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午後2時30分~40分 冷蔵庫の中で見つかったものについて考える

47・それでもいい。だが、おれは物語部員なので物語を作る

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「容疑者は全員揃ったようだな」と、おれは言った。

 さほど広くない物語部の部室に、集まっているのはおれを含む12人。

 全員の紹介はたびたびすぎるんで省略する。

「容疑者って、そんなことより、普通に逃走した連続殺人犯探すんじゃないんですか」と、松川志展まつかわしのぶは言った。

「それでもいい。だが、おれは物語部員なので物語を作る」

 おれは話しはじめた。

     *
 だいたい、常識的に考えて、こんな雷雨とヒョウと洪水で閉鎖された状態の学校に、美少女探偵の元物語部員が来たり、真・世界の真・物語部員が来たりする、というのがおかしい。

 つまり、これは嘘だ。

 嘘だからといって、つじつまが合わない作りにしてしまうわけにはいかない。

 おれたちの身長や顔かたち、瞳や髪の毛の色などが途中から変わっていたりするということにはならないよう、またお互いに何と呼んでいるかは、作者が設定のメモとしてどこかに残してあるはずだ。

 たとえば、おれは市川醍醐いちかわだいごを「市川」と呼び、樋浦清ひうらせいは「市川くん」と呼ぶ。

 本筋とは関係ないような話に見えるだろ。

 だが一応関係はあるんだ。

 さらに、この話が物語だったとしても、時間の流れは曖昧ながら実際の流れに対応している。

 つまり、妙なつじつま合わせがある。

 さて、ここで不思議なことは、これだけの人数が集まってだらだらと、自分が話す番を待っている登場人物がいながら、樋浦清ひうらせいはお茶を出そうとはしない。

 電気ポットには熱いお湯もあり、日本茶のティーバッグも、紙コップも特に不足はないはずだ。

 どうしてだ、清。

     *

「別におれの妹はみんなのお茶くみ係じゃないぞ。そう言えばちょっと喉がかわいたな。自分でお茶入れよう」と、樋浦遊久ひうらゆく先輩(首)は言った。

「待ったあああっ。ちゃんと人の話を最後まで聞いててくださいよ先輩」と、おれは言った。

「我もソナエに同意する。それに冷えたスイカと熱いお茶というのは組み合わせ的に疑問に思うぞ」と、ルージュ・ブラン(ルーちゃん)先輩も言った。

 おれは話を続けた。

     *


 ええと、どこまでだったかな、そうだ、ここでの事実が誰かの物語だったとしても、読み手の時間はおれたちの時間に対応している。

 曖昧にだけどね。

 だからおれが、だらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらと話をしたとすると、その間に流れる時間はざっくり1秒だ。

 今の時間はだいたい午後3時ぐらいで、もし物語が午後1時半にはじまっていたとしたら、ここまで読むのに読者が要する時間は1時間半、ライトノベルの文庫にして150ページぐらいだ。

 ここまではわかるな。

 でさあ、まだ嵐になる前、冷蔵庫と電気ポットの水が切れたので、清が1階の水飲み場水道の蛇口まで行った、ってことになってたろ。

 だけどそこまで、清の足なら往復に2~3分ぐらいのはずなのに、

 清、お前は下の階の調理室、夏休みの間は人がいないと閉まってはずの調理室に行って、そこで水をくんできたな。

 そして水と霊的な凶器を手に入れた。

 おれは覚えてるぞ。

 というより思い出した。

 お前が、ない、と言ったスイカが冷蔵庫にあったことで。

 お前がみた時点で、スイカがあったのかなかったのか、おれたちにはわからない。

 つまり、あったのになかった、と、嘘をついたのか、本当になかったのか、今のおれたちには知る方法がないんだ。

 曖昧な情報をもとに、なかったものをあったことにするのは、嘘つきで有名なおれたち物語部の部員ではなくても、普通の人間でもやっている。

 幽霊を見たとか、バブルの頃は、とか、戦争中は、みたいな、嘘か本当かわからないことなんて、いくらでも口にできる。

 このスイカは、みんなが冷蔵庫にあったらいいな、という願望によって、非実在から実在に変わったものなのかもしれない。


 で、清、お前だけが見ていて、お前以外のものが見ていないところが実はこの部屋にもうひとつある。電気ポットの中だ。

 お前は、このようなことをした。

『まだお湯が残っているか確認して、電気ポットから注いだお湯で渋くて熱いお茶を紙コップに淹れてヤマダとルーちゃん先輩、それに松川志展まつかわしのぶ関谷久志せきやひさしに渡し、冷蔵庫に入っていた水を電気ポットに注ぎ足した。』

 さて、その時点では確かに、電気ポットのお湯はあったが少なかったかもしれない。

 そして、それ以外の何もなかったかもしれない。

 だが、今は何かがある。

 不吉で、まがまがしく、狂気で磨きをかけた曖昧で冒涜的な凶器が。

     *

 おれは電気ポットを指差し、物語部の部室の全員がそれを凝視した。

 その中の何人かは冷たい汗を流したことだろう。

 特に、お茶を飲んだ、神であるヤマダ以外の3人は。

「では、その中を確認する前に、真犯人に関する物語を作ろう」と、おれは言った。
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