上 下
74 / 105

第74話:VS エルダー①

しおりを挟む
『ほほう? 以前に感じた懐かしい気配は、そういうことか』

 俺の魔力が抜けていくのに対して、レオとルナの体が段々と巨大化していき、成獣の姿に変化していく。
 この変化にはガルオンも驚いており、レオにはまだまだ先があるのだと知れて武者震いをしているようにも見えた。

「……ガルルルルゥゥ」
「……グルルルルゥゥ」
「……ギルラアアッ!」

 レオとルナはまだまだ大きさを変化させている。
 そこで先手に打って出たのは、ガルオンだった。

『一匹で何ができるか、ブレイクチャンピオン!』
「ギルラッ!」

 周囲の木々を蹴りながら跳び上がっていき、エルダーめがけて飛び蹴りを放つガルオン。
 それをエルダーは軽く翼を羽ばたかせるだけで大きく上昇して回避した。

「ギルルルル」
『貴様の舞台でもある地上で戦ってやろうか? どちらにしても、我が負けるはずはないがな!』
「ギルラアアアアッ!」

 唸り声を上げたガルオンに対して、挑発的な笑みを浮かべながら言い放つエルダー。
 それでもガルオンは気合いと共に再び木々を蹴りながら跳び上がっていくと、エルダーめがけて攻撃を仕掛けていく。

『……なんなのだ、貴様? これでは全くつまらぬではないか!』

 ここでもエルダーは上昇して回避したことで、全く同じやり取りが行われたことに腹を立て始めていた。

『このようなつまらぬ攻撃を仕掛けてくるような奴ではなかっただろう、ブレイクチャンピオン!』
「ギルラララ!」
『それでも構わんだと? ……くくくく、がははははははははっ! どうやら貴様は人間の従魔に成り下がったことで、つまらぬ魔獣に成り下がったようだな!』

 エルダーは呵々大笑しながら、最後には鋭い視線をガルオンへ向ける。

『そういうことであれば……つまらぬ貴様を相手に遊んでやる義理もない。一瞬で片を付けてやろう!』
「ギルラ!?」

 そう宣言したエルダーが上空でホバリングしていると、彼の周囲に巨大な炎がいくつも顕現する。
 いくらガルオンが強くても、あれだけの炎を食らったらひとたまりもないんじゃないのか?

「ガルオン! 無茶だけはするな! 絶対にみんなで生きて帰るんだからな!」
「ギルルララ!」
『そんな余裕があると思うな! 消し飛べ、ブレイクチャンピオン!!』

 俺が指示を出した直後、エルダーは顕現させた炎を全てガルオンへ放ち始めた。
 左右だけではなく、木々を蹴りながらの立体軌道で巧みに回避していくガルオン。
 それでも炎は次から次へと顕現されており、最初に作り出した以上の炎がガルオンへと襲い掛かっていく。

「ギルルルル!」
『どうした、ブレイクチャンピオン! その名に恥ずかしい戦い方をしているではないか!』

 破壊の優勝者が、回避に専念している。
 そのことが酷く苦しくて、俺はガルオンに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
 ガルオンが回避に専念しているのは、俺たちのためだ。時間を稼いでくれているんだ。
 レオとルナなら、エルダーを倒せると信じての行動なのだ。
 俺はそんなガルオンの期待に――応えたい!

「ガルアアアアアアアアッ!!」

 俺の思いが通じたのか、直後にはレオが雄叫びを上げた。
 それと同時に周囲の気温が一気に下がり、ガルオンへ迫っていた巨大な炎が一瞬にして氷漬けになる。

『ほほう! やるではないか、アイスフェンリル!』

 全ての炎が氷漬けとなり地面へ落下し、そのまま音を立てて砕けていく。
 その様子を見たエルダーは嬉しそうに笑い、その獰猛な笑みをレオへ向ける。

「シャアアアアッ!!」

 しかし、俺の魔力を吸収して聖獣の姿に変化したのはレオだけではない。
 すでに動き出し、高速で駆け出していたルナがエルダーよりもはるか上空へと跳躍していた。

 ――ズバッ!

