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第一章:逆行聖女
第52話:聖女アリシア 5
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「模擬戦、始め!」
開始の合図とともに、二人が同時に飛び出していく。
真正面から剣と剣がぶつかり合い、甲高い音を響かせる。
「膂力は私の方が上みたいね!」
「それなら、これはどうですか!」
グッと足に力を込めると、アリシアの速度が突進の時よりもさらに加速してシエナの周りを移動する。
アリシアの動きを捉えるため、シエナの瞳が忙しなく上下左右に動き続け、一度として見失うことはしない。
さらにシエナはそれだけではなく反撃にまで転じてきた。
「そこっ!」
「くっ!」
鋭い刺突がカウンター気味にアリシアを襲うと、彼女は前進しようとしていた足を止めてしまう。
すると今度はシエナが加速を初めてアリシアを撹乱しようと動き出した。
「速度なら私が上ですよ!」
「そうかもしれなけど、技術ならどうかしら?」
アリシアの言う通り、現時点での速度だけを見ればアリシアに軍配が上がる。
だが、シエナにはアリシアに次ぐ速度に加えて剣の技術が備わっている。
フェイントを織り交ぜた撹乱攻撃を受け、アリシアの集中力は徐々に削られていき、体力も一気に失われていく。
「ほら! 足が止まっているわよ!」
「くあっ! ま、まだです!」
「その意気よ!」
二人の白熱した模擬戦を前に、ヴァイスとジーナは目を奪われており、二人だけではなく別の場所で訓練を行っていた自警団員たちの視線も集まり始めていた。
その中には話し合いを終えたアーノルドやゴッツ、ダレルの姿もある。
「ふむ……ゴッツ、ダレル。どちらが勝つと思う?」
「その質問を団長がしますか」
「俺はシエナが勝つと思います」
どう答えるべきか迷っていたゴッツとは違い、ダレルは即答でシエナの名前を挙げた。
「その根拠は?」
「アリシアちゃんは確かに強くなっていますけど、シエナも先輩としてまだ負けられないですよ。意地がありますからね」
「意地か。ゴッツはどうだ?」
「正直なところ、わかりません」
「そうなんですか、ゴッツさん?」
ダレルはゴッツの答えに驚き聞き返す。
「普通に考えればシエナ一択だろうが……こういう質問を団長がしてくる時は、何かしら良からぬことを考えていることが多いからなぁ」
「……そうか?」
「大方、アリシアに秘策でも授けているのではないですか?」
「えぇー? それって卑怯じゃないですか、団長!」
「誰も秘策を授けているとは言っていないだろう」
とは口にしたものの、アーノルドの視線は誰もいない虚空へと向けられている。
その表情を見たゴッツとダレルは顔を見合わせると、小さく苦笑した。
「それなら、確かにアリシアちゃんにも勝利の目はあるかもしれないな」
「ならば私はアリシアに一票だな」
「あれ? もしかして俺は変えられない感じですか?」
「負けたら晩飯、奢れよ?」
「えぇっ! ちょっと、いきなり過ぎないっすか、ゴッツさん!」
三人が盛り上がっていると、急に自警団員たちから歓声があがった。
「おっ! どうやらそろそろ決着の時が近いみたいですね」
「さて、晩飯はどうなるやら」
「まあ、楽しみに見ておけ」
そのまま三人の視線もアリシアとシエナに注がれる。
言葉通り、二人の模擬戦は佳境へと差し掛かっていた。
(はぁ、はぁ……このままじゃあ、私の方が先に体力を削られてしまうわ。なら、やれることはたった一つ)
「そろそろ終わらせるわよ、アリシアちゃん!」
「えぇ、勝負です! シエナさん!」
柔の剣同士がぶつかり合う場合、突出した一つの能力によって勝敗が決することが多い。
今回でいえば剣の技術――シエナに軍配が上がるはずだった。
「剛の剣――天地瓦解!」
「はあ!? ご、剛の剣!!」
強烈な一撃で振り下ろされたアリシアの一振りは柔の剣ではなく、アーノルドが得意とする剛の剣だった。
地面を穿つと突風が吹き荒れ、砂煙が舞い上がり視界を奪っていく。
柔の剣でも同様のことは可能だが、剛の剣のように大量の砂煙を巻き上げることは難しい。
特に足を止められたアリシアには不可能なことであり、天地瓦解こそがアーノルドの授けた秘策でもあった。
「くっ! アリシアちゃんはどこなの!」
「ここですよ、シエナさん」
「あ……」
耳元でそう告げられると同時に、首筋に剣が当てられる。
砂煙が晴れると、シエナの背後を取ったアリシアの姿が自警団員たちの視界に飛び込んできた。
「……はぁ。完敗よ、アリシアちゃん」
「まあ、完全に奇襲でしたけどね」
