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第一章:逆行聖女
第63話:聖女アリシア 16
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「――これは誰のせいだと聞いている! 答えないか!」
野営地ではベントナーの怒声が響き渡っていた。
今日は野営の予定ではなく、都市に入ってゆっくり休める予定だった。
しかし、道程は予想よりも時間が掛かり、こうして野営を行う羽目になっている。
「申し訳ございません!」
「謝るだけならそこらのガキでもできるわ! 誰のせいだと聞いている!」
「そ、それは……」
誰か特定の人物が悪いというわけではない。
むしろ悪いものを見つけるということで言えば、街道付近までやってきてた魔獣が悪いに決まっているのだ。
それを無視しして田舎騎士たちの中から悪者を見つけようというのだから、彼らからすればどう答えるべきなのかわからないのも仕方がなかった。
「申し訳ありません、ベントナー様」
そこで口を開いたのは、アリシアだった。
「……どうして貴様が謝るのだ?」
「皆さんは田舎娘の私を守ろうと必死でした。魔獣が近づいてこなければこうはならなかったでしょう。なので、誰がということであれば、私が悪いのではないかと」
アリシアという聖女候補がいなければ、護衛対象がいなければ問題なく道程を消化することができたはずだと、彼女自身が口にした。
ゼーアあたりは違うと声をあげようとしていたのだが、横目でアリシアと目が合い、ベントナーの目を盗んで人差し指を口元に当てたのを見て、グッと言葉を飲み込んだ。
「どうか騎士様たちを叱らないでください。彼らは私のために足を遅くしてしまったのですから」
「……ちっ! そういうことなら今回はお咎めなしだが、また同じようなことがあったらただでは済まさんからな!」
「「「「はっ!」」」」
再び怒声を響かせたベントナーがその場を後にすると、しばらくして田舎騎士のほとんどがアリシアのもとへ押し寄せた。
「本当にすまなかった!」
「助かったよ、お嬢さん!」
「おいおい、聖女様だろう?」
「確かに! 俺たちにとっては間違いなく聖女様だな!」
そう口々に言い合いながら、ドッと笑い声が響いた。
「私はまだ、ただの田舎娘ですよ」
「いいや、間違いなくアリシアは俺たちの聖女だよ」
アリシアは違うと口にしたものの、その言葉をゼーアが苦笑しながら否定した。
「本当に助かった。あのままじゃあ、俺たちは王都に戻った時点で職なしになっていたよ」
「そこまでのことなんですか? 旅が予定通りに進まないことなんて、よくあることだと思うんですけど?」
「普通はな。だが、ベントナー様はそうは思わないのさ」
前世ではベントナーとそこまで関わったことがないアリシアだが、ホールトンの一歩後ろを付き従っていた姿は何度も目にしていた。
目が合うとジロリと睨まれ、前世のアリシアはすぐに視線を逸らしていたものだ。
(……そういえば、自分の思う通りにいかないことがあれば、周りの人間に当たり散らしていたっけ。でも、さっきはそうでもなかったような)
記憶に残っているベントナーは、先ほどのようにアリシアが口を挟んだところで気にすることなく田舎騎士たちに罰を与えていただろう。
しかし、今回はあっさりと引き下がっている。
(……前世とは違うってこと? それとも、他に何か理由でもあるのかしら?)
「……どうしたんだ、アリシア?」
「え? ……ううん、なんでもないわ」
考え込んでいたアリシアを心配してゼーアが声を掛けたが、彼女は首を横に振ってなんでもないと答えた。
「それよりも、晩ご飯を作りましょう!」
「おっ! いいのか!」
「もちろんですよ。今日の料理料理担当の方は――」
「お、お願いします~! 俺も料理はできないんだ~!」
一人の田舎騎士が縋りつきそうな勢いでアリシアにそう伝えると、再びドッと笑いが巻き起こったのだった。
野営地ではベントナーの怒声が響き渡っていた。
今日は野営の予定ではなく、都市に入ってゆっくり休める予定だった。
しかし、道程は予想よりも時間が掛かり、こうして野営を行う羽目になっている。
「申し訳ございません!」
「謝るだけならそこらのガキでもできるわ! 誰のせいだと聞いている!」
「そ、それは……」
誰か特定の人物が悪いというわけではない。
むしろ悪いものを見つけるということで言えば、街道付近までやってきてた魔獣が悪いに決まっているのだ。
それを無視しして田舎騎士たちの中から悪者を見つけようというのだから、彼らからすればどう答えるべきなのかわからないのも仕方がなかった。
「申し訳ありません、ベントナー様」
そこで口を開いたのは、アリシアだった。
「……どうして貴様が謝るのだ?」
「皆さんは田舎娘の私を守ろうと必死でした。魔獣が近づいてこなければこうはならなかったでしょう。なので、誰がということであれば、私が悪いのではないかと」
アリシアという聖女候補がいなければ、護衛対象がいなければ問題なく道程を消化することができたはずだと、彼女自身が口にした。
ゼーアあたりは違うと声をあげようとしていたのだが、横目でアリシアと目が合い、ベントナーの目を盗んで人差し指を口元に当てたのを見て、グッと言葉を飲み込んだ。
「どうか騎士様たちを叱らないでください。彼らは私のために足を遅くしてしまったのですから」
「……ちっ! そういうことなら今回はお咎めなしだが、また同じようなことがあったらただでは済まさんからな!」
「「「「はっ!」」」」
再び怒声を響かせたベントナーがその場を後にすると、しばらくして田舎騎士のほとんどがアリシアのもとへ押し寄せた。
「本当にすまなかった!」
「助かったよ、お嬢さん!」
「おいおい、聖女様だろう?」
「確かに! 俺たちにとっては間違いなく聖女様だな!」
そう口々に言い合いながら、ドッと笑い声が響いた。
「私はまだ、ただの田舎娘ですよ」
「いいや、間違いなくアリシアは俺たちの聖女だよ」
アリシアは違うと口にしたものの、その言葉をゼーアが苦笑しながら否定した。
「本当に助かった。あのままじゃあ、俺たちは王都に戻った時点で職なしになっていたよ」
「そこまでのことなんですか? 旅が予定通りに進まないことなんて、よくあることだと思うんですけど?」
「普通はな。だが、ベントナー様はそうは思わないのさ」
前世ではベントナーとそこまで関わったことがないアリシアだが、ホールトンの一歩後ろを付き従っていた姿は何度も目にしていた。
目が合うとジロリと睨まれ、前世のアリシアはすぐに視線を逸らしていたものだ。
(……そういえば、自分の思う通りにいかないことがあれば、周りの人間に当たり散らしていたっけ。でも、さっきはそうでもなかったような)
記憶に残っているベントナーは、先ほどのようにアリシアが口を挟んだところで気にすることなく田舎騎士たちに罰を与えていただろう。
しかし、今回はあっさりと引き下がっている。
(……前世とは違うってこと? それとも、他に何か理由でもあるのかしら?)
「……どうしたんだ、アリシア?」
「え? ……ううん、なんでもないわ」
考え込んでいたアリシアを心配してゼーアが声を掛けたが、彼女は首を横に振ってなんでもないと答えた。
「それよりも、晩ご飯を作りましょう!」
「おっ! いいのか!」
「もちろんですよ。今日の料理料理担当の方は――」
「お、お願いします~! 俺も料理はできないんだ~!」
一人の田舎騎士が縋りつきそうな勢いでアリシアにそう伝えると、再びドッと笑いが巻き起こったのだった。
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