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2・コウエン
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近くの公園でナツミとコハルは キャッチボールをする。
ときどきナツミは 変な投げかたをしたり、変な回り方をするようなボールを投げて、まだ素人のコハルは受けそこなう。
普通に投げ合いをしても受けそこなうと、ボールを取りに行かなければならないので、けっこうそれは面倒だっ
た。
さあ本気で投げてみろ 、と、ナツミは足を曲げてキャッチャーのポーズをした。
コハルの球はいつもヘロヘロで力がないけれども、スピードなんかそんなに考えなくていいんだよ、とナツミは言うのである。
始めるのうちは とにかく相手に届くように頑張っていると確かに届くようになった気がするし、正確に 届くようにもなったような気がする。
コハルはチチに教えてもらうべきものをナツミに教えてもらっているのである。
夏の朝はすぐに日がのぼって、すぐに暑くなる。
コハルはすこし前に手に入れた電動アシスト付きの 黒い自転車を引き出して 、遠くの公園、とは言っても 歩いて10分ほどのところにある公園にナツミと一緒に行くのが夏休みの日課のようになっていた。
*
おせえよお前ら、と、待っていたミユキが、すこしナツミの真似みたいな感じで言った。
ミユキは身長はナツミと同じくらいで、長めの髪を後ろでまとめていて、ときどきメガネをかけていて、コハルの仲間の中では 一番おしゃれである。
それでもボール遊びをするときは、マチへ買い物へ出たりするような、無駄にきばったおしゃれではなく、スポーティさのなかにエレガントが混じったような、汗をかいても動きにくくはならないような、夜明け前の太陽のようなさわやかなかっこうだった。
なにしろボール遊びをしていると服や手足が多少汚れるのは仕方がないのである。
コハルの電動アシスト自転車の、後部チャイルドシートのところには、ナツミのボール遊び用の道具(グローブとかバットとか)やタオルなどが詰められたバッグが置かれて、ナツミは先に行こうとするけれど、遠くの公園につくのはコハルの自転車のほうが早くて(初速に関しては、びっくりするほど早い)、軽くて乗りやすそうなナツミの自転車のほうがあとになる。
ミユキと一緒にいて、待っていたのはアキラだった。
アキラは、3人の中で一番背が高く、フチつきの帽子をかぶっていて、黙々と公園の隅にある倉庫っぽい建物の壁を相手に、サッカーの練習をしていた。
キャッチボールとはちがって、なんかひとりで練習するのが楽しいのだ、というのがアキラの話である。
4人はみんな、「遊びダマ」と4人が勝手に呼んでいるボールを持っていた。
大きさや重さは自由に変えられるし、試合とかで使われる公式の球と比べると、子ども用というか、オトナが使うものよりも扱いやすいサイズにできる。
センセイは、みんなにひとつつずつ、新学期がはじまったら配ったけれど、ナツミはすでに3回はなくしていた。
*
ミユキは、ナツミの自転車よりさらに軽そうだけど丈夫そうな、でも色はパステルピンクの自転車を持っていて、あずまやみたいな建物の脇に立てかけてある。
アキラは、寝そべっても乗れるんだ、という、チェーンとサドルが変な形についている、リカンベントというミクグリーンの自転車で、ミユキとすこし離れた場所においてある。
このふたりは、仲がいいのか悪いのかわからない。
ただ、4人だとあまり喧嘩をしても、ほかの誰かと仲良くする、なんてことはしにくいので、実際のところ、適当な距離を置いてるんだろうな、と、コハルは思った。
みんなは、友だちというより、仲間、という感じだろうか。
なにしろ、ほかに誰かいるとしても、4人の観測できる範囲には、誰もいない。
オヤとかキョウダイとか、同学年とか上級生・下級生とかというのは、コハルも携帯端末の情報でしか知らないのだった。
ときどきナツミは 変な投げかたをしたり、変な回り方をするようなボールを投げて、まだ素人のコハルは受けそこなう。
普通に投げ合いをしても受けそこなうと、ボールを取りに行かなければならないので、けっこうそれは面倒だっ
た。
さあ本気で投げてみろ 、と、ナツミは足を曲げてキャッチャーのポーズをした。
コハルの球はいつもヘロヘロで力がないけれども、スピードなんかそんなに考えなくていいんだよ、とナツミは言うのである。
始めるのうちは とにかく相手に届くように頑張っていると確かに届くようになった気がするし、正確に 届くようにもなったような気がする。
コハルはチチに教えてもらうべきものをナツミに教えてもらっているのである。
夏の朝はすぐに日がのぼって、すぐに暑くなる。
コハルはすこし前に手に入れた電動アシスト付きの 黒い自転車を引き出して 、遠くの公園、とは言っても 歩いて10分ほどのところにある公園にナツミと一緒に行くのが夏休みの日課のようになっていた。
*
おせえよお前ら、と、待っていたミユキが、すこしナツミの真似みたいな感じで言った。
ミユキは身長はナツミと同じくらいで、長めの髪を後ろでまとめていて、ときどきメガネをかけていて、コハルの仲間の中では 一番おしゃれである。
それでもボール遊びをするときは、マチへ買い物へ出たりするような、無駄にきばったおしゃれではなく、スポーティさのなかにエレガントが混じったような、汗をかいても動きにくくはならないような、夜明け前の太陽のようなさわやかなかっこうだった。
なにしろボール遊びをしていると服や手足が多少汚れるのは仕方がないのである。
コハルの電動アシスト自転車の、後部チャイルドシートのところには、ナツミのボール遊び用の道具(グローブとかバットとか)やタオルなどが詰められたバッグが置かれて、ナツミは先に行こうとするけれど、遠くの公園につくのはコハルの自転車のほうが早くて(初速に関しては、びっくりするほど早い)、軽くて乗りやすそうなナツミの自転車のほうがあとになる。
ミユキと一緒にいて、待っていたのはアキラだった。
アキラは、3人の中で一番背が高く、フチつきの帽子をかぶっていて、黙々と公園の隅にある倉庫っぽい建物の壁を相手に、サッカーの練習をしていた。
キャッチボールとはちがって、なんかひとりで練習するのが楽しいのだ、というのがアキラの話である。
4人はみんな、「遊びダマ」と4人が勝手に呼んでいるボールを持っていた。
大きさや重さは自由に変えられるし、試合とかで使われる公式の球と比べると、子ども用というか、オトナが使うものよりも扱いやすいサイズにできる。
センセイは、みんなにひとつつずつ、新学期がはじまったら配ったけれど、ナツミはすでに3回はなくしていた。
*
ミユキは、ナツミの自転車よりさらに軽そうだけど丈夫そうな、でも色はパステルピンクの自転車を持っていて、あずまやみたいな建物の脇に立てかけてある。
アキラは、寝そべっても乗れるんだ、という、チェーンとサドルが変な形についている、リカンベントというミクグリーンの自転車で、ミユキとすこし離れた場所においてある。
このふたりは、仲がいいのか悪いのかわからない。
ただ、4人だとあまり喧嘩をしても、ほかの誰かと仲良くする、なんてことはしにくいので、実際のところ、適当な距離を置いてるんだろうな、と、コハルは思った。
みんなは、友だちというより、仲間、という感じだろうか。
なにしろ、ほかに誰かいるとしても、4人の観測できる範囲には、誰もいない。
オヤとかキョウダイとか、同学年とか上級生・下級生とかというのは、コハルも携帯端末の情報でしか知らないのだった。
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