていたんですか? 他の冒険者が受けていてもいいんじゃ?」
ゼーアの問いにリティが答えると、追加でケイナが疑問を口にする。
「それが……すでに何人かの冒険者が依頼を受けてくれていたのですが、相次いで失敗してしまっていたんです。なので、初めてというわけではなかったんです」
「失敗? それはまたどうして?」
「……ここだけの話、依頼を受けていたのはアリシアさんたちのような新人ばかりのパーティでした。加えて全員が武器の扱いに慣れていない冒険者だったんです」
リティは止めたものの、新人冒険者たちは大丈夫だと自信満々に冒険者ギルドを飛び出していき、結局戻ってくることはなかった。
一八歳と若いリティだが、冒険者ギルドで働き始めて三年目に入っている。
相手を見ただけである程度の実力を見抜く目は養われており、だからこそ止めたのだが彼らは聞いてくれなかったのだ。
「この仕事をしていると、人の死を間近に感じることが多いんです」
「そうなんですね」
「ってことは、俺たちはあんたのお眼鏡にかなったってことなんだな?」
「はい。アリシアさんたちなら問題ないと判断しました。おそらくですが……実力だけを見れば、シルバーに近い実力を持っているのでは?」
「うーん、アイアンやシルバーがどれだけの実力者なのかわからないので、なんとも言えないですね」
「確かに! 私たちは私たちですもんね、アリシア様」
リティの見立ては正しかった。そして、だからこそ失敗続きだったビッグラット討伐の依頼をアリシアたちに任せた。
とはいえ、彼女たちがそれを気にしているかと言えばそうではなく、ケイナが口にした通り自分たちは自分たちなのだ。
「時間もまだあるし、もう一つくらい依頼を探してもらえますか?」
「いいんですか? お疲れでは?」
「俺は大丈夫だぜ」
「私もです!」
「らしいです」
「あ、ありがとうございます! それでは少々お待ちください!」
ゼーアとケイナからも了承をもらえたことで、リティは駆け足で依頼板の方へ向かう。
そんな彼女の背中へ視線を向けていたアリシアだったが、そこへ見知らぬ男性から声を掛けられた。
冒険者ギルドでリティに声を掛けると、彼女はまさか一日で完了するとは思っていなかったのか、驚きの顔で固まってしまった。
「……え? ほ、本当にもう終わらせたんですか?」
「はい。こちらにサインもいただいています」
「ご、ご確認いたします! 少々お待ちを!」
手に持っていた書類をバサバサと落としてしまったが、リティは気にすることなく依頼書を受け取ると、バタバタとカウンターの奥へ行ってしまった。
「これ、いいのかな?」
「ダメだろう」
「か、片付けておきましょうか」
アリシアの問いにゼーアが答え、ケイナが床に散らばった書類を集めていく。
集め終わったところでリティが確認を終えて戻ってきたのだが、ケイナの手に書類があるのを見ると、慌てた様子で何度も頭を下げてきた。
「あぁ! も、申し訳ございません、ケイナさん!」
「いえ、構いませんよ」
「それで、依頼はどうでしたか?」
「はい! 問題ありません! それでは、こちらが依頼達成の報酬になります!」
ケイナから書類を受け取ると、入れ替わるようにしてテーブルに報酬の入った袋が置かれた。
「10万リラになります!」
「ありがとうございます」
「それにしても、アイアンランクで受けられる依頼にしては報酬が良すぎないか?」
「今回の依頼は多くの村が報酬をかき集めてくれましたからね。アイアンランクの依頼でも結構な金額になったんですよ」
「でも、それじゃあどうして依頼が残っていたんですか? 他の冒険者が受けていてもいいんじゃ?」
ゼーアの問いにリティが答えると、追加でケイナが疑問を口にする。
「それが……すでに何人かの冒険者が依頼を受けてくれていたのですが、相次いで失敗してしまっていたんです。なので、初めてというわけではなかったんです」
「失敗? それはまたどうして?」
「……ここだけの話、依頼を受けていたのはアリシアさんたちのような新人ばかりのパーティでした。加えて全員が武器の扱いに慣れていない冒険者だったんです」
リティは止めたものの、新人冒険者たちは大丈夫だと自信満々に冒険者ギルドを飛び出していき、結局戻ってくることはなかった。
一八歳と若いリティだが、冒険者ギルドで働き始めて三年目に入っている。
相手を見ただけである程度の実力を見抜く目は養われており、だからこそ止めたのだが彼らは聞いてくれなかったのだ。
「この仕事をしていると、人の死を間近に感じることが多いんです」
「そうなんですね」
「ってことは、俺たちはあんたのお眼鏡にかなったってことなんだな?」
「はい。アリシアさんたちなら問題ないと判断しました。おそらくですが……実力だけを見れば、シルバーに近い実力を持っているのでは?」
「うーん、アイアンやシルバーがどれだけの実力者なのかわからないので、なんとも言えないですね」
「確かに! 私たちは私たちですもんね、アリシア様」
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とはいえ、彼女たちがそれを気にしているかと言えばそうではなく、ケイナが口にした通り自分たちは自分たちなのだ。
「時間もまだあるし、もう一つくらい依頼を探してもらえますか?」
「いいんですか? お疲れでは?」
「俺は大丈夫だぜ」
「私もです!」
「らしいです」
「あ、ありがとうございます! それでは少々お待ちください!」
ゼーアとケイナからも了承をもらえたことで、リティは駆け足で依頼板の方へ向かう。
そんな彼女の背中へ視線を向けていたアリシアだったが、そこへ見知らぬ男性から声を掛けられた。
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