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21・オタカラ
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庁舎の建物の中にをぐるぐる回って歩くのは、そんなに面白いことではなかった。
コハルたちが廊下を通ると自動的に通り道の明かりがついて、通り過ぎると消える。
1階は職場のヒトと来客のヒトが対話できる程度の仕切りがあり、2階以上は大小さまざまな大きさの、薄い緑色の壁的な仕切りとドアで区切られていた。
部屋のドアを開けると部屋の明かりがついて、中が見られて、机と何も写っていないモニターと紙の書類がきれいに各机に並べられてるのが確認できる。
そしてドアを閉めると自動的に部屋の明かりが消える。
モニターと接続している据え置き型端末は、電源は入れるけれども、各人? がロックしているためロック画面より先には進めない。
机の上に置かれた書類は、第何次下水道整備計画とか、電力網再整備計画とか、本当に事務的なもので、読んでいて面白いようなものではない。
仕事場というのはコハルも映像のドラマで見たことがあるけれども、それと全く同じだった。
というよりむしろここの仕事場がドラマを参考にして作られたようにも思えるくらいだった。
何年あるいは何10年、いやそんなには長くはないと思うけど、けっこう長いあいだ、ヒトには使われていなかったわりにはどこもずいぶんきちんとしていた。
整備用のキカイがこの庁舎を、いつヒトが来ても大丈夫なようにしているんだろうし、ヒトがいなくても役所の仕事はちゃんと処理されているようだ。
途中にあった、もはや廃墟になってるような学校とは違うな、というのがアキラの判断だった。
お化けとかいるかな、と、ミユキとナツミは同じことを言った。
ただしミユキは楽しそうに、そしてミユキは不安そうに。
そうね、殺人キカイとかいたらけっこうな冒険になるかもしれない。
ミユキが考える物語では、ヒトとキカイが昔戦争をしたってことだったんだっけ。
ああうん、その、それはそういうのがあったらいいな、じゃなくて、ただの想像というか妄想だから。
2階と3階をざっと見て、すっかり飽きたナツミに対し、それじゃあちょっと自治長室のほうへ行ってみようよ、と、コハルは言った。
*
自治長室は5階で、この町にヒトが住んでいれば、住宅地の明かりがその窓から見えるはずだったけれども、4階までのぼって外を見たかぎりでは、街灯以外にはほとんど明るさを持つものが見られなかった。
自治長室の部屋のドアも、ほかの部屋と同じく簡単に開いたし、中に入ると明かりがついた。
そして大きな机がひとつ、それにたぶん来客用の椅子とソファーが一セット、それから秘書用と思われる小さめの事務机があった。
なるほど、と、アキラは言った。
ここはお宝が眠ってそうな予感がするんだ、と言いながら、ナツミは勝手に引き出しをどんどん開けていった。
嘘っぽい家族の写真とか、角がはげて錆びている文鎮とか、例によってクリップで止められている書類とか、ろくなものは見つからなかった。
けれども自治長の引き出しの左側のいちばん下、大きめのファイルなどが入れてあるボックスのひとつを開けてみて、ナツミは、やった、と叫んだ。
探索をナツミにまかせて、ソファーに座って、沸かしたお湯で作った紅茶などを飲んでいた3人は急いでナツミのそばに走って行った。
そこにはボールほどの大きさの、半透明の紺色の玉があり、玉には電源の差し込み口のようなスロットがあって、中で青色の、トカゲほどの龍が眠るような形で透けて見えた。
電源とつないでみよう、と、コハルは言った。
とにかく何かをすれば何かが起きるし何もしなければ何も起こらない。
起こるとしたらとんでもないことが起こるかもしれないけれども、こんなものを何もしないまま放っておくのはもったいない。
カーテン越しに見えるに見える外の雨はまだ時々降ったり止んだりしていて、あとしばらくは自転車屋に行けそうにはないし、行っても再出発に出ることはできない。
コハルたちが廊下を通ると自動的に通り道の明かりがついて、通り過ぎると消える。
1階は職場のヒトと来客のヒトが対話できる程度の仕切りがあり、2階以上は大小さまざまな大きさの、薄い緑色の壁的な仕切りとドアで区切られていた。
部屋のドアを開けると部屋の明かりがついて、中が見られて、机と何も写っていないモニターと紙の書類がきれいに各机に並べられてるのが確認できる。
そしてドアを閉めると自動的に部屋の明かりが消える。
モニターと接続している据え置き型端末は、電源は入れるけれども、各人? がロックしているためロック画面より先には進めない。
机の上に置かれた書類は、第何次下水道整備計画とか、電力網再整備計画とか、本当に事務的なもので、読んでいて面白いようなものではない。
仕事場というのはコハルも映像のドラマで見たことがあるけれども、それと全く同じだった。
というよりむしろここの仕事場がドラマを参考にして作られたようにも思えるくらいだった。
何年あるいは何10年、いやそんなには長くはないと思うけど、けっこう長いあいだ、ヒトには使われていなかったわりにはどこもずいぶんきちんとしていた。
整備用のキカイがこの庁舎を、いつヒトが来ても大丈夫なようにしているんだろうし、ヒトがいなくても役所の仕事はちゃんと処理されているようだ。
途中にあった、もはや廃墟になってるような学校とは違うな、というのがアキラの判断だった。
お化けとかいるかな、と、ミユキとナツミは同じことを言った。
ただしミユキは楽しそうに、そしてミユキは不安そうに。
そうね、殺人キカイとかいたらけっこうな冒険になるかもしれない。
ミユキが考える物語では、ヒトとキカイが昔戦争をしたってことだったんだっけ。
ああうん、その、それはそういうのがあったらいいな、じゃなくて、ただの想像というか妄想だから。
2階と3階をざっと見て、すっかり飽きたナツミに対し、それじゃあちょっと自治長室のほうへ行ってみようよ、と、コハルは言った。
*
自治長室は5階で、この町にヒトが住んでいれば、住宅地の明かりがその窓から見えるはずだったけれども、4階までのぼって外を見たかぎりでは、街灯以外にはほとんど明るさを持つものが見られなかった。
自治長室の部屋のドアも、ほかの部屋と同じく簡単に開いたし、中に入ると明かりがついた。
そして大きな机がひとつ、それにたぶん来客用の椅子とソファーが一セット、それから秘書用と思われる小さめの事務机があった。
なるほど、と、アキラは言った。
ここはお宝が眠ってそうな予感がするんだ、と言いながら、ナツミは勝手に引き出しをどんどん開けていった。
嘘っぽい家族の写真とか、角がはげて錆びている文鎮とか、例によってクリップで止められている書類とか、ろくなものは見つからなかった。
けれども自治長の引き出しの左側のいちばん下、大きめのファイルなどが入れてあるボックスのひとつを開けてみて、ナツミは、やった、と叫んだ。
探索をナツミにまかせて、ソファーに座って、沸かしたお湯で作った紅茶などを飲んでいた3人は急いでナツミのそばに走って行った。
そこにはボールほどの大きさの、半透明の紺色の玉があり、玉には電源の差し込み口のようなスロットがあって、中で青色の、トカゲほどの龍が眠るような形で透けて見えた。
電源とつないでみよう、と、コハルは言った。
とにかく何かをすれば何かが起きるし何もしなければ何も起こらない。
起こるとしたらとんでもないことが起こるかもしれないけれども、こんなものを何もしないまま放っておくのはもったいない。
カーテン越しに見えるに見える外の雨はまだ時々降ったり止んだりしていて、あとしばらくは自転車屋に行けそうにはないし、行っても再出発に出ることはできない。
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