80 / 95
第十三章 金曜日の妹はいない
13-2話 1200年分の王国の歴史を作った
しおりを挟む
結局席夜晴香(せきやはるか)さんは昼休みには来てくれなかった。
この世界ではひとりしかいない妹であるエリーに聞いたところでは、今日は体調が悪くてお休みする、という連絡が、クラス担任の先生にあったそうだが、エリーのほうからはメールがつながらないらしい。
自分ももう早退しようかな、と思ってた午後の授業中に、兄上からのメールが来たようなので、自分はそれを5時間目の休み時間に確認した。
「放課後物語部に来い」
そう言えばこの世界には物語部はあるんだろうか。自分、というより自分を含むみんなのラストホープである。
*
物語部は新校舎の最上階にある図書室の隣にあることになっているが、普通の人には図書準備室で、招待された人もしくは物語部員でないと行くことができない。
金色に輝く部室のドアを開けると、逆光を浴びて兄上と、それにいろいろ不満そうな紫色の髪の自分、つまり昨日の自分がいた。
「ほら、スマホ交換しよう。お前のは返す」と、兄上は言った。
つまり、兄上は妹のスマホで連絡をくれたんだな。
スマホのカバーの色は、その日の妹の髪の色とほぼ同じで、兄上のものは何かよくわからない、いろいろな色が混ざった昔の抽象絵画みたいな色であり、自分は青いカバーのスマホを受け取った。
「じゃ、ドア閉めてもう一度入って来て」
ふう、とため息をついていったん廊下に出ると、廊下から見える窓の外は景色が変わっている。正確には、見ている景色の視線位置が変わっている。
あ、あれ? と思って、手とか顔とか胸とか触ってみると、兄上じゃなくなって、いつもの自分に戻ってる。服装もスカートではないけれど、ボーイッシュな女子が着るようなものに変わっている。
やった、やったよ、やったじゃん兄上、と再び部室に入ると、中にはよく見ると憔悴している兄上と、大きなクマのぬいぐるみをかかえた席夜さん、きっとなんとかしてくれる席夜さんがいて、昨日の妹はいなかった。
「1200年分の王国の歴史を作った」と、兄上は言った。
「ちゃんと桜貝とウミガメと玉子が出てくる歴史。ものすごく席夜さんが助けてくれた」
「だ、大丈夫、兄上?」
「田部良さんに3日寝なくてもすむけど4日目には死ぬ薬をもらった。いや、本当に死にはしないけど死んだように眠る薬だから安心して。おれが? このおれが? 大丈夫だって? 全然元気だよ、ヒャッハーって言いたくなるくらい。おれは神だ!」
どう見ても大丈夫じゃない。
「私は少しだけ寝ます。何かあったら起こして」と、席夜さんは言って、クマのぬいぐるみをかかえて部室のソファに横になったので、自分はタオルケットをかけてあげた。
「宴会芸だって考えて、それの小道具も田部良さんが用意した」
はいはい、それは楽しみですね。
おわかりの通り、自分は冷笑系な性格づけがされているのである。
しばらく自分の語りをお楽しみください。
この世界ではひとりしかいない妹であるエリーに聞いたところでは、今日は体調が悪くてお休みする、という連絡が、クラス担任の先生にあったそうだが、エリーのほうからはメールがつながらないらしい。
自分ももう早退しようかな、と思ってた午後の授業中に、兄上からのメールが来たようなので、自分はそれを5時間目の休み時間に確認した。
「放課後物語部に来い」
そう言えばこの世界には物語部はあるんだろうか。自分、というより自分を含むみんなのラストホープである。
*
物語部は新校舎の最上階にある図書室の隣にあることになっているが、普通の人には図書準備室で、招待された人もしくは物語部員でないと行くことができない。
金色に輝く部室のドアを開けると、逆光を浴びて兄上と、それにいろいろ不満そうな紫色の髪の自分、つまり昨日の自分がいた。
「ほら、スマホ交換しよう。お前のは返す」と、兄上は言った。
つまり、兄上は妹のスマホで連絡をくれたんだな。
スマホのカバーの色は、その日の妹の髪の色とほぼ同じで、兄上のものは何かよくわからない、いろいろな色が混ざった昔の抽象絵画みたいな色であり、自分は青いカバーのスマホを受け取った。
「じゃ、ドア閉めてもう一度入って来て」
ふう、とため息をついていったん廊下に出ると、廊下から見える窓の外は景色が変わっている。正確には、見ている景色の視線位置が変わっている。
あ、あれ? と思って、手とか顔とか胸とか触ってみると、兄上じゃなくなって、いつもの自分に戻ってる。服装もスカートではないけれど、ボーイッシュな女子が着るようなものに変わっている。
やった、やったよ、やったじゃん兄上、と再び部室に入ると、中にはよく見ると憔悴している兄上と、大きなクマのぬいぐるみをかかえた席夜さん、きっとなんとかしてくれる席夜さんがいて、昨日の妹はいなかった。
「1200年分の王国の歴史を作った」と、兄上は言った。
「ちゃんと桜貝とウミガメと玉子が出てくる歴史。ものすごく席夜さんが助けてくれた」
「だ、大丈夫、兄上?」
「田部良さんに3日寝なくてもすむけど4日目には死ぬ薬をもらった。いや、本当に死にはしないけど死んだように眠る薬だから安心して。おれが? このおれが? 大丈夫だって? 全然元気だよ、ヒャッハーって言いたくなるくらい。おれは神だ!」
どう見ても大丈夫じゃない。
「私は少しだけ寝ます。何かあったら起こして」と、席夜さんは言って、クマのぬいぐるみをかかえて部室のソファに横になったので、自分はタオルケットをかけてあげた。
「宴会芸だって考えて、それの小道具も田部良さんが用意した」
はいはい、それは楽しみですね。
おわかりの通り、自分は冷笑系な性格づけがされているのである。
しばらく自分の語りをお楽しみください。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる