4 / 37
4・カマキリ
しおりを挟む
コハルが朝起きると、毎日テーブルには朝食とヒトの手書きと思えるメモが置いてあり、学校が終わったあと家に帰ると、テーブルの上にはメモ、冷蔵庫の中にはラップした夜食が置いてある。
メモは、普通のチチとハハが書きそうなことしか書いてない。
コハルの学校のこと、友だちのこと、セカイのこと。
家事は家事用の、形はヒトと似ているキカイがだいたいやってくれる。
学校が休みの日でも、家にヒトである誰かがいる、ということはない。
携帯端末でたとえばこんな通知のやりとりをすると、だいたいこんな感じ。
あなたって実在するんですか。
するに決まってるよ、なんでそんなことを考えるの。
それは、コハルが携帯端末上のフレンドとやりとりする場合と同じくらい、実在の疑わしさを感じさせるものだった。
それを、たとえばアキラに話したとしたら、そんなことは考えてもみなかったな、つまり、自分もしくはコハルのどちらかが実在するか、どちらとも実在しないか、ってことか、みたいなことを言う。
ミユキは、それは神の存在を疑うようなものです、と、真顔で冗談みたいなことを言う。
ナツミは、ぎゅっと手を握って、このおれの体温と力強さがおまえには感じられないのかよ、と言いながら、いた、いた、いたいな、やめてよ、と、コハルが嫌がるまで離さない。
同じようなことを、家事用キカイで試してみたら、あたためますか、と聞いて、コハルの手を適当な強さで握り返してくれた。
キカイは、ヒトを困らせるようなことは言わないし、嫌がるようなことはやらないのである。
*
大きな公園は夏草の盛りでもすみずみまで手入れが行き届いていて、歩道沿いに植えられている街路樹の下の草木
や、近くの公園の雑草よりずっと草が短い。
そしていつもカマキリ型のキカイが何台か、草を刈り続けている。
上半身はカマキリの顔と手だけど、足は4本で先がコンパスの針のようにとんがっている、かしかし、と、いかにもコンチュウ型のキカイっぽい動きをする。
普通のキカイはキカイとすぐ、遠目でもわかるような、あるいは街の景色に埋没してしまうような、メタリックな金属は灰色だったり灰銅色だったりしているものが中心だけど、ヒトに近い距離にある機械はいろいろな色をしてい
る。
コンビニで働くキカイは緑と青と白だったり、緑と赤と橙だったり、緑と白だったり。
家で働くキカイは、アイボリーとかそんな感じの、もうすこしやさしい色をしている。
公園で働く草刈りのキカイのカマキリは、薄い赤色の警戒色で、ときどきこちらを警戒しながら、つまりあまりヒトに近づきすぎないようにこちらを見ている。
*
コハルたち4人は公園でボール遊びをする。
2人でテニス、3人でサッカーかバスケ、4人では野球。
テニスのメンバーはコハルを除く3人で入れ替わったり、サッカーとバスケはオフェンスとディフェンスで3人が
入れ替わったりして遊ぶ。
その間コハルは日の当たらない東屋か日傘の下で相手を相手のプレイを見ている。
テニスで1人あまったときは3人のうちの誰かと将棋をさしたりもする。
1分制限の早指し将棋で、そういうのはアキラがいちばんうまくて早かった。
ミユキは時間制限ギリギリまでうんと考えて、もうこれでいいやという感じでやるし、ナツミはもっとおおらか、悪く言えば雑な打ち方をして、時間に関しても考えたり考えていなかったりするようで、あまり熱心ではなかった
こういうのは多分ある種の遊戯にかかった時間と腕が対応しすぎたせいなんだろうかとコハルは思った。
メモは、普通のチチとハハが書きそうなことしか書いてない。
コハルの学校のこと、友だちのこと、セカイのこと。
家事は家事用の、形はヒトと似ているキカイがだいたいやってくれる。
学校が休みの日でも、家にヒトである誰かがいる、ということはない。
携帯端末でたとえばこんな通知のやりとりをすると、だいたいこんな感じ。
あなたって実在するんですか。
するに決まってるよ、なんでそんなことを考えるの。
それは、コハルが携帯端末上のフレンドとやりとりする場合と同じくらい、実在の疑わしさを感じさせるものだった。
それを、たとえばアキラに話したとしたら、そんなことは考えてもみなかったな、つまり、自分もしくはコハルのどちらかが実在するか、どちらとも実在しないか、ってことか、みたいなことを言う。
ミユキは、それは神の存在を疑うようなものです、と、真顔で冗談みたいなことを言う。
ナツミは、ぎゅっと手を握って、このおれの体温と力強さがおまえには感じられないのかよ、と言いながら、いた、いた、いたいな、やめてよ、と、コハルが嫌がるまで離さない。
同じようなことを、家事用キカイで試してみたら、あたためますか、と聞いて、コハルの手を適当な強さで握り返してくれた。
キカイは、ヒトを困らせるようなことは言わないし、嫌がるようなことはやらないのである。
*
