逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
57 / 99
第一章:逆行聖女

第57話:聖女アリシア 10

しおりを挟む
 その日の夜、アリシアたちの家には多くの人が集まっていた。
 事情を知っているヴァイスやジーナ、シエナやゴッツ。
 さらにはダレルを含めた数名の自警団員も集まっている。
 全員がアリシアのことを心配し、王都へついて行こうかと口にしてくれた者たちだった。

「ありがとう、みんな。でも、私は大丈夫だよ」

 しかし、アリシアは彼らの同行を拒否し、自分は大丈夫だとしか口にしない。

「ちょっと、団長! 本当にいいんですか!」
「そうですよ! アリシアちゃん、かわいそうですよ!」
「団長もアリシアちゃんと別れるのは寂しいでしょう!」

 ダレルや自警団員たちがそう口にするが、アーノルドも彼女の決定を否定することはなく、ただ首を横に振るだけだった。

「私にできることは、アリシアを信じることくらいだよ。あとは、たまに王都へ足を運んで顔を見ることかな」

 そう口にしながら、アーノルドは隣に座るアリシアの頭を撫でた。

「……ヴァイスとジーナちゃんもそれでいいのか?」

 アーノルドの言葉を受けてもまだ納得できないダレルは、次にヴァイスとジーナへ声を掛けた。

「俺は正直、納得してない」
「なら、お前からもなんとか言って――」
「でも、アリシアがその選択をしたのなら、応援するしかできないですよ」

 ダレルの言葉を遮るようにして、ヴァイスははっきりと口にする。

「私も同じです。アリシアちゃんについて行きたいけど、断られちゃったし。それに、アリシアちゃんは強いから!」

 ジーナもそうアリシアの言葉に従うと口にしたものの、その表情は無理やり笑みを浮かべているように見えた。

「……二人とも、ありがとう」

 二人の気持ちが理解できたアリシアは、ただお礼を口にすることしかできなかった。

「……はあぁぁ。んだよ、大人の俺が我がままを言っているみたいじゃないか」
「実際そうだからな」
「ちょっと、ゴッツさん!」

 ダレルが頭をガシガシとかきながらそう口にすると、ゴッツが片方の口端を上げながらニヤリと笑う。

「俺たちも心配だが……まあ、ジーナの言う通りということだ」
「……ったく、なんでゴッツさんも団長も、他のみんなもそんなに納得してるんだよ。もしかして、俺だけが知らない何かを知っているのか?」

 ダレルが首を傾げながらそう口にすると、事情を知っている面々はドキッとしてしまう。

「……え? マジで、そうなの?」

 そこで誰からも反応がないのを見て、ダレルは自分で口にしたことにもかかわらず何故か慌て始めてしまった。

「うふふ。そんなことないですよ、ダレルさん」
「アリシアちゃん」
「心配してくれてありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
「でもなぁ……」
「何かあれば、私自らが叩き切ってやるんですから!」

 アリシアがそう口にしながら素振りをするフリをして見せると、ダレルも困り顔から徐々に笑みを浮かべてくれる。

「……まあ、いくら心配したところで、アリシアちゃんと団長が納得しているなら意味はないかー」
「皆の気持ち、本当にありがたく思う。だが、これもアリシアが決めたことだからな、尊重してほしいんだ」

 アーノルドの言葉はアリシアが思っていることと同じであり、彼女の隣で頷いている。

「でもよう、アリシア。聖女の神託って、実際に何ができるんだ?」
「そうだよねー。今までみたいに剣を振ることもできるのかな?」

 話がひと段落したと感じたのだろう、ヴァイスとジーナは王都へ行ってからのアリシアのことを心配し始めた。

「うーん、どうだろう。噂でしか聞いたことがないけど、聖女様ってのはとっても貴重な存在みたいだし、貴族令嬢みたいな扱いを受けるんじゃないの?」

 二人の疑問に答えたのはシエナだった。
 アリシアは内心で間違いではない、と思っていたが口には出さなかった。

「どうだろうね、わかんない。でも、剣を止めるつもりはないよ」
「え、そうなの?」
「はい。もしも取り上げようとかしたら、むしろあの司祭様を切ってやろうかな?」
「ちょっと、それはさすがにダメなんじゃ――」
「いいんじゃないか? そしたら真っ直ぐにディナーラ村に戻って来たらいいさ」
「だ、団長!?」

 アリシアの冗談に笑いながらツッコミを入れようとしていたシエナも、アーノルドが真顔でいいんじゃないかと口にすると、さすがに慌てた様子で口を挟んだ。

「冗談だ、冗談」
「……冗談に聞こえなかったんですけど?」
「……半分、冗談だ」
「半分じゃダメなんですよ!」

 その日の夜は、みんなが解散するまで笑顔の絶えない時間となった。
 アリシアもこれで頑張れる、ディナーラ村を離れたら、一人で頑張らなければと肝に銘じている。

「……無理はするなよ、アリシア」
「……ありがとう、お父さん」

 しかし、今だけはもう少しだけ、父親の温もりを感じていたいと思うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...