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第39話:襲撃

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◆◇◆◇

 ――リドルがレオとルナと共に、村を離れた。
 彼らを見送ったナイルとコーワンは、お互いに顔を見合わせると、すぐに武器を手に取る。
 彼らが手にする武器は、万が一のためにとそれぞれが屋敷に保管していたものである。
 長い間で使われることがなく、ナイルもコーワンも購入してから初めて使うことになったものだ。

「……他の者にも伝えるぞ」
「……そうだな。リドルがいない今、俺たちがまとまらねぇとな」

 リドルに心配させないよう気持ちよく送り出したものの、二人の胸の内は不安でいっぱいだ。
 しかし、大型魔獣と戦えるのは、倒せるのは、リドルたちしかいないというのも理解している。
 彼らが村を離れている間は、自分たちだけで村を守り抜くのだと、改めて気合いを入れ直した。

「モグモグ!」
「ギギギギ!」
「「「「ゴゴゴゴ!」」」」

 すると、そこへグース、ゴンコ、ミニゴレたちが声を上げた。
 自分たちもいるのだと、ナイルとコーワンに伝えたかったのだ。

「……そうだね、すまなかった」
「お前たちがいれば、百人力だぜ!」

 申し訳ないとナイルが口にし、コーワンはしゃがんでからグースたちを撫でまわす。

 ――アオオオオオオオオォォン!

 直後、魔の森の方から魔獣の遠吠えが聞こえてきた。

「まさか、本当に来たのか!」
「俺は村の男たちに声を掛けてくる!」
「頼むぞ、コーワン!」

 コーワンが駆け出していくと、ナイルはグースたちと共に物見台へ上がっていく。
 遠吠えが聞こえてきた方向は、リドルたちが走っていった先とはわずかに右へズレた方向からだ。
 ゴクリと唾を飲み込みながら、ナイルは緊張した面持ちで森の方を見つめる。そして――

「……き、来た! 来たぞおおおお!」

 森から出てきた魔獣を見つけ、ナイルは大声を上げた。
 村では男性陣が武器を手に走ってきており、騒々しくなっているのがナイルにも分かった。
 大型魔獣ではないものの、小型や中型の魔獣が、見えるだけでも一〇匹を超えている。

「こ、こんなに多くの魔獣が、村に下りてきたのか?」

 武器を持つ手が震えてしまう。
 こんな状態で本当に戦えるのかと、ナイルは内心で不安を覚えた。

「……モグ!」
「ギギ!」
「「「「ゴッゴゴー!」」」」

 すると、ナイルの足元にいたグースたちがお互いに声を掛け合い、大急ぎで物見台を駆け下りていく。

「お、おい! グース! みんな!」

 ナイルが声を掛けるが、グースたちは立ち止まることなく、そのまま地面に下りて外壁を越えていく。
 そのまま魔獣がやってきた方へ駆けていくと、相対するように立ちふさがった。

「まさか……危険だ、君たち!」

 グースたちが村のために魔獣へ立ち向かおうとしている。そう察したナイルも大慌てで物見台から駆け下りていく。

「どうしたんだ、村長!」

 そこへコーワンや男性陣が合流した。

「グースたちが、魔獣を足止めしようと外に出てしまったんだ!」
「はあ!? だってあいつら、レオやルナみたいに強くはないだろう!」

 ナイルの答えにコーワンは驚き、他の男性陣たちは顔を見合わせている。

「私たちも急いで外壁の外へ行き、迎え撃つぞ!」
「「「「おう!」」」」

 グースたちを助けるため、ナイルの号令に合わせて全員で外壁の外へ飛び出していく。
 しかし、そこで見た光景は、ナイルたちの予想外のものだった。

「モグモグウウウウ!」

 グースが地面を掘り進めていき、小型魔獣をかく乱する。

「ギギギギイイイイ!」

 ゴンコは近くの土をとても固く丸めると、剛速球で蹴り飛ばしていく。

「「「「ゴゴゴゴオオオオ!」」」」

 ミニゴレたちはその怪力を活かし、大木を根っこから抜いて振り回していたのだ。

『キャイン!?』
『ギャンギャン!?』
『クゥゥン……』

 襲ってきた小型魔獣たちは、たちまち戦意を喪失してしまい、少しずつ後退っていく。

「……これは、いったい?」
「……はは! すげぇじゃねえか、グースも、ゴンコも、ミニゴレたちも!」

 ナイルとコーワンが歓声を上げると――そう簡単には終わらせないと言わんばかりに、中型魔獣が前に出てきた。

『ブルフフフゥゥ』
「……シ、シングルホース、だと?」

 額に生えた一本角が特徴的な、馬に似た中型魔獣のシングルホース。
 中型魔獣が姿を現すと、勢いよく戦っていたグースたちも警戒を強めていく。
 驚異的な突進力を持つシングルホースがぶつかろうものなら、頑丈に造られた石の外壁でも壊されるかもしれない。
 今回ばかりは万事休すだと誰もが思った――その時だ。

「どおおおおりゃああああああああっ!!」

 どこからともなく聞こえてきたのは、女性の雄たけびだ。
 それと同時に何かがシングルホースの方へと飛んでいき、目の前に落ちる。そして――

 ――ドゴオオオオォォン!

「ぬおおおおぉぉっ!?」
「な、なんじゃこりゃああああぁぁっ!?」

 突然の大爆発に、ナイルとコーワンが叫び、男性陣たちも驚愕の表情を浮かべていた。
 何が起きたのか思考が追い付かず、ナイルとコーワンは声のした方へ振り返った。

「あーはははは! どうだ、アニータ様謹製の魔獣撃退用魔導具は! 名付けて、超火炎玉よ!」

 物見台で腰に手を当て高笑いしているアニータを見つけたナイルとコーワンは、唖然としたまま顔を見合わせる。

「中型の魔獣は私の魔導具を投げてください! 小型の魔獣はグースたち、よろしくね!」
「モグモグー!」
「ギギギギー!」
「「「「ゴゴゴゴー!」」」」

 アニータの声を聞き、グースたちが拳を振り上げた。
 その姿を見たナイルたちも武器を持つ手に力を込め、顔を上げて魔獣たちを見た。

「……リドル君の従魔や、アニータさんだけに頼っていて、いいわけがないだろう!」
「俺たちも戦うぞ! 村を守るんだ!」
「「「「おおおおぉぉっ!!」」」」

 それからナイルたちは、全員が一丸となり小型や中型の魔獣を退けた。
 従魔たちやアニータの魔導具があってこそではあったが、それでも魔獣を退けたという事実は、彼らに自信を抱かせるには十分なものだった。

(こちらは問題ないぞ、リドル君。大型魔獣の討伐、情けないが任せたよ!)

 心の中でリドルへ声援を送りながら、ナイルは魔の森へ視線を向けたのだった。

◆◇◆◇
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