大きな公園は夏草の盛りでもすみずみまで手入れが行き届いていて、歩道沿いに植えられている街路樹の下の草木
や、近くの公園の雑草よりずっと草が短い。
そしていつもカマキリ型のキカイが何台か、草を刈り続けている。
上半身はカマキリの顔と手だけど、足は4本で先がコンパスの針のようにとんがっている、かしかし、と、いかにもコンチュウ型のキカイっぽい動きをする。
普通のキカイはキカイとすぐ、遠目でもわかるような、あるいは街の景色に埋没してしまうような、メタリックな金属は灰色だったり灰銅色だったりしているものが中心だけど、ヒトに近い距離にある機械はいろいろな色をしてい
る。
コンビニで働くキカイは緑と青と白だったり、緑と赤と橙だったり、緑と白だったり。
家で働くキカイは、アイボリーとかそんな感じの、もうすこしやさしい色をしている。
公園で働く草刈りのキカイのカマキリは、薄い赤色の警戒色で、ときどきこちらを警戒しながら、つまりあまりヒトに近づきすぎないようにこちらを見ている。
*
コハルたち4人は公園でボール遊びをする。
2人でテニス、3人でサッカーかバスケ、4人では野球。
テニスのメンバーはコハルを除く3人で入れ替わったり、サッカーとバスケはオフェンスとディフェンスで3人が
入れ替わったりして遊ぶ。
その間コハルは日の当たらない東屋か日傘の下で相手を相手のプレイを見ている。
テニスで1人あまったときは3人のうちの誰かと将棋をさしたりもする。
1分制限の早指し将棋で、そういうのはアキラがいちばんうまくて早かった。
ミユキは時間制限ギリギリまでうんと考えて、もうこれでいいやという感じでやるし、ナツミはもっとおおらか、悪く言えば雑な打ち方をして、時間に関しても考えたり考えていなかったりするようで、あまり熱心ではなかった
こういうのは多分ある種の遊戯にかかった時間と腕が対応しすぎたせいなんだろうかとコハルは思った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
コボンとニャンコ
魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。
その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。
放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。
「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」
三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。
そばにはいつも、夜空と暦十二神。
『コボンの愛称以外のなにかを探して……』
眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。
残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。
※縦書き推奨
アルファポリス、ノベルデイズにて掲載
【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23)
【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24)
【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25)
【描写を追加、変更。整えました】(2/26)
筆者の体調を破壊()3/
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
魔法アプリ【グリモワール】
阿賀野めいり
児童書・童話
◆異世界の力が交錯する町で、友情と成長が織りなす新たな魔法の物語◆
小学5年生の咲来智也(さくらともや) は、【超常事件】が発生する町、【新都心:喜志間ニュータウン】で暮らしていた。夢の中で現れる不思議な青年や、年上の友人・春風颯(はるかぜはやて)との交流の中でその日々を過ごしていた。
ある夜、町を突如襲った異変──夜にもかかわらず、オフィス街が昼のように明るく輝く事件が発生する。その翌日、智也のスマートフォンに謎のアプリ【グリモワール】がインストールされていた。消そうとしても消えないアプリ。そして、智也は突然見たこともない大きな蛇に襲われる。そんな智也を救ったのは、春風颯だった。しかも彼の正体は【異世界】の住人で――。
アプリの力によって魔法使いとなった智也は、颯とともに、次々と発生する【超常事件】に挑む。しかし、これらの事件が次第に智也自身の運命を深く絡め取っていくことにまだ気づいていなかった――。
※カクヨムでも連載しております※
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる