逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

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第一章:逆行聖女

第10話:剣士アリシア 4

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 家に帰ってきたアリシアは、晩ご飯を食べながらアーノルドから今後の指導方針について説明を受けていた。

「……柔の剣?」
「あぁ。私が使う剛の剣とは真逆の性質を持つ剣術だが、アリシアには柔の剣の方が合っているように思う」
「でも、それだとお父さんから習えないんじゃないの?」

 アリシアは剣を習いたいと思っているが、できるならアーノルドから習いたいと思っている。
 それは前世で断ち切られた父子の触れ合いを取り戻すためでもあり、絶対に引けない部分でもあった。

「いや、私が教えるよ」
「大丈夫なの?」
「これでも元は柔の剣を扱う剣士だったんだよ」
「……えっ? お父さんが?」

 まさか剛剣のアーノルドが柔の剣を使っていたなどと、誰が思っただろう。
 娘のアリシアでさえ初めて聞く新事実だった。

「父さんも昔は線が細くてなぁ。その頃に使っていたのが、柔の剣なんだよ」
「でも……今のお父さん、ものすごくごついよ?」

 服の上からでも分厚いとわかる胸筋に、袖が張り裂けそうになっている二の腕、太股も他の男性から見ても一回り以上太く、誰がどう見てもガタイの良い男性だ。

「それはまあ……その、あれだ」
「どうしたの?」

 何やら言い難そうにしているアーノルドを見て、アリシアは首を傾げながら問い掛ける。

「……ミーシャがな、力強い男性が好きだと言っていて、死ぬ気で鍛えたんだ」
「……えっ? それだけの理由なの?」
「そ、それだけ!? 私にとってはとても大事なことだったんだぞ!」

 必死に弁解しようとしているアーノルドを見て、アリシアはなんだか嬉しくなってしまう。
 それだけミーシャに一途であり、振り向かせるために努力をして、その心を射止めてしまったのだから。

「うふふ。そうね、大事なことだよね」
「……はぁ。すまない、話が逸れたな」
「私はこのままお母さんの話を聞くのもいいけど?」
「それは……まあ、次の機会にしておこう」

 どうやら二人の出会いのことを色々と聞かれると思ったのか、アーノルドは僅かに顔を赤くさせながらそう口にした。

「それじゃあ……柔の剣ってどういうものなの? お父さんが訓練しているところを何度か見たことがあるけど、あれは違うってことだよね?」
「そうだな。アリシアに見せたことのあるのは全て剛の剣だったはずだ」

 アーノルドの答えを聞いたアリシアは、少しだけ不安を覚えてしまう。
 今まで何度も見てきた、そしてネイドと一緒に遊びながらでも習っていた剛の剣であればなんとか形になるのではと思っていたのだが、まさか一度も見たことがない柔の剣を習うことになったからだ。
 自衛ができる程度でもいいのかもしれないが、未来のことを考えるとそれでは足りないのではと考えてしまう。
 自分が戦場の最前線に立つには、本当の実力者にならなければならない。
 一から習い直す柔の剣でそれだけの実力をつけることができるのか、不安なのだ。

「……大丈夫だよ、アリシア」
「……そうかな?」
「お父さんが信用でいないのかい?」
「うっ! ……そう言われたら、信用しているとしか言えないじゃないのよ!」
「あはは! それは嬉しい言葉だね!」
「もう!」

 頬を膨らませながら怒っているアピールをしたアリシアだったが、その表情がとても愛らしくアーノルドは大笑い。
 しばらく頬を膨らませていたアリシアも、アーノルドの笑い声に釣られてしまい最終的には一緒になって笑っていた。

「うふふ! ……ありがとう、お父さん」
「やるからには私も真剣だからね。絶対にアリシアを一流の剣士にしてみせるよ」
「私も頑張るね! ……そういえば、ネイド兄は一流の剣士になれたの?」

 ネイドがディラーナ村を出ていってからというもの、アリシアは一度も再会を果たせていない。
 彼がアーノルドから指導を受けていた時は遊びの延長だったこともあり、ネイドがどれだけの実力をつけていたのかも把握していなかった。

「ネイドは剛の剣が合っていたし、当時から本気だったから厳しく指導をしたが……まあ、一流になったんじゃないかな」
「何よそれ、歯切れが悪いんじゃない?」
「……できれば一本くらいは模擬戦で私に勝ってもらいたかったが、それができなかったからね。一流なんだが、師匠としては胸を張っては言い辛いんだよ」

 ネイドが村を出ていったのは一二歳の頃である。
 その時点で一流の実力を身につけていただけでもすごいことだが、アーノルドとしては送り出すまでに一回は一本を取ってほしかったのだ。

「……それじゃあ、私が絶対にお父さんから一本を取ってみせるわ!」
「ははははっ! そうならないよう、お父さんも頑張らないといけないな!」

 アーノルドは冗談だと受け止めていたが、アリシアは至って本気だ。
 彼女にとっての大きな目標がまた一つ、決まった瞬間でもあった。
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