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第一章:逆行聖女
第41話:自警団員アリシア 19
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――その後、ダレルが医療班を連れて戻ってきたのだが、すでに傷が塞がっておりアリシアの魔法を見ていない面々は首を捻ることになった。
どうしてアーノルドの傷が治っていたのか、ダレルは最後までゴッツたちに詰め寄っていたのだが、彼らが口を割ることは最後までなかった。
『――このことは団長とアリシアに確認が取れるまで口外を禁止する、いいな?』
ゴッツの言葉にヴァイスとシエナも頷いた。
彼らにも何が起きたのかはっきりとはわかっていない。
しかし、あまりに異常なことであり、このことが外部に漏れでもすればアリシアを利用しようとする者が現れないとも限らない。
アーノルドが誰よりもアリシアのことを大事にしていることをゴッツは知っている。
だからこそ、二人に確認が取れるまでは絶対に口外しないようにと言い含めたのだ。
それからの森はしばらく荒れた。
森の主であるシザーベアが殺されたこともあり、新たな森の主が必要だと魔獣たちの中で判断されたのだ。
森の至るところで魔獣が暴走を始め、それを抑え込むために自警団員たちは来る日も来る日も森の中へ足を運び、魔獣狩りを決行した。
魔獣の暴走は七日もの間で続いたものの、ゴッツやダレルら分隊長、そして頭角を現したシエナの活躍もあって大きな被害を出すことなく耐え抜くことができた。
しかし、その間もアリシアとアーノルドが目覚めることはなく、二人はいまだに眠り続けていた。
◆◇◆◇
(――……ここは、どこ?)
アリシアは夢を見ていた。
とはいえ、何もない真っ暗な空間を彼女の意識が漂っているだけだ。
(……私、死んだのかしら?)
自分が死んでしまったのだと思ったものの、不思議と後悔は一つもなかった。
(お父さんは助られたみたいだし、ヴァイスもシエナさんたちも生きていた。それなら、きっと大丈夫)
自分が死んだあとも彼らは助かっただろうと、アリシアは勝手に思っていた。
(……でも、不思議だな。顔も体も、腕も足も、とっても冷たいはずなのに)
そこまで考えたアリシアの意識は、ここにはない体の一部に集中していた。
(……左手だけ、とっても温かいな)
温もりを感じている場所が左手だと、アリシアは自然と理解していた。
(……あぁ、温かい。この温かさを、私はずっと求めていたんだっけ)
そこまで考えたアリシアは、真っ暗な空間の中に小さな、とても小さな光を見つけた。
その光は今にも消えてしまいそうなほど小さく、とても儚げな光を放っているのだが、何故かアリシアはその光が絶対に消えないものだとわかっていた。
(……あそこに行けば、この温かさにまた触れることができるのかな?)
自分が死んだと思っていたはずのアリシアが、再び温もりを得たいと思うようになっていた。
(……私は……まだ……死にたくない)
意識を集中させて、光の方へ向かおうとする。
(……私の頭を、また温かな手で撫でてほしい)
その想いに答えるようにして、儚く小さかった光は強さを増していき、真っ暗だった空間を白く染めていく。
(私を抱きしめて……私の名前を、また呼んでほしい)
死を受け入れようとしていたアリシアの意識が、生への渇望に満たされていく。
(お願い! 私の名前をまた呼んで!)
強い意志を持ったアリシアの想いは夢の中を突き抜けていき、そして――
どうしてアーノルドの傷が治っていたのか、ダレルは最後までゴッツたちに詰め寄っていたのだが、彼らが口を割ることは最後までなかった。
『――このことは団長とアリシアに確認が取れるまで口外を禁止する、いいな?』
ゴッツの言葉にヴァイスとシエナも頷いた。
彼らにも何が起きたのかはっきりとはわかっていない。
しかし、あまりに異常なことであり、このことが外部に漏れでもすればアリシアを利用しようとする者が現れないとも限らない。
アーノルドが誰よりもアリシアのことを大事にしていることをゴッツは知っている。
だからこそ、二人に確認が取れるまでは絶対に口外しないようにと言い含めたのだ。
それからの森はしばらく荒れた。
森の主であるシザーベアが殺されたこともあり、新たな森の主が必要だと魔獣たちの中で判断されたのだ。
森の至るところで魔獣が暴走を始め、それを抑え込むために自警団員たちは来る日も来る日も森の中へ足を運び、魔獣狩りを決行した。
魔獣の暴走は七日もの間で続いたものの、ゴッツやダレルら分隊長、そして頭角を現したシエナの活躍もあって大きな被害を出すことなく耐え抜くことができた。
しかし、その間もアリシアとアーノルドが目覚めることはなく、二人はいまだに眠り続けていた。
◆◇◆◇
(――……ここは、どこ?)
アリシアは夢を見ていた。
とはいえ、何もない真っ暗な空間を彼女の意識が漂っているだけだ。
(……私、死んだのかしら?)
自分が死んでしまったのだと思ったものの、不思議と後悔は一つもなかった。
(お父さんは助られたみたいだし、ヴァイスもシエナさんたちも生きていた。それなら、きっと大丈夫)
自分が死んだあとも彼らは助かっただろうと、アリシアは勝手に思っていた。
(……でも、不思議だな。顔も体も、腕も足も、とっても冷たいはずなのに)
そこまで考えたアリシアの意識は、ここにはない体の一部に集中していた。
(……左手だけ、とっても温かいな)
温もりを感じている場所が左手だと、アリシアは自然と理解していた。
(……あぁ、温かい。この温かさを、私はずっと求めていたんだっけ)
そこまで考えたアリシアは、真っ暗な空間の中に小さな、とても小さな光を見つけた。
その光は今にも消えてしまいそうなほど小さく、とても儚げな光を放っているのだが、何故かアリシアはその光が絶対に消えないものだとわかっていた。
(……あそこに行けば、この温かさにまた触れることができるのかな?)
自分が死んだと思っていたはずのアリシアが、再び温もりを得たいと思うようになっていた。
(……私は……まだ……死にたくない)
意識を集中させて、光の方へ向かおうとする。
(……私の頭を、また温かな手で撫でてほしい)
その想いに答えるようにして、儚く小さかった光は強さを増していき、真っ暗だった空間を白く染めていく。
(私を抱きしめて……私の名前を、また呼んでほしい)
死を受け入れようとしていたアリシアの意識が、生への渇望に満たされていく。
(お願い! 私の名前をまた呼んで!)
強い意志を持ったアリシアの想いは夢の中を突き抜けていき、そして――
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