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第十五章 土曜日は決戦

15-4話 ごつごうしゅぎてきって何?

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 脳内駅で降りる前に、負傷した人やヘトヘトになったりした神様たちは、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんが用意した「死にそうなダメージを受けているヒト・神様でも全回復する粉」をかけてもらった。これは破れた服も元通りになるという魔法の粉だが、若干問題がある。

「高価ですよ?」と、田部良さんは耳打ちした。またそれか。

 神様は神様の健康保険に入っているので基本的に無料らしいんだけど、ヒトの健康保険はきかないとのことで、インフルエンザの診療と薬代ぐらいの金がかかった。ウミウシ退治の精算で、神様と奉仕部には多大な金が入ってくるらしいにしても、それは公金なのでおれたちには使えない。

     *

 脳内カフェは今日の午後は貸し切りで、今まで話に出てきたみんなが集まることになった。

 立席パーティ形式で、いつもの椅子は壁と窓ぎわに並べられ、テーブルには軽い食事と飲み物が用意されて、店長はコーヒーと、非アルコール系カクテルをカウンターの奥で作っていた。

 クラスメートの愛綾子(あいあやこ)さんと志摩根雪歩(しまねゆきほ)さんは少しおしゃれな格好で談笑していて、志摩根さんの兄は山田先生とサム・ペキンパーの話をして、先生の妹の山田さくら先輩も話に参加していた。志摩根さんは午前中におれたちと一緒に映画を見た(昼食は別だった)し、映画館には兄も一緒だったのだが、違う高校なので少し離れたところにいたらしい。

 山田先生のグループには未来のおれもいて、その足元では未来の三絡克真 (みつがねかつま)さんがゴロゴロしていた。

 ミトラちゃんは未来のおれを見て「おとうさん! …というのはうそです」と言ったけれど、もっと未来のおれが真那木沙振(まなきさぶれ)さんと結婚していたらそれは本当かもしれない。樋裏聖(ひうらせい)先輩は子供が、というより子供の作る話みたいなのを聞くのが好きらしく、「それはどうかなあ」とか「それだったら」とか熱心に相手をしていた。

 小林美咲先輩と田部良さんは、西部劇時代の酒場っぽい音楽を、ピアノとギターで演奏しはじめた。生徒会長がブルースハープでそれに加わり、適当な歌が得意な真部岡恵留(まぶおかえる)さんも歌で参加した。

 時尾摩殊(ときおまこと)・摩盛(まもる)姉妹は、今日の午後採取した雑草を刻んで炒めたり、煎じてお茶にしたものを配布していた。ちゃんと洗ってあるから、犬のおしっこなんて気にしない! だそうである。

 偽バスケ部の男女6人は、奉仕部のメンバーでもあるので、飲み物やつまみものを、冴野美登里(さやみどり)と一緒に配っていた。

 菓子とかチョコレート類の提供はミス菓子研究会の提供で、そのメンバーと3年生の映像音響部部長・俊野詠美(としのよみ)先輩は最近のミステリー映画についてネタバレをがんがんしながら話していて、席夜晴香(せきやはるか)さんもうなずきながら話を聞いていた。俊野先輩は物語部にもいたことがあったらしいんだが、どうして今はいないのかというと「多分私とキャラかぶっちゃうからじゃないかな」と言って席夜さんは苦笑した。

 その隣には席夜さんの兄で剣道演劇部の副部長・席夜尚志(せきやひさし)先輩がいて、部長の大石吐夢(おおいしとむ)先輩ほか剣道演劇部の他のみんなも来ていた。

 悪役部の松平定子(まつだいらさだこ)さんとうちの高校のレジェンド・藤堂明音(とうどうあかね)先輩は談笑していて、松平さんの隣には三隅矩子(みすみのりこ)さんがいて、黒いオーラを漂わせながら黒い液体を飲んでいた。

 千登利門(ちどりもん)先輩は相変わらず女装をしてにこにこしながら、窓ぎわの椅子席に座り、その膝の上に頭を乗せて三絡克真 (みつがねかつま)さんはうとうとしていた。

 太刀花蘇苗(たちばなそなえ)先輩と依知川大悟(いちかわだいご)先輩はウーロン茶を飲みながら、カフェイン入りの飲料ではへべれけになる流奇奈紘季(るきなひろき)に、「おれたちの缶コーヒーが飲めないってのか」と無茶なことを言っていた。

 6人の妹たちはおしゃれな、髪の毛に合わせた色のドレスを着ていて、それぞれが一つの花のように、それぞれ別のグループで話をしては集まったりしていた。

 みんなは、お互い知らない人たちもいるので、自己紹介とこの話の感想を短く語ってもらい、最後に真那木さんはおれの左手の封印と左眼の通信機能を解除して(手の甲へのキスはすごく照れながらやってくれた)、妹たちはおれに7輪の花束をくれた。

 とか何とかしているうちに、ビッグ・サプライズが来た。

「えー!? シノブちゃん来てくれたんだ!」と、樋裏先輩は言った。

     *

 ベルつきのドアを鳴らして入って来た、なんか柴犬っぽい無視できない可愛らしさを持っている人は、おれたちの高校の2年生で現役声優の松川忍(まつかわしのぶ)先輩で、もしこの話がアニメだったら、6人の妹の声を一人でやっていることになっている七色の声の持ち主だ。

「あれ? あれ? あれれ? えっと、劇場長編アニメの収録のあと、夜から夏アニメの第一回収録ってことで、一旦ビジネスホテルに戻って仮眠してたらここだよ! ここは夢の世界だよね?」と、松川先輩は言った。

「この脳内カフェは実在は不明ですが、6人の妹がいた世界は、かつて存在していました」と、おれは言った。

「先輩、わたしたちの声をやられたときには、監督からどのような指導がありましたか? 「もう少しピンクっぽい色の感じで」とか、そんな感じ?」と、図々しいピンクの髪の妹は聞いた。

「もうちょっっっっっと、アクション抑え気味にして、ってしょっちゅう言われた」と、松川先輩は言った。

 ものすごくアクション抑え気味にしたんだろうなあ。

「で、この話の本当の結末はどうなるのよ?」と、紫色の髪の妹は言った。

「それに関しては、作者からテキストを預かってます」と、脳内カフェの店長は言って、タブレットのテキストをみんなに回し読みさせた。

「これはくだらない。ひどい夢オチだ。これならご都合主義的なミトラちゃんが考えた話の結末のほうがずっといい」と、太刀花先輩は言った。

「ごつごうしゅぎてきって何?」と、ミトラちゃんは聞いた。

「うん、まあ、どちらの結末も悪くないんじゃないかな。じゃあ両方とも公開して、読者の意見を聞いてみたらどうだろう」と、依知川先輩は言った。

「そうだな、ぼくだったらたとえば結末は…」と、樋裏先輩は考えながら話しはじめて、一同は盛り上がった。

     *

 おれは松川先輩に、7輪の花の1輪、真ん中にあった白い花を渡し、残りの束を持ってそっと脳内カフェを出た。

 おれにはまだしなければならないことがある。

 家に帰って最後の残りのカレーを食べたあと、そのナベを洗うのだ。
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