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運命の鐘の音
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ゴーン…ゴーン…
精霊界の中心に何よりも大きく立ち上がる教会の鐘が鳴り響いた。
正午だ、今日の祈りの番は俺だから教会へ行かなくては…
「よろしくお願いします。」
…
シーンと静まり返った教会では人間界に住む人間たちの願いと祈りだけで溢れかえっていた。
もともと祈りの番とは、人間達に精霊の加護を与えたり願いを叶えてあげたりするのだが、それがなかなかに重労働らしく苦労する、だけどそれだけが大まかな俺たち人型になれる中級精霊の仕事なのでそう考えたら楽かもしれない。
祈りの番は基本的に2人2組で行うが俺は当たり前に毎度残る、だからこうして1人で行うのだ。
簡単に言うと俺は仲間はずれ、それにもともと精霊とは名乗れない子供だったと思う。
人間と精霊のハーフ
父が人間で母が精霊、だと俺は聞かされてる。
精霊界の禁断に手を出してしまった父と母が俺が5つの時に処刑されて、もうすでに現在12年の時が経っていた。
もう何年も前のことであまり覚えてないが精霊にも人間にも心はあると母は言った。
『愛する者を愛し、信じ、時には怒ったり泣いたり…笑って生きていく…私はそんな、当たり前の幸せを望んでたのよ。』
そう語る母はもうすでに美しかった空色の髪をバッサリと切られていて、光に照らされてキラキラと反射する水面のような瞳には涙を貯めていた。
その時…俺はなんて言ったのだろう。
今となっては分からない。思い出せない。
俺には精霊の心も人の心も分からない。
どちらをとっても出来損ないなのだ。
でもたまに、父と母を思い出すと、どこかが苦しくなる時がある。
これが『寂しい』という気持ちなのだろうか。
その答え合わせすら、俺には機会が無い。
「…その答えとやら見つけてみたいかえ?」
ちょうど3時間程の祈りの番が終わった俺を、まるで待っていたかのようにして現れたのは地の精霊王様だった。
確かに地面が揺れ、木々が凪ぎいていた。
「精霊王様…」
「ルーカス、久しいのぉ?…お前の姿は本当にエリアに似ておる…」
そんなはずは無い、俺は母と違ってブロンズ髪だ。それに母の目はたれていたが俺は逆につり上がっている。
「…ふはは…!これはまた面白いやつじゃのぉ?儂はそういう事を言っておる訳では無い。心の色の話じゃよ。」
「心の色…?」
「そのまんまじゃよ、お前達親子はその色が似ておるのじゃ、2人とも誰よりも綺麗な澄んだ色をしておるのじゃ。」
精霊王様は何故か『楽しそう』にお話していらっしゃるけど、俺にはまだ早いのだろう、少し分からないところが多い、でも母と同じなのはちょっと『嬉しい』気がする。
「儂との会話でも心をゆさぶれたのかえ?それは良かったのぉ…」
「…何故…俺を気にかけるのですか?」
これを聞くのは少し『怖い』俺は、俺がどうなって行くのかが『不安』だ。
「ルーカスには水の精霊の守り人として、人間界で番人をしてもらいたいのじゃ。」
「…俺が番人…ですか?…」
番人とは、それぞれ王に1人指名された者が人間界へ渡り、それぞれの精霊の管理と精霊の森と呼ばれる人間界に住む低級精霊達の住処を守る仕事の事だ。
「本当は儂の所に来て欲しいのじゃが…ウンディーネがお前を望んでおってのぉ…」
「水の精霊王様が…?」
「…ルーカス、そなたは人間でも精霊でも無いのでは無い、人間でも精霊でもあるのじゃ。人間界で過ごし、そなたの心の答え合わせとやらをしてみると良いじゃろう。」
答え合わせ…。
そしたら俺はもう少し母の事を知れるだろうか。
「決まった様じゃな、よって儂はお前の面倒を見る義務ができた、困った事があればじゃが、ウンディーネか儂に言いなさい。」
「精霊王さま…」
「落ち着くのじゃルーカス…あとはお前の好きな様にすれば良い、番人の仕事は人間界にいる子らに聞いてくれ。じゃあ達者でな?」
「…分かりました。」
………
……
…
「来たかえ…ウンディーネ…ルーカスはもう行ったぞい」
「分かってるわ…ただ、まだあの子に合わせる顔が無いのよ…」
…
「…やっと…やっとじゃ…ルーカス…エリア…お前達を救える…」
「…私ももう逃げませんわ…遅いかもしれない…それでも貴方に…」
『当たり前の幸せを…』
