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第一章:逆行聖女
第55話:聖女アリシア 8
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「……さて、団長殿。折り入ってご相談があるのだが、よいだろうか?」
「かしこまりました。であれば、村長」
「うむ。私の屋敷へ参りましょう」
ホールトンはアリシアの保護――という名の拉致を進めるため、アーノルドに声を掛けた。
アーノルドも特に疑う様子を見せることなく村長へと声を掛け、アリシアを伴い歩き出す。
後方では村人たちがどういうことだと騒いでいるのが聞こえるが、アリシアとアーノルドからすれば想定内の出来事だった。
そのまま村長の家に到着すると、ホールトンは馬を降りるのすら嫌がっていた護衛騎士と共に屋敷へ入っていく。
ここでも護衛騎士は中に入るのを嫌がり、村長やアーノルドを睨みつけながら嫌々入っていった。
「さて、今回のご相談というのは、アリシア殿のことです」
「確か、聖女の神託がどうとか仰っていましたね」
「えぇ、その通り。その右手の甲に浮かび上がっている星形の痣、これが聖女の神託なのです」
「ほほう、これが……」
事情を知らない村長がアリシアの右手を覗き込んでいる間、アーノルドとホールトンは話を進めていく。
「しかし大司祭様。アリシアはこの痣ができてからも普段通りの生活を送ってきました。特に聖女と呼ばれるような何かをしたという記憶はありませんよ?」
「でしょうなぁ。聖女の御業とは、聖女になるための教育を受け、初めて開花するものなのですから」
(その聖女教育のせいで、私は私の人生を奪われたんだけどね)
内心で文句を言いながら、アリシアも驚いている振りをしながら星形の痣に目を向ける。
「ということは、聖教会からディラーナ村へアリシアの家庭教師を派遣してくれるということでしょうか?」
「そうしたいのは山々なのですが、ディラーナ村の近くには聖教会の支部がありませんで、人を派遣するのも難しいのです」
「そうですか。であれば、アリシアは聖女としてではなく、この村で一人の女の子として育てることになりますな」
アーノルドはアリシアを送り出すとは口が裂けても言いたくなかった。
故に、そちらが派遣しないのであれば娘は出さんぞ、という意思表示を遠回しながら口にする。
「貴様、ふざけているのか?」
「何がでしょうか、騎士様?」
「大司祭様がわざわざこのような田舎まで足を運んでいるのだ、であれば娘を差し出すのが常識であろうが!」
「そちらの常識など知ったことではありません。娘を差し出すのが常識だと? 子供を放り出すような親が、聖教会の聖徒には多いのですかな、大司祭様?」
「いえいえ、そのようなことはございませんよ。これ、ベントナー」
「しかし、大司祭様!」
口を開けば罵声しか飛び出さない護衛騎士のベントナーにホールトンが声を掛けると、彼はそれでも止まろうとはしない。
しかし、ホールトンと目があった途端、ベントナーは体は小さく震わせながら口を閉ざした。
(誰にも見えないところで睨んだのね。……昔はあの表情が、とても怖かったな)
ホールトンは相手を黙らせる際、聖気を瞳に宿らせて睨みつけてくる。
本来であれば安らぎを与えてくれるはずの聖気を、ホールトンは相手を従わせるために利用しているのだ。
その威圧を受けたベントナーは大人しくなったものの、その視線はアーノルドを睨みつけており、さらにはアリシアにも及んでいた。
「どうでしょうか、団長殿。アリシア殿を我々に預けていただけないでしょうか? 悪いようには絶対にいたしませんので」
実のところ、答えはもう決まっている。
アーノルドが答えを焦らしているのは、一つの条件を付けるためだった。
「……であれば、私がそちらを訪れた際は、必ず会わせていただくことをお約束していただけますでしょうか?」
「面会ですね。それはもう、もちろんですとも」
「であれば――聖教書にて記していただいてもよろしいですか?」
