逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
25 / 99
第一章:逆行聖女

第25話:自警団員アリシア 3

しおりを挟む
 詰め所に到着すると、ちょうどアーノルドが帰宅するところだった。

「お父さん!」
「アリシアじゃないか。先に帰ったんじゃないのかい?」

 驚きの声をあげたアーノルドに対して、アリシアは息を切らせながら口を開こうとしたのだが、言葉がすぐには出てこなかった。

(……いったい、どうやって伝えたらいいの? 私しか知らないことなのよ?)
「……どうしたんだい、アリシア?」
「えっと、その……」

 伝えたいことは間違いなくある。
 しかし、これを口にすることでアーノルドから疑いの眼差しを向けられることになるかもしれない。
 そう考えると、なかなか口から言葉が出てこなかった。

「……とりあえず、歩こうか」
「……う、うん」

 アリシアが不安な表情を浮かべている中、アーノルドは柔和な笑みを浮かべながら頭を優しく撫でてそう口にすると、彼女も素直に頷いて歩き出す。
 先ほど走ってきた道のりを、今度はアーノルドとゆっくりとしたペースで歩いていく。
 その間、二人は無言のままであり、アーノルドもアリシアが何を言わんとしていたのかを聞き出そうとはしなかった。

「……何も、聞かないの?」

 無言の時間に耐えられなくなったのはアリシアだった。
 アーノルドがどうして何も聞かないのか、自分の行動に不信感を抱かなかったのか、それをどうしても確認したくなってしまった。
 すると、アーノルドは変わらない笑みのまま優しい声音でゆっくりと口を開いた。

「うーん……気にならないと言えば嘘になるけど、アリシアが苦しんでいるのに、それを無理やり聞くのは違う気がしてね」
「あ……」
「それに、私は信じているんだよ」
「……信じる?」
「あぁ。アリシアが私に話してくれるのをね」

 そう口にしたアーノルドは、再び頭を優しく撫でてくれる。
 その優しさが嬉しくもあり、重くもあった。
 アリシアはアーノルドに多くのことを隠している。
 前世の記憶があること、これから起こるであろう出来事のこと、自分が何を成そうとしているのかも。
 それが、自分を信じてくれているアーノルドに対して誠意に欠いていると、この一年の間、ずっと思っていたのだ。

「……ごめんね、お父さん」
「どうして謝るんだい?」
「……私、話していないことが、たくさんあるの」
「そうか?」
「うん。だから……家に帰ったら、聞いてくれる?」
「もちろんだよ」
「長くなるかもしれないよ?」
「構うものか」
「信じられないこともたくさんあるんだよ?」
「父さんがアリシアの言うことを疑うと思うかい?」
「私の言葉でも、疑いたくなるようなことなんだよ?」
「構うものか。私はアリシアを信じているからね」

 二人は普段よりも小さな歩幅で歩いている。
 会話は途中途中でアリシアが口ごもり、多くを語ることはできなかった。
 それでもアリシアにとっては無言よりは非常にありがたく、会話に集中することができた。
 気づけば家の前に到着しており、グッと歯を噛みしめながら覚悟を決める。

「……苦しいのであれば、言わなくてもいいんだよ?」

 緊張しているのが伝わったのだろう、アーノルドはここでも優しく声を掛けてくれた。
 だが、アリシアは首を横に振ってアーノルドに笑みを向けた。

「大丈夫だよ、お父さん。私も……覚悟を決めたから」
「……そうか。わかったよ」

 頭を撫でていた大きな手がアリシアの肩に置かれ、そして一緒になって歩き出す。
 家の中に入った二人は、これから長い、とても長い話をすることになるだろう。
 それがこれからのディラーナ村の行く末を大きく変えることを、二人はまだ知らない。
 だが、今はそれでもいいのだ。
 アリシアの物語は、まだ始まったばかりなのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...