箱庭の番人

福の島

文字の大きさ
上 下
1 / 10

運命の鐘の音

しおりを挟む
ゴーン…ゴーン…

精霊界の中心に何よりも大きく立ち上がる教会の鐘が鳴り響いた。

正午だ、今日の祈りの番は俺だから教会へ行かなくては…

「よろしくお願いします。」


シーンと静まり返った教会では人間界に住む人間たちの願いと祈りだけで溢れかえっていた。
もともと祈りの番とは、人間達に精霊の加護を与えたり願いを叶えてあげたりするのだが、それがなかなかに重労働らしく苦労する、だけどそれだけが大まかな俺たち人型になれる中級精霊の仕事なのでそう考えたら楽かもしれない。
祈りの番は基本的に2人2組で行うが俺は当たり前に毎度残る、だからこうして1人で行うのだ。

簡単に言うと俺は仲間はずれ、それにもともと精霊とは名乗れない子供だったと思う。



父が人間で母が精霊、だと俺は聞かされてる。
精霊界の禁断に手を出してしまった父と母が俺が5つの時に処刑されて、もうすでに現在12年の時が経っていた。

もう何年も前のことであまり覚えてないが精霊にも人間にも心はあると母は言った。

『愛する者を愛し、信じ、時には怒ったり泣いたり…笑って生きていく…私はそんな、当たり前の幸せを望んでたのよ。』

そう語る母はもうすでに美しかった空色の髪をバッサリと切られていて、光に照らされてキラキラと反射する水面のような瞳には涙を貯めていた。

その時…俺はなんて言ったのだろう。
今となっては分からない。思い出せない。

俺には精霊の心も人の心も分からない。
どちらをとっても出来損ないなのだ。

でもたまに、父と母を思い出すと、どこかが苦しくなる時がある。
これが『寂しい』という気持ちなのだろうか。

その答え合わせすら、俺には機会が無い。

「…その答えとやら見つけてみたいかえ?」

ちょうど3時間程の祈りの番が終わった俺を、まるで待っていたかのようにして現れたのは地の精霊王様だった。
確かに地面が揺れ、木々が凪ぎいていた。

「精霊王様…」
「ルーカス、久しいのぉ?…お前の姿は本当にエリアに似ておる…」

そんなはずは無い、俺は母と違ってブロンズ髪だ。それに母の目はたれていたが俺は逆につり上がっている。

「…ふはは…!これはまた面白いやつじゃのぉ?儂はそういう事を言っておる訳では無い。心の色の話じゃよ。」
「心の色…?」
「そのまんまじゃよ、お前達親子はその色が似ておるのじゃ、2人とも誰よりも綺麗な澄んだ色をしておるのじゃ。」

精霊王様は何故か『楽しそう』にお話していらっしゃるけど、俺にはまだ早いのだろう、少し分からないところが多い、でも母と同じなのはちょっと『嬉しい』気がする。

「儂との会話でも心をゆさぶれたのかえ?それは良かったのぉ…」
「…何故…俺を気にかけるのですか?」

これを聞くのは少し『怖い』俺は、俺がどうなって行くのかが『不安』だ。

「ルーカスには水の精霊の守り人もりびととして、人間界で番人ばんにんをしてもらいたいのじゃ。」
「…俺が番人…ですか?…」

番人とは、それぞれ王に1人指名された者が人間界へ渡り、それぞれの精霊の管理と精霊の森と呼ばれる人間界に住む低級精霊達の住処を守る仕事の事だ。

「本当は儂の所に来て欲しいのじゃが…ウンディーネがお前を望んでおってのぉ…」
「水の精霊王様が…?」
「…ルーカス、そなたは人間でも精霊でも無いのでは無い、人間でも精霊でもあるのじゃ。人間界で過ごし、そなたの心のとやらをしてみると良いじゃろう。」

答え合わせ…。
そしたら俺はもう少し母の事を知れるだろうか。

「決まった様じゃな、よって儂はお前の面倒を見る義務ができた、困った事があればじゃが、ウンディーネか儂に言いなさい。」
「精霊王さま…」
「落ち着くのじゃルーカス…あとはお前の好きな様にすれば良い、番人の仕事は人間界にいる子らに聞いてくれ。じゃあ達者でな?」
「…分かりました。」


………

……



「来たかえ…ウンディーネ…ルーカスはもう行ったぞい」
「分かってるわ…ただ、まだあの子に合わせる顔が無いのよ…」



「…やっと…やっとじゃ…ルーカス…エリア…お前達を救える…」
「…わたくしももう逃げませんわ…遅いかもしれない…それでも貴方に…」

『当たり前の幸せを…』

その時、静寂に包まれた教会の中で、とうの昔に枯れたはずの泉が少しづつ、少しづつ色を戻していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。 [名家の騎士×魔術師の卵 / BL]

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...