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第一章:逆行聖女
第57話:聖女アリシア 10
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その日の夜、アリシアたちの家には多くの人が集まっていた。
事情を知っているヴァイスやジーナ、シエナやゴッツ。
さらにはダレルを含めた数名の自警団員も集まっている。
全員がアリシアのことを心配し、王都へついて行こうかと口にしてくれた者たちだった。
「ありがとう、みんな。でも、私は大丈夫だよ」
しかし、アリシアは彼らの同行を拒否し、自分は大丈夫だとしか口にしない。
「ちょっと、団長! 本当にいいんですか!」
「そうですよ! アリシアちゃん、かわいそうですよ!」
「団長もアリシアちゃんと別れるのは寂しいでしょう!」
ダレルや自警団員たちがそう口にするが、アーノルドも彼女の決定を否定することはなく、ただ首を横に振るだけだった。
「私にできることは、アリシアを信じることくらいだよ。あとは、たまに王都へ足を運んで顔を見ることかな」
そう口にしながら、アーノルドは隣に座るアリシアの頭を撫でた。
「……ヴァイスとジーナちゃんもそれでいいのか?」
アーノルドの言葉を受けてもまだ納得できないダレルは、次にヴァイスとジーナへ声を掛けた。
「俺は正直、納得してない」
「なら、お前からもなんとか言って――」
「でも、アリシアがその選択をしたのなら、応援するしかできないですよ」
ダレルの言葉を遮るようにして、ヴァイスははっきりと口にする。
「私も同じです。アリシアちゃんについて行きたいけど、断られちゃったし。それに、アリシアちゃんは強いから!」
ジーナもそうアリシアの言葉に従うと口にしたものの、その表情は無理やり笑みを浮かべているように見えた。
「……二人とも、ありがとう」
二人の気持ちが理解できたアリシアは、ただお礼を口にすることしかできなかった。
「……はあぁぁ。んだよ、大人の俺が我がままを言っているみたいじゃないか」
「実際そうだからな」
「ちょっと、ゴッツさん!」
ダレルが頭をガシガシとかきながらそう口にすると、ゴッツが片方の口端を上げながらニヤリと笑う。
「俺たちも心配だが……まあ、ジーナの言う通りということだ」
「……ったく、なんでゴッツさんも団長も、他のみんなもそんなに納得してるんだよ。もしかして、俺だけが知らない何かを知っているのか?」
ダレルが首を傾げながらそう口にすると、事情を知っている面々はドキッとしてしまう。
「……え? マジで、そうなの?」
そこで誰からも反応がないのを見て、ダレルは自分で口にしたことにもかかわらず何故か慌て始めてしまった。
「うふふ。そんなことないですよ、ダレルさん」
「アリシアちゃん」
「心配してくれてありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
「でもなぁ……」
「何かあれば、私自らが叩き切ってやるんですから!」
アリシアがそう口にしながら素振りをするフリをして見せると、ダレルも困り顔から徐々に笑みを浮かべてくれる。
「……まあ、いくら心配したところで、アリシアちゃんと団長が納得しているなら意味はないかー」
「皆の気持ち、本当にありがたく思う。だが、これもアリシアが決めたことだからな、尊重してほしいんだ」
アーノルドの言葉はアリシアが思っていることと同じであり、彼女の隣で頷いている。
「でもよう、アリシア。聖女の神託って、実際に何ができるんだ?」
「そうだよねー。今までみたいに剣を振ることもできるのかな?」
話がひと段落したと感じたのだろう、ヴァイスとジーナは王都へ行ってからのアリシアのことを心配し始めた。
「うーん、どうだろう。噂でしか聞いたことがないけど、聖女様ってのはとっても貴重な存在みたいだし、貴族令嬢みたいな扱いを受けるんじゃないの?」
二人の疑問に答えたのはシエナだった。
アリシアは内心で間違いではない、と思っていたが口には出さなかった。
「どうだろうね、わかんない。でも、剣を止めるつもりはないよ」
「え、そうなの?」
「はい。もしも取り上げようとかしたら、むしろあの司祭様を切ってやろうかな?」
「ちょっと、それはさすがにダメなんじゃ――」
「いいんじゃないか? そしたら真っ直ぐにディナーラ村に戻って来たらいいさ」
「だ、団長!?」
アリシアの冗談に笑いながらツッコミを入れようとしていたシエナも、アーノルドが真顔でいいんじゃないかと口にすると、さすがに慌てた様子で口を挟んだ。
「冗談だ、冗談」
「……冗談に聞こえなかったんですけど?」
「……半分、冗談だ」
「半分じゃダメなんですよ!」
その日の夜は、みんなが解散するまで笑顔の絶えない時間となった。
アリシアもこれで頑張れる、ディナーラ村を離れたら、一人で頑張らなければと肝に銘じている。
「……無理はするなよ、アリシア」