『くぅっ!?』
「ミイイッ!?」

 傷を負わされたことで苦悶の声を漏らしたエルダーだったが、驚きの声を上げたルナに俺は意識を奪われてしまう。

「……はっ! ルナ、大丈夫か!」
「ミイイッ!」

 確かにエルダーに傷を負わせたルナだったが、彼女の右前脚からも出血が確認できてしまった。
 正確に言えば、爪が剥がれてしまっている。
 エルダーの硬い鱗を砕いて傷を負わせることには成功したものの、それと同時にルナの爪が耐えきれず剥がれてしまったのだ。

「シャアアアアッ!」
「ガルアアアアッ!」

 それでも今が好機だと判断したルナは再びエルダーへと襲い掛かり、同時にレオも駆け出していく。
 二匹同時であれば倒すことも可能だと判断したに違いない。

『……舐めるなよ、赤子風情がああああっ!!』

 直後、エルダーの体から炎が迸り、彼を守るようにして周囲を漂い始めた。

『撃ち落とせ、フレイムウィップ!』

 炎は鞭のようにしなやかな動きを見せ、迫ってきたルナとレオを攻撃していく。

「シャアアッ!」
「ガルラアッ!」

 瞬時に回避行動を取ったルナとレオだったが、炎の鞭は不規則な動きを見せており、二匹を追い掛け回していく。そして――

「ミイイイイッ!?」
「ガルアアアッ!?」
「ルナ! レオ!」

 ついに避けきれなくなったルナとレオが、炎の鞭によって地面へと叩きと落とされてしまった。

「大丈夫か、ルナ、レオ!」
「……ミ、ミイイィィ」
「……ガルルゥゥ」

 慌てて駆け寄り声を掛けると、ルナもレオも諦めないという気迫を見せて立ち上がろうとしてくれるものの、その体はよろめいている。
 ……これが、ドラゴン。これが、エルダーなのか。

『全く、つまらんな。赤子が聖獣となるまで待ってやろうと思ったが、人間の従魔に成り下がった奴等ではどうしようもないか。それならばいっそ、この場で殺してしまってもいいかもしれんな!』

 ……嘘だろ。あれは、マズい!
 ドラゴンの最大攻撃と言えば、おそらくブレスに違いない。
 そしてエルダーは間違いなく、ブレスを放つ準備に入ったはずだ!

「逃げろ! レオ、ルナ!」
『逃がすはずがないであろう! これで終わりじゃああああっ!!』

 大口を開けたエルダーの口内が、奥から真っ赤に染まっていく。
 その光景が不思議とゆっくりに映り、このまま殺されてしまうんじゃないかと思い始めた――その時だった。

「え?」

 俺の体から、さらなる大量の魔力が一気に吸収され始めた。


※※※※
誠に勝手ながら、次の更新より頻度を減らさせていただきます。

《土日の12:10更新》

書籍化作業に加えて、プライベートも忙しくなってきており、更新頻度の変更を余儀なくされました。
本作を楽しみに読んでくれております読者様には申し訳ございませんが、ご理解いただけますと幸いです。

今後とも何卒よろしくお願いいたします。
※※※※
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

不遇天職と不遇スキルは組み合わせると最強です! ~モノマネ士×定着で何にでもなれちゃいました~

渡琉兎
ファンタジー
ガゼルヴィード騎士爵家の五男として生を受けたアリウスは、家族から冷遇されていた。 父親が騎士職の天職、母親が占い職の天職を授かっており、他の兄妹たちも騎士職や占い職を授かっている中で、アリウスだけが【モノマネ士】という不遇職の天職を授かってしまう。 さらに、天職と合わせて授かるスキルも【定着】というモノマネ士では扱いにくいスキルだったことも冷遇に拍車をかけていた。 しかし、冷遇されているはずのアリウスはそんなことなど気にすることなく、むしろ冷遇を逆手にとって自由に生活を送っていた。 そのおかげもあり、アリウスは【モノマネ士】×【定着】の予想外な使い方を発見してしまう! 家を飛び出したアリウスは、【天職】×【スキル】、さらに努力から手に入れた力を駆使して大活躍するのだった!!

異世界生活物語

花屋の息子
ファンタジー
 目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。 そんな魔法だけでどうにかなるのか???  地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

処理中です...