負けを認めたシエナに対してアリシアがそう呟くと、顔を見合わせて笑みを浮かべ、お互いに称え合うのだった。
開始の合図とともに、二人が同時に飛び出していく。
真正面から剣と剣がぶつかり合い、甲高い音を響かせる。
「膂力は私の方が上みたいね!」
「それなら、これはどうですか!」
グッと足に力を込めると、アリシアの速度が突進の時よりもさらに加速してシエナの周りを移動する。
アリシアの動きを捉えるため、シエナの瞳が忙しなく上下左右に動き続け、一度として見失うことはしない。
さらにシエナはそれだけではなく反撃にまで転じてきた。
「そこっ!」
「くっ!」
鋭い刺突がカウンター気味にアリシアを襲うと、彼女は前進しようとしていた足を止めてしまう。
すると今度はシエナが加速を初めてアリシアを撹乱しようと動き出した。
「速度なら私が上ですよ!」
「そうかもしれなけど、技術ならどうかしら?」
アリシアの言う通り、現時点での速度だけを見ればアリシアに軍配が上がる。
だが、シエナにはアリシアに次ぐ速度に加えて剣の技術が備わっている。
フェイントを織り交ぜた撹乱攻撃を受け、アリシアの集中力は徐々に削られていき、体力も一気に失われていく。
「ほら! 足が止まっているわよ!」
「くあっ! ま、まだです!」
「その意気よ!」
二人の白熱した模擬戦を前に、ヴァイスとジーナは目を奪われており、二人だけではなく別の場所で訓練を行っていた自警団員たちの視線も集まり始めていた。
その中には話し合いを終えたアーノルドやゴッツ、ダレルの姿もある。
「ふむ……ゴッツ、ダレル。どちらが勝つと思う?」
「その質問を団長がしますか」
「俺はシエナが勝つと思います」
どう答えるべきか迷っていたゴッツとは違い、ダレルは即答でシエナの名前を挙げた。
「その根拠は?」
「アリシアちゃんは確かに強くなっていますけど、シエナも先輩としてまだ負けられないですよ。意地がありますからね」
「意地か。ゴッツはどうだ?」
「正直なところ、わかりません」
「そうなんですか、ゴッツさん?」
ダレルはゴッツの答えに驚き聞き返す。
「普通に考えればシエナ一択だろうが……こういう質問を団長がしてくる時は、何かしら良からぬことを考えていることが多いからなぁ」
「……そうか?」
「大方、アリシアに秘策でも授けているのではないですか?」
「えぇー? それって卑怯じゃないですか、団長!」
「誰も秘策を授けているとは言っていないだろう」
とは口にしたものの、アーノルドの視線は誰もいない虚空へと向けられている。
その表情を見たゴッツとダレルは顔を見合わせると、小さく苦笑した。
「それなら、確かにアリシアちゃんにも勝利の目はあるかもしれないな」
「ならば私はアリシアに一票だな」
「あれ? もしかして俺は変えられない感じですか?」
「負けたら晩飯、奢れよ?」
「えぇっ! ちょっと、いきなり過ぎないっすか、ゴッツさん!」
三人が盛り上がっていると、急に自警団員たちから歓声があがった。
「おっ! どうやらそろそろ決着の時が近いみたいですね」
「さて、晩飯はどうなるやら」
「まあ、楽しみに見ておけ」
そのまま三人の視線もアリシアとシエナに注がれる。
言葉通り、二人の模擬戦は佳境へと差し掛かっていた。
(はぁ、はぁ……このままじゃあ、私の方が先に体力を削られてしまうわ。なら、やれることはたった一つ)
「そろそろ終わらせるわよ、アリシアちゃん!」
「えぇ、勝負です! シエナさん!」
柔の剣同士がぶつかり合う場合、突出した一つの能力によって勝敗が決することが多い。
今回でいえば剣の技術――シエナに軍配が上がるはずだった。
「剛の剣――天地瓦解!」
「はあ!? ご、剛の剣!!」
強烈な一撃で振り下ろされたアリシアの一振りは柔の剣ではなく、アーノルドが得意とする剛の剣だった。
地面を穿つと突風が吹き荒れ、砂煙が舞い上がり視界を奪っていく。
柔の剣でも同様のことは可能だが、剛の剣のように大量の砂煙を巻き上げることは難しい。
特に足を止められたアリシアには不可能なことであり、天地瓦解こそがアーノルドの授けた秘策でもあった。
「くっ! アリシアちゃんはどこなの!」
「ここですよ、シエナさん」
「あ……」
耳元でそう告げられると同時に、首筋に剣が当てられる。
砂煙が晴れると、シエナの背後を取ったアリシアの姿が自警団員たちの視界に飛び込んできた。
「……はぁ。完敗よ、アリシアちゃん」
「まあ、完全に奇襲でしたけどね」
負けを認めたシエナに対してアリシアがそう呟くと、顔を見合わせて笑みを浮かべ、お互いに称え合うのだった。
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