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第十三章 金曜日の妹はいない

13-2話 1200年分の王国の歴史を作った

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 結局席夜晴香(せきやはるか)さんは昼休みには来てくれなかった。

 この世界ではひとりしかいない妹であるエリーに聞いたところでは、今日は体調が悪くてお休みする、という連絡が、クラス担任の先生にあったそうだが、エリーのほうからはメールがつながらないらしい。

 自分ももう早退しようかな、と思ってた午後の授業中に、兄上からのメールが来たようなので、自分はそれを5時間目の休み時間に確認した。

「放課後物語部に来い」

 そう言えばこの世界には物語部はあるんだろうか。自分、というより自分を含むみんなのラストホープである。

     *

 物語部は新校舎の最上階にある図書室の隣にあることになっているが、普通の人には図書準備室で、招待された人もしくは物語部員でないと行くことができない。

 金色に輝く部室のドアを開けると、逆光を浴びて兄上と、それにいろいろ不満そうな紫色の髪の自分、つまり昨日の自分がいた。

「ほら、スマホ交換しよう。お前のは返す」と、兄上は言った。

 つまり、兄上は妹のスマホで連絡をくれたんだな。

 スマホのカバーの色は、その日の妹の髪の色とほぼ同じで、兄上のものは何かよくわからない、いろいろな色が混ざった昔の抽象絵画みたいな色であり、自分は青いカバーのスマホを受け取った。

「じゃ、ドア閉めてもう一度入って来て」

 ふう、とため息をついていったん廊下に出ると、廊下から見える窓の外は景色が変わっている。正確には、見ている景色の視線位置が変わっている。

 あ、あれ? と思って、手とか顔とか胸とか触ってみると、兄上じゃなくなって、いつもの自分に戻ってる。服装もスカートではないけれど、ボーイッシュな女子が着るようなものに変わっている。

 やった、やったよ、やったじゃん兄上、と再び部室に入ると、中にはよく見ると憔悴している兄上と、大きなクマのぬいぐるみをかかえた席夜さん、きっとなんとかしてくれる席夜さんがいて、昨日の妹はいなかった。

「1200年分の王国の歴史を作った」と、兄上は言った。

「ちゃんと桜貝とウミガメと玉子が出てくる歴史。ものすごく席夜さんが助けてくれた」

「だ、大丈夫、兄上?」

「田部良さんに3日寝なくてもすむけど4日目には死ぬ薬をもらった。いや、本当に死にはしないけど死んだように眠る薬だから安心して。おれが? このおれが? 大丈夫だって? 全然元気だよ、ヒャッハーって言いたくなるくらい。おれは神だ!」

 どう見ても大丈夫じゃない。

「私は少しだけ寝ます。何かあったら起こして」と、席夜さんは言って、クマのぬいぐるみをかかえて部室のソファに横になったので、自分はタオルケットをかけてあげた。

「宴会芸だって考えて、それの小道具も田部良さんが用意した」

 はいはい、それは楽しみですね。

 おわかりの通り、自分は冷笑系な性格づけがされているのである。

 しばらく自分の語りをお楽しみください。
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