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第一章:逆行聖女
第14話:剣士アリシア 8
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模擬戦が終了した。
周りの自警団員はアーノルドの強さを十分に理解しているのだが、アリシアは間近で大剣を振るう彼を見るのは初めてだった。
ネイドに剣を教えている時は木剣を使っており、訓練場に足を運んだ時は自警団員に指導している姿は見たことはあっても、本気で大剣を振るっている姿は見たことがなかった。
だからだろうか、アリシアは改めてアーノルドのことを尊敬すると共に、これからの大きな壁とすることを心の中で決めていた。
「お疲れ様! お父さん、シエナさん!」
「あ~ん、アリシアちゃ~ん! 負けちゃったよ~!」
「娘の前だからな、負けるわけにはいかんさ」
「うぅ~! 柔の剣で負けるなんて思わなかったですよ~!」
「あっ!」
二人の模擬戦に圧倒されてしまい、何が柔の剣だったのかに注目するのを忘れていたアリシアは、ハッとした表情を浮かべる。
「……ごめんなさい、二人とも。私、模擬戦に集中するあまり、柔の剣がなんなのかを見るのを忘れていたわ。それに、あまりに速過ぎて途中から全く見えなかったし」
「それでいいんだよ、アリシア」
「そ、そうなの?」
見えていないことが良いと言われるとは思っておらず、アリシアはコテンと首を横にした。
「柔の剣は反応速度を高めて攻撃に対してカウンターを与えるスタイルだ。だが、それだけではどうしても受け身になってしまい、最初のように膠着状態が続くこともある」
「それを団長が昇華させたのが、私たちの柔の剣なのよ」
「……お父さんが、新しい柔の剣を作ったってこと?」
まさかの展開にアリシアは驚きのままアーノルドへ向き直る。
するとアーノルドは力強い笑みを浮かべながら、大きく頷いた。
「……すごい、すごいよ! お父さん!」
「そ、そうか?」
「私用に作ってくれた柔の剣だから、もしかしたらアリシアちゃんのためにも新しい柔の剣を考えてくれるんじゃないかな!」
「……お前、サラリと難しいことを言ってくれるな」
「でも、やるつもりだったんですよね、団長!」
「……ま、まあな」
「嬉しいよ、お父さん!」
恥ずかしがっていたアーノルドは、最後にアリシアから満面の笑みで褒められたこともあり、自警団員たちには見せたことのない表情でデレデレしていた。
「……団長もそんな顔をするんですね~」
「はっ! ……ご、ごほん! お前たち! さっさと訓練を再開しないか!」
「「「「は、はい!」」」」
この場が訓練場だと思い出したアーノルドは、一度咳ばらいを挟んでから見学していた自警団員へ号令を発した。
バラバラと散っていった自警団員はそれぞれの訓練を再開させたものの、先ほどの模擬戦について語り合っている者も出てきている。
特に柔の剣を得意としている自警団員にとっては貴重な模擬戦になったのだろう。
「――団長、顔を真っ赤にしていたな」
「――俺たちにも少しくらいは優しくしてくれてもいいのになぁ」
「そこおっ! 聞こえているぞお!」
「「す、すみませんでしたっ!」」
中にはデレデレしていたアーノルドについて語り合っている者もいたのだが、地獄耳なのか本人に怒鳴られてしまっている者もいた。
「……ったく。あぁ、すまないな、アリシア」
「ううん! 格好いいお父さんが見れたからいいの!」
「――!? ……はぁ、ここでの訓練はアリシア以上に、私がもたないかもしれないな」
「団長の違う一面が見れたので、私たち的には全然問題ないと思いまーす!」
「シエナは黙っていろ!」
「えぇ~? でも、私もアリシアちゃんの指導をするんだったら、これからもここで訓練をしてもらわないと困りますよ?」
「うっ!? ……まあ、それもそうだがな」
口ではシエナに敵わないと理解したアーノルドは小さくため息をつくと、気を取り直してアリシアへ向き直った。
「まずはアリシアの体の柔軟性を見ていこう。それからどのようなスタイルが最も合っているかを相談しながら、実際に剣を振っていこうと思う」
「これからよろしくね、アリシアちゃん!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げたアリシアは、顔を上げると二人に満面の笑みを向けるのだった。