「……ありがとう、お父さん」
しかし、今だけはもう少しだけ、父親の温もりを感じていたいと思うのだった。
事情を知っているヴァイスやジーナ、シエナやゴッツ。
さらにはダレルを含めた数名の自警団員も集まっている。
全員がアリシアのことを心配し、王都へついて行こうかと口にしてくれた者たちだった。
「ありがとう、みんな。でも、私は大丈夫だよ」
しかし、アリシアは彼らの同行を拒否し、自分は大丈夫だとしか口にしない。
「ちょっと、団長! 本当にいいんですか!」
「そうですよ! アリシアちゃん、かわいそうですよ!」
「団長もアリシアちゃんと別れるのは寂しいでしょう!」
ダレルや自警団員たちがそう口にするが、アーノルドも彼女の決定を否定することはなく、ただ首を横に振るだけだった。
「私にできることは、アリシアを信じることくらいだよ。あとは、たまに王都へ足を運んで顔を見ることかな」
そう口にしながら、アーノルドは隣に座るアリシアの頭を撫でた。
「……ヴァイスとジーナちゃんもそれでいいのか?」
アーノルドの言葉を受けてもまだ納得できないダレルは、次にヴァイスとジーナへ声を掛けた。
「俺は正直、納得してない」
「なら、お前からもなんとか言って――」
「でも、アリシアがその選択をしたのなら、応援するしかできないですよ」
ダレルの言葉を遮るようにして、ヴァイスははっきりと口にする。
「私も同じです。アリシアちゃんについて行きたいけど、断られちゃったし。それに、アリシアちゃんは強いから!」
ジーナもそうアリシアの言葉に従うと口にしたものの、その表情は無理やり笑みを浮かべているように見えた。
「……二人とも、ありがとう」
二人の気持ちが理解できたアリシアは、ただお礼を口にすることしかできなかった。
「……はあぁぁ。んだよ、大人の俺が我がままを言っているみたいじゃないか」
「実際そうだからな」
「ちょっと、ゴッツさん!」
ダレルが頭をガシガシとかきながらそう口にすると、ゴッツが片方の口端を上げながらニヤリと笑う。
「俺たちも心配だが……まあ、ジーナの言う通りということだ」
「……ったく、なんでゴッツさんも団長も、他のみんなもそんなに納得してるんだよ。もしかして、俺だけが知らない何かを知っているのか?」
ダレルが首を傾げながらそう口にすると、事情を知っている面々はドキッとしてしまう。
「……え? マジで、そうなの?」
そこで誰からも反応がないのを見て、ダレルは自分で口にしたことにもかかわらず何故か慌て始めてしまった。
「うふふ。そんなことないですよ、ダレルさん」
「アリシアちゃん」
「心配してくれてありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
「でもなぁ……」
「何かあれば、私自らが叩き切ってやるんですから!」
アリシアがそう口にしながら素振りをするフリをして見せると、ダレルも困り顔から徐々に笑みを浮かべてくれる。
「……まあ、いくら心配したところで、アリシアちゃんと団長が納得しているなら意味はないかー」
「皆の気持ち、本当にありがたく思う。だが、これもアリシアが決めたことだからな、尊重してほしいんだ」
アーノルドの言葉はアリシアが思っていることと同じであり、彼女の隣で頷いている。
「でもよう、アリシア。聖女の神託って、実際に何ができるんだ?」
「そうだよねー。今までみたいに剣を振ることもできるのかな?」
話がひと段落したと感じたのだろう、ヴァイスとジーナは王都へ行ってからのアリシアのことを心配し始めた。
「うーん、どうだろう。噂でしか聞いたことがないけど、聖女様ってのはとっても貴重な存在みたいだし、貴族令嬢みたいな扱いを受けるんじゃないの?」
二人の疑問に答えたのはシエナだった。
アリシアは内心で間違いではない、と思っていたが口には出さなかった。
「どうだろうね、わかんない。でも、剣を止めるつもりはないよ」
「え、そうなの?」
「はい。もしも取り上げようとかしたら、むしろあの司祭様を切ってやろうかな?」
「ちょっと、それはさすがにダメなんじゃ――」
「いいんじゃないか? そしたら真っ直ぐにディナーラ村に戻って来たらいいさ」
「だ、団長!?」
アリシアの冗談に笑いながらツッコミを入れようとしていたシエナも、アーノルドが真顔でいいんじゃないかと口にすると、さすがに慌てた様子で口を挟んだ。
「冗談だ、冗談」
「……冗談に聞こえなかったんですけど?」
「……半分、冗談だ」
「半分じゃダメなんですよ!」
その日の夜は、みんなが解散するまで笑顔の絶えない時間となった。
アリシアもこれで頑張れる、ディナーラ村を離れたら、一人で頑張らなければと肝に銘じている。
「……無理はするなよ、アリシア」
「……ありがとう、お父さん」
しかし、今だけはもう少しだけ、父親の温もりを感じていたいと思うのだった。
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