まさかアーノルドから聖教書という言葉が出てくると思っていなかったのか、先ほどまでスラスラと話していたホールトンの口がピタリと止まった。
「かしこまりました。であれば、村長」
「うむ。私の屋敷へ参りましょう」
ホールトンはアリシアの保護――という名の拉致を進めるため、アーノルドに声を掛けた。
アーノルドも特に疑う様子を見せることなく村長へと声を掛け、アリシアを伴い歩き出す。
後方では村人たちがどういうことだと騒いでいるのが聞こえるが、アリシアとアーノルドからすれば想定内の出来事だった。
そのまま村長の家に到着すると、ホールトンは馬を降りるのすら嫌がっていた護衛騎士と共に屋敷へ入っていく。
ここでも護衛騎士は中に入るのを嫌がり、村長やアーノルドを睨みつけながら嫌々入っていった。
「さて、今回のご相談というのは、アリシア殿のことです」
「確か、聖女の神託がどうとか仰っていましたね」
「えぇ、その通り。その右手の甲に浮かび上がっている星形の痣、これが聖女の神託なのです」
「ほほう、これが……」
事情を知らない村長がアリシアの右手を覗き込んでいる間、アーノルドとホールトンは話を進めていく。
「しかし大司祭様。アリシアはこの痣ができてからも普段通りの生活を送ってきました。特に聖女と呼ばれるような何かをしたという記憶はありませんよ?」
「でしょうなぁ。聖女の御業とは、聖女になるための教育を受け、初めて開花するものなのですから」
(その聖女教育のせいで、私は私の人生を奪われたんだけどね)
内心で文句を言いながら、アリシアも驚いている振りをしながら星形の痣に目を向ける。
「ということは、聖教会からディラーナ村へアリシアの家庭教師を派遣してくれるということでしょうか?」
「そうしたいのは山々なのですが、ディラーナ村の近くには聖教会の支部がありませんで、人を派遣するのも難しいのです」
「そうですか。であれば、アリシアは聖女としてではなく、この村で一人の女の子として育てることになりますな」
アーノルドはアリシアを送り出すとは口が裂けても言いたくなかった。
故に、そちらが派遣しないのであれば娘は出さんぞ、という意思表示を遠回しながら口にする。
「貴様、ふざけているのか?」
「何がでしょうか、騎士様?」
「大司祭様がわざわざこのような田舎まで足を運んでいるのだ、であれば娘を差し出すのが常識であろうが!」
「そちらの常識など知ったことではありません。娘を差し出すのが常識だと? 子供を放り出すような親が、聖教会の聖徒には多いのですかな、大司祭様?」
「いえいえ、そのようなことはございませんよ。これ、ベントナー」
「しかし、大司祭様!」
口を開けば罵声しか飛び出さない護衛騎士のベントナーにホールトンが声を掛けると、彼はそれでも止まろうとはしない。
しかし、ホールトンと目があった途端、ベントナーは体は小さく震わせながら口を閉ざした。
(誰にも見えないところで睨んだのね。……昔はあの表情が、とても怖かったな)
ホールトンは相手を黙らせる際、聖気を瞳に宿らせて睨みつけてくる。
本来であれば安らぎを与えてくれるはずの聖気を、ホールトンは相手を従わせるために利用しているのだ。
その威圧を受けたベントナーは大人しくなったものの、その視線はアーノルドを睨みつけており、さらにはアリシアにも及んでいた。
「どうでしょうか、団長殿。アリシア殿を我々に預けていただけないでしょうか? 悪いようには絶対にいたしませんので」
実のところ、答えはもう決まっている。
アーノルドが答えを焦らしているのは、一つの条件を付けるためだった。
「……であれば、私がそちらを訪れた際は、必ず会わせていただくことをお約束していただけますでしょうか?」
「面会ですね。それはもう、もちろんですとも」
「であれば――聖教書にて記していただいてもよろしいですか?」
まさかアーノルドから聖教書という言葉が出てくると思っていなかったのか、先ほどまでスラスラと話していたホールトンの口がピタリと止まった。
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