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第62話:鍛冶師レイア

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「お疲れ様です、レイアさん」
「え? あら、村長さんじゃない! どうしたんですか?」

 作業を終えたレイアさんにナイルさんが声を掛けると、ビックリしたように返答した。

「リドル君や冒険者の皆さんが、鍛冶師のあなたに会いたいと言っていましてね」
「そうなんですか?」

 額に浮かんでいた汗を拭いながら、レイアさんはナイルさんの後ろに立っていた俺たちへ視線を向けた。

「初めまして! って、領主様は違うけど、私は鍛冶師のレイア、よろしくね!」
「ガズンだ」
「ミシャだよ!」
「お初にお目に掛かります。俺はAランク冒険者のオルフェンと申します。以後お見知りおきを」

 ……オルフェンさん、キャラが変わっているんですけど? 誰かと入れ替わってますか?

「うふふ、面白い人ね」

 おや? これが意外とウケているのか?

「それで? 私に会いたいってことは、鍛冶の依頼でもあるのかしら?」

 どうやら社交辞令だったようだ。ドンマイ、オルフェンさん。

「実は、ナイル様からあなたがミスリルを打てると聞いて、鍛冶の依頼をしたく伺いました」
「ミスリル? ……ミスリルって、なんですか?」
「「それです」」

 レイアさんが首を傾げながらそう口にすると、ガズンさんとミシャさんが同時に、先ほどまで彼女が打っていた作品を指さす。
 ちなみに、オルフェンさんは絶賛レイアさんに見惚れ中だ。

「これがそうなの? ……これ、すごい鉱石だったりするのかしら?」
「とても貴重な鉱石です! 俺たち冒険者にとっては憧れの素材でもあります!」
「そうなんですよ! だから、ミスリルを打てるって聞いて、お願いしに来ました!」
「そうだったんだ。……村のみんなの鎌とか、桑とか、包丁とかに使ってたけど、よかったのかしらねぇ?」
「「……鎌……桑……包丁……」」

 あー……うん、それは愕然としちゃうよね。
 自分たちの憧れの素材を、まさか村人が知らなかったとはいえ、日常で使っていたんだから。
 そういえば、俺も料理をする時にルミナさんから譲ってもらったお古の包丁を使っていたけど、切れ味がすごかったな。
 あれもミスリルだったってことか……すごいな、この村。

「よし! そういうことなら任せてちょうだい!」
「いいのか! ちなみに、依頼料はどれくらいだろうか?」
「依頼料? あはは! いらないわよ、そんなもの!」
「ダ、ダメですよ! レイアさんの鍛冶師のとしての腕は、本当にすごいものなんですからね! 自分の技術を安売りしちゃダメだって、おじいちゃんに言われましたもん!」

 ガズンさんの言葉を笑いながら一蹴したレイアさんだったが、そこへミシャさんが食って掛かる。
 まあ、俺も今回に関してはミシャさんと同意見だ。
 技術の安売りほど、自分にとって不利になることはないからな。

「そう? それじゃあ……美味しいお肉! これを取ってきてくれたら嬉しいかな!」
「他には?」
「他? ……うーん、今のところは思いつかないかなぁ。お金だって、ここじゃああってないようなものだからなぁ」

 腕組みしながらそう口にしたレイアを見て、ガズンさんとミシャさんは顔を見合わせる。
 そして、ならばと決意した表情で一つ頷くと、勢いよくレイアさんを見た。

「お任せください、レイアさん! その依頼、俺が最高の肉をお届けさせていただきます!」

 だが、ガズンさんとミシャさんが口を開く前に、オルフェンさんがやる気に満ちた表情でそう口にした。

「あはは! ありがとう、オルフェンさん。それじゃあ私は、最高の作品をお三方に作り上げなきゃいけないわね!」
「素材のミスリルは俺たちが用意を――」
「あぁ、それは大丈夫よ。だってここにたくさんあるからね」

 そう口にしたレイアさんは、金床が置かれている作業台の奥へ歩いていくと、そこに掛けられていた布を外した。
 そこにあったのは、大量に、そして乱雑に積み重ねられたミスリルの山だった。

「「な、なななな、なんだってええええぇぇええぇぇっ!?」」
「あははー。実は男衆がミスリルを見つけるたびに持ってきてくれるから、こんな大量になっちゃったのよねー」
「そうだったのですか。ふむ、彼らにはあまり採らないよう、伝えておいた方がいいですか?」
「そうしてくれるとありがたいです、村長さん。実のところ、有り余り過ぎてどうしたらいいのか困っていたんですよ」

 苦笑いしながらそう口にしたレイアさんだが、そんな彼女の反応を唖然としながら見つめているガズンさんとミシャさん。
 ……貴重な鉱石が、憧れの鉱石が、乱雑に山のように積まれていたら、そういう反応になるか。
 そしてオルフェンさんは、もうどうでもいいか。自由にやらせておこう。
 これで気持ちに蓋をしているというのだから、驚きだ。
 本気で好きな人にアタックしようと思ったら、この人はいったいどうなるんだろうか。
 ……ちょっとだけ興味が湧いてくるな。

「よし、行くぞ! ぐずぐずするなよ、ガズン! ミシャ! リドル!」
「えぇ!! お、俺もですか!?」
「当然じゃないか! レオとルナも一緒だもんな!」
「ガウガウー!」
「ミーミー!」

 そして楽しそうなレオとルナ。
 これはもう、行くしかないかな。

「作品は早くても三日掛かるから、それ以降にまた顔を出してちょうだいね!」
「分かりましたよ、レイアさん!」

 上機嫌なオルフェンさんを先頭に、俺は苦笑しているナイルさんに挨拶をしてから、再び魔の森へと向かった。
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