周りの自警団員はアーノルドの強さを十分に理解しているのだが、アリシアは間近で大剣を振るう彼を見るのは初めてだった。
ネイドに剣を教えている時は木剣を使っており、訓練場に足を運んだ時は自警団員に指導している姿は見たことはあっても、本気で大剣を振るっている姿は見たことがなかった。
だからだろうか、アリシアは改めてアーノルドのことを尊敬すると共に、これからの大きな壁とすることを心の中で決めていた。
「お疲れ様! お父さん、シエナさん!」
「あ~ん、アリシアちゃ~ん! 負けちゃったよ~!」
「娘の前だからな、負けるわけにはいかんさ」
「うぅ~! 柔の剣で負けるなんて思わなかったですよ~!」
「あっ!」
二人の模擬戦に圧倒されてしまい、何が柔の剣だったのかに注目するのを忘れていたアリシアは、ハッとした表情を浮かべる。
「……ごめんなさい、二人とも。私、模擬戦に集中するあまり、柔の剣がなんなのかを見るのを忘れていたわ。それに、あまりに速過ぎて途中から全く見えなかったし」
「それでいいんだよ、アリシア」
「そ、そうなの?」
見えていないことが良いと言われるとは思っておらず、アリシアはコテンと首を横にした。
「柔の剣は反応速度を高めて攻撃に対してカウンターを与えるスタイルだ。だが、それだけではどうしても受け身になってしまい、最初のように膠着状態が続くこともある」
「それを団長が昇華させたのが、私たちの柔の剣なのよ」
「……お父さんが、新しい柔の剣を作ったってこと?」
まさかの展開にアリシアは驚きのままアーノルドへ向き直る。
するとアーノルドは力強い笑みを浮かべながら、大きく頷いた。
「……すごい、すごいよ! お父さん!」
「そ、そうか?」
「私用に作ってくれた柔の剣だから、もしかしたらアリシアちゃんのためにも新しい柔の剣を考えてくれるんじゃないかな!」
「……お前、サラリと難しいことを言ってくれるな」
「でも、やるつもりだったんですよね、団長!」
「……ま、まあな」
「嬉しいよ、お父さん!」
恥ずかしがっていたアーノルドは、最後にアリシアから満面の笑みで褒められたこともあり、自警団員たちには見せたことのない表情でデレデレしていた。
「……団長もそんな顔をするんですね~」
「はっ! ……ご、ごほん! お前たち! さっさと訓練を再開しないか!」
「「「「は、はい!」」」」
この場が訓練場だと思い出したアーノルドは、一度咳ばらいを挟んでから見学していた自警団員へ号令を発した。
バラバラと散っていった自警団員はそれぞれの訓練を再開させたものの、先ほどの模擬戦について語り合っている者も出てきている。
特に柔の剣を得意としている自警団員にとっては貴重な模擬戦になったのだろう。
「――団長、顔を真っ赤にしていたな」
「――俺たちにも少しくらいは優しくしてくれてもいいのになぁ」
「そこおっ! 聞こえているぞお!」
「「す、すみませんでしたっ!」」
中にはデレデレしていたアーノルドについて語り合っている者もいたのだが、地獄耳なのか本人に怒鳴られてしまっている者もいた。
「……ったく。あぁ、すまないな、アリシア」
「ううん! 格好いいお父さんが見れたからいいの!」
「――!? ……はぁ、ここでの訓練はアリシア以上に、私がもたないかもしれないな」
「団長の違う一面が見れたので、私たち的には全然問題ないと思いまーす!」
「シエナは黙っていろ!」
「えぇ~? でも、私もアリシアちゃんの指導をするんだったら、これからもここで訓練をしてもらわないと困りますよ?」
「うっ!? ……まあ、それもそうだがな」
口ではシエナに敵わないと理解したアーノルドは小さくため息をつくと、気を取り直してアリシアへ向き直った。
「まずはアリシアの体の柔軟性を見ていこう。それからどのようなスタイルが最も合っているかを相談しながら、実際に剣を振っていこうと思う」
「これからよろしくね、アリシアちゃん!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げたアリシアは、顔を上げると二人に満面の笑みを向けるのだった。
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