その時、静寂に包まれた教会の中で、とうの昔に枯れたはずの泉が少しづつ、少しづつ色を戻していた。
精霊界の中心に何よりも大きく立ち上がる教会の鐘が鳴り響いた。
正午だ、今日の祈りの番は俺だから教会へ行かなくては…
「よろしくお願いします。」
…
シーンと静まり返った教会では人間界に住む人間たちの願いと祈りだけで溢れかえっていた。
もともと祈りの番とは、人間達に精霊の加護を与えたり願いを叶えてあげたりするのだが、それがなかなかに重労働らしく苦労する、だけどそれだけが大まかな俺たち人型になれる中級精霊の仕事なのでそう考えたら楽かもしれない。
祈りの番は基本的に2人2組で行うが俺は当たり前に毎度残る、だからこうして1人で行うのだ。
簡単に言うと俺は仲間はずれ、それにもともと精霊とは名乗れない子供だったと思う。
人間と精霊のハーフ
父が人間で母が精霊、だと俺は聞かされてる。
精霊界の禁断に手を出してしまった父と母が俺が5つの時に処刑されて、もうすでに現在12年の時が経っていた。
もう何年も前のことであまり覚えてないが精霊にも人間にも心はあると母は言った。
『愛する者を愛し、信じ、時には怒ったり泣いたり…笑って生きていく…私はそんな、当たり前の幸せを望んでたのよ。』
そう語る母はもうすでに美しかった空色の髪をバッサリと切られていて、光に照らされてキラキラと反射する水面のような瞳には涙を貯めていた。
その時…俺はなんて言ったのだろう。
今となっては分からない。思い出せない。
俺には精霊の心も人の心も分からない。
どちらをとっても出来損ないなのだ。
でもたまに、父と母を思い出すと、どこかが苦しくなる時がある。
これが『寂しい』という気持ちなのだろうか。
その答え合わせすら、俺には機会が無い。
「…その答えとやら見つけてみたいかえ?」
ちょうど3時間程の祈りの番が終わった俺を、まるで待っていたかのようにして現れたのは地の精霊王様だった。
確かに地面が揺れ、木々が凪ぎいていた。
「精霊王様…」
「ルーカス、久しいのぉ?…お前の姿は本当にエリアに似ておる…」
そんなはずは無い、俺は母と違ってブロンズ髪だ。それに母の目はたれていたが俺は逆につり上がっている。
「…ふはは…!これはまた面白いやつじゃのぉ?儂はそういう事を言っておる訳では無い。心の色の話じゃよ。」
「心の色…?」
「そのまんまじゃよ、お前達親子はその色が似ておるのじゃ、2人とも誰よりも綺麗な澄んだ色をしておるのじゃ。」
精霊王様は何故か『楽しそう』にお話していらっしゃるけど、俺にはまだ早いのだろう、少し分からないところが多い、でも母と同じなのはちょっと『嬉しい』気がする。
「儂との会話でも心をゆさぶれたのかえ?それは良かったのぉ…」
「…何故…俺を気にかけるのですか?」
これを聞くのは少し『怖い』俺は、俺がどうなって行くのかが『不安』だ。
「ルーカスには水の精霊の守り人として、人間界で番人をしてもらいたいのじゃ。」
「…俺が番人…ですか?…」
番人とは、それぞれ王に1人指名された者が人間界へ渡り、それぞれの精霊の管理と精霊の森と呼ばれる人間界に住む低級精霊達の住処を守る仕事の事だ。
「本当は儂の所に来て欲しいのじゃが…ウンディーネがお前を望んでおってのぉ…」
「水の精霊王様が…?」
「…ルーカス、そなたは人間でも精霊でも無いのでは無い、人間でも精霊でもあるのじゃ。人間界で過ごし、そなたの心の答え合わせとやらをしてみると良いじゃろう。」
答え合わせ…。
そしたら俺はもう少し母の事を知れるだろうか。
「決まった様じゃな、よって儂はお前の面倒を見る義務ができた、困った事があればじゃが、ウンディーネか儂に言いなさい。」
「精霊王さま…」
「落ち着くのじゃルーカス…あとはお前の好きな様にすれば良い、番人の仕事は人間界にいる子らに聞いてくれ。じゃあ達者でな?」
「…分かりました。」
………
……
…
「来たかえ…ウンディーネ…ルーカスはもう行ったぞい」
「分かってるわ…ただ、まだあの子に合わせる顔が無いのよ…」
…
「…やっと…やっとじゃ…ルーカス…エリア…お前達を救える…」
「…私ももう逃げませんわ…遅いかもしれない…それでも貴方に…」
『当たり前の幸せを…』
その時、静寂に包まれた教会の中で、とうの昔に枯れたはずの泉が少しづつ、少しづつ色を戻